Queens Of The Stone Age、Foo Fightersと共に“ロック低迷”のシーンに風穴を開ける? 快作『In Times New Roman...』を聴いて
その後、バンドは次の作品に向けた準備を始めるかと思われた。しかし、2020年初頭に新型コロナウイルスの猛威によって世界情勢が一変。ライブはおろか、バンドマンが顔を合わせてセッションや制作を行うことすら難しい世の中になってしまう。ロックダウンを経た2021年にバンドメンバーは次作に着手し始めるも、ジョシュは音楽と距離を置き、家族や友人との時間を大切にしながら日常生活を送り続ける。しかし、状況が少しずつ良い方向に向かい始めた2022年秋からジョシュも制作に加わり、バンドのセルフプロデュースによる待望の8thアルバム『In Times New Roman...』が完成したわけだ。
基本的なテイストは前々作『...Like Clockwork』、前作『Villains』の延長線上にあると言える。事実、ジョシュは本作を含むこの3作を3部作と呼んでおり、さまざまな点で共通点も見つけることができるだろう。しかし、この最新作にはそういった“過去作との連続性/関連性”だけにはとどまらない、ライトなロックファンからディープなリスナーまでもを惹きつける魅力を豊富に見つけ出すことができ、聴き返すたびに新たな発見のある濃厚な1枚でもある。
ソリッドなギターリフを軸にしつつ、そのリフたちが幾重にも重なり合うことで生まれる独特のハーモニーと、ヘヴィな音像で埋め尽くすのではなく隙間を作ることで音のダイナミズムを強調させることに成功したリズムトラック、一度聴いたら耳から離れない、甘美で親しみやすいメロディが生み出す独特のアンサンブルは、過去のどのアルバムよりも鉄壁のように映り、その一方でもっともラフでシンプルにも響く。捉え方次第でどちらにも解釈することができるその多彩さは、これぞロックンロール・マジックといったところだろうか。
サウンドメイクに関しても、『...Like Clockwork』以降の作品での経験が随所に反映されており、王道感と先鋭さが同居する作りと言えるだろう。曲の途中で突然ストリングスサウンドが飛び込んできて空気を一変させるオープニングトラック「Obscenery」の、肉感的バンドアンサンブルと繊細なストリングス、デジタルエフェクトが混在する作風と、日本人の琴線に触れる“泣き”の要素を含むメロディの融合は、QOTSAのひとつの到達点と言えるものだ。
グルーヴィーなリズム&リフワークと堪能的なメロディを持つ「Negative Space」、ダンサブルなノリに浮遊感の強い歌やエフェクトが重なることで不思議な存在感を放つ「Time & Place」、グラマラスさが際立つ「Made To Parade」、1960年代のサイケデリックロックを2020年代に新たな視点で昇華させたような「Sicily」、ソウルミュージックを通過したモダンなハードロック「Emotional Sickness」、QOTSAが結成時から対峙してきた音楽に対するひとつの応えとも言える7分強のアルバムラスト曲「Straight Jacket Fitting」など、どの曲も非常に個性的で聴き応えのあるものばかり。
聴きやすさの点で言えば、実は過去の作品中で1、2を争うほどの仕上がりかもしれない。ここ数作の集大成的な内容であると同時に、現在進行形のミュージックシーンにも呼応したその作風は、USハードロックならではの豪快さを強く打ち出しながらも、メロディや歌詞の随所に苦難の4年間(=コロナ禍)を経たからこその繊細さもにじませており(盟友マーク・ラネガンやFoo Fightersのドラマー、テイラー・ホーキンスなど友人との別れもその要因になっているのだろうか)、聴き込むたびに発見のある1枚と言える。
デイヴ・グロールが心友(テイラー)との別れを経て『But Here We Are』にて新たな一歩を踏み出したように、ジョシュもまた前作から6年という長いインターバルを経てこの最新作『In Times New Roman...』で新しい道へと進み始めた2023年。この2枚で“ロック低迷”のUSミュージックシーンが大きく変わる……というのは大袈裟かもしれないが、現在のシーンにおけるカリスマ2人が満を持して送り出すこの傑作2枚は、本国のみならず世界中で「Rock is STILL alive!」と高らかに宣言することになるはずだ。と同時に、ここ日本でも最高傑作と呼ぶに相応しい『In Times New Roman...』を通じて、これまで以上にQOTSAの名が広まるはずだと確信している。
■リリース情報
Queens of the Stone Age『In Times New Roman...』
発売中
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https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13404
<トラックリスト>
01. Obscenery
02. Paper Machete
03. Negative Space
04. Time & Place
05. Made to Parade
06. Carnavoyeur
07. What The Peephole Say
08. Sicily
09. Emotion Sickness
10. Straight Jacket Fitting