ENVii GABRIELLA、メジャー1stアルバム『ENGABASIC』でたどり着いた“らしさ”とは? 6年の活動で手にした進化と使命を語る
マイノリティだとしても、大前提として“人間である”ということが大事
――2曲目「オワッテンネ」もメッセージ性の強い曲です。「ここまでLGBTQをテーマにしたことは初めて」とのことですが、今回、LGBTQへの考えを曲にしようと思ったのはどうしてだったのでしょうか?
Takassy:テレビでもSNSでもトランスジェンダーについての話がよく話題になっていて、視聴者の方から「どう思いますか?」という質問もよく届く。でも、私たちのスタンスとして、YouTubeでLGBTQについて深く話すつもりはなくて。私たちはアーティストなので、もしLGBTQについての自分たちの意見を発信するなら、音に乗せるべきだし、エンターテインメントに昇華して出すべきだと思っていて。だからこそ、今このタイミングで明るい楽曲に乗せるというエンターテインメントを使って、「人ってそもそも思いやりが大事じゃない?」という根本の話をしたかった。
Kamus:「国の恥」なんて言葉が出てくるくらいだし、歌詞に書いてあることはわりと辛辣で、「あれのことかな?」「これのことかな?」と思う方もいらっしゃるような攻めている曲ではありますけど、本当に言いたいことはさらに奥のことで。「それは優しくないじゃん」「悪いことをしたら悪いじゃん」っていう、それだけなんですよね。
HIDEKiSM:LGBTQに特化した曲と謳っていますけど、私はそれよりも「多様性だから言いたいことを言ってもいい」みたいなノリに対して「根本は違うんじゃない?」と問いかけるということがいちばんの肝なのかなと思っていて。歌詞にも出てきますけど、多数派だろうが、マイノリティだろうが、男女であろうが、LGBTであろうが、何歳であろうが、それ以前に大前提として“人間である”ということがいちばん大事なのかなと思っています。一見パンチはあるけど、中身は思いやりのある曲だなと感じています。
――まさに強い言葉を、でも軽やかに歌っているという印象ですが、ボーカルレコーディングの際に意識したことはありますか?
Takassy:ライトに歌うということは意識しました。あと、私がメインに出るところでは、ストレートに歌うということを心がけていて。というのも、HIDEKiSMさんはいろいろな声色を出せる人なので、この曲でもさまざまな声を出してもらっているんです。〈クソババア〉とか〈カニバサミ〉とか、わけのわからないワードもいっぱい出てくるんですけど(笑)、HIDEKiSMさんがカラッと歌ってくれているおかげで、ポップでカラフルな印象になりましたね。
HIDEKiSM:曲調がファンクなので、跳ねるような歌い方は意識しました。軽快なほうが合うと思ったので。あとは、歌詞のパンチが強いぶん、ライトに聴いて楽しんでもらいながらも、メッセージを伝えられたらいいなと思いながら歌いましたね。
――4曲目「PAY ME」も、ものすごくかっこいいですよね。初の全編ラップの曲ですが、全編ラップの曲を作ろうと思ったのはどうしてですか?
Takassy:楽しそうだから(笑)。ENVii GABRIELLAでは、いろいろなジャンルの曲をやってみたいという気持ちもあったし。私もヒップホップがもともとすごく好きなので、一度はやってみたいなと思っていて。
――実際に全編ラップの曲に挑戦してみて、いかがでしたか?
Takassy:難しかったですね。この曲を作るにあたってすごく研究したんです。ラップやフロウにも流行り廃りがあって、ライムの踏み方や歌詞の書き方、歌い方が時代によって全然違うんですよね。でも、私たちの体にその世代のラップが染みついてるから、最初はどうしても90年代っぽい感じになっちゃって(笑)。そこから、さらにいろいろな人のラップを聴いてみたり、真似てみたりしたので、完成するまでに時間かかりました。アレンジも、Carlos K.さんとのやりとりがいちばん長かった曲で。10バージョン以上作りました。「ただラップをやってみたいからラップの曲を作りました」という感じにはしたくなかったんです。やるからにはちゃんとしたものを作りたかったので、ギリギリまで粘りました。
――歌詞も「ヒップホップやラップに敬意を払いたい」という想いから、本音をさらけ出したものにしたそうですね。
Takassy:そうなんです。ラップって、もともとは貧困街とかゲットーに住んでいる人たちが、日々の暮らしの不平不満やマインドを吐き出すものとして生まれたもので。どんなに時代を経ても、そのスピリットはラップには欠かせないものだと思うんです。そのジャンルに触れるからには、私たちもお飾りのラップじゃなくて、ギリギリまで自分たちの本音を入れるのが礼儀かなと思って書きました。
Kamus:私はもともとこういう曲調が好きなんですけど、Takassyがすごく研究してくれたのを感じました。この曲、実は私の声が入っているんですよ。笑い声とかセリフとか。どこに入っているかは皆さんに探していただければと思います。
――皆さんそれぞれが特に好きなフレーズや好きな曲を挙げるとしたら、どの曲になりますか?
Takassy:全部好きだもんな〜。でも……もし「1曲だけラジオで流せたらどの曲にする?」と言われたら、「90’s」を流してもらうと思います。
――90年代のJ-POPのタイトルを並べるという、遊び心がありながらもノスタルジックな一曲ですよね。
Takassy:“曲のタイトルを繋ぎ合わせた曲”というものを、いつか作ってみたいと思っていたんです。そうしたら、数年前にTikTokで流行って。「やられたわ!」と思ったんだけど、まだ日本ではやっている人はいなかったから、「今だ!」と思って作りました。最初にできたのは〈Tomorrow never knows でも/don’t wanna cry〉というサビのド頭。訳すと、「明日のことがわからなくても泣かない」。「めちゃくちゃ切ない歌詞ができた!」と思って、そこからはするっとできましたね。作るのも面白かったし、歌詞を書いていて私もノスタルジックな気持ちになったし。自分の家のCDラックみたいな曲ができた感じで、すごく気に入っています。
Kamus:私ももちろん全曲好きですけど、特に「The Crown -No necesito, No quiero-」はいちばん好み。ラテン調の音に中二病っぽい歌詞が入っていて――。
Takassy:それ、悪口だからね(笑)。
Kamus:私も中二病ですから(笑)。
HIDEKiSM:ふたりとも中二病でしょ?
Takassy:あんたもでしょ(笑)。いや、あんたは中年病か!
一同:あはははははは!
Kamus:話を戻しますね(笑)。この曲は、歌詞の内容や歌い方も含めて、“熱いけど冷たい”“火だけど青い”みたいな、ただの“熱さ”とは別のものも感じられるような、たゆたえる曲で好きです。このあいだ、この曲をリピートしながら帰っていて。雨が降っていたんですけど、傘を忘れてしまって、濡れながらこの曲で踊りながら帰ったんです。そんな自分が好きでした。
Takassy:いや、普通に危ない人じゃん(笑)!
Kamus:たぶんこの曲にハマった人は、私と同じように雨の中で聴いて踊り狂ってくれるんじゃないかな。風邪にだけ、気をつけていただいて(笑)。
HIDEKiSM:私は「オワッテンネ」のDメロかな。〈偽善者 そう呼ばれてもいい〉のところ。オネェやアーティストには、すごく主張の強い印象があると思うんですけど、私が思っているのは、ここの歌詞に書いてあることそのもの。私、宇多田ヒカルさんの「誰かの願いが叶うころ」(2004年4月リリース)が大好きなんですが、自分を主張したり意見を押しつけたりすることによって、誰かが窮屈になるのは避けたいと思っていて。LGBTQに関してもそうだし、自分の生き様や、社会人としてもそう。だから、特にこの歌詞は聴いてもらいたいなと思いますね。