さだまさしは歌の中で喜怒哀楽を肯定する 50年間の音楽家人生を経て辿り着いた“懐かしくて新しい境地”

 その他、〈亡き友〉と語らい、酒を飲む姿を描いた「昭和から」、さだ自身の死生観、人生観がまっすぐに伝わってくる「愛によって」、日本の秋の美しさと無常を滲ませる「中秋無月」、その場の状況によって左右される善悪に惑わされず、真実を見つめようとする「わたしはあきらめない」など奥深い滋味をたたえた楽曲が並ぶ本作。特に心に残ったのは、「私の小さな歌」だった。田代耕一郎のガットギター、さだの歌だけで編成されたこの曲は、〈美しい港町で生まれた〉というフレーズから始まる。幼少期の故郷の思い出、そして、迷い、苦しみながらも歌い続けてきたこれまでの人生——。長きに渡り、歌を作り、歌い続けてきたさだまさし。もちろん辛いこと、厳しいことも多かったはずだが、デビュー50周年を迎えた現在、〈未来へ届く歌を尋ね尋ねて/明日も生きようと思う〉という一節にたどり着いたことこそが、音楽家としての本当の成功なのかもしれない。

 タイトル曲「なつかしい未来」には〈これからはあなたを歌う〉という歌詞があるが、さだは一貫して、聴き手に寄り添ってきたシンガーソングライターだ。本作『なつかしい未来』を聴けばおそらく、自分の人生を振り返り、いろいろな思いが去来してくるはずだ。言うまでもなく、現在の自分は過去の自分(たち)の積み重ねの結果。もちろん良いことも悪いこともあっただろう。思い描いた通りの人生を送っている人はほとんどおらず、“こんなはずじゃなかった”と思っている人も多い(筆者ももちろん、その一人だ)。喜怒哀楽、悲喜こもごもを含めて、さだの歌は、リスナーの人生を丸ごと肯定してくれる力がある。そのことを実感できたこともまた、このアルバムの大きな意義だと思う。

さだまさし「なつかしい未来」アニメーション・リリックムービー

 最後に。このアルバムを聴いているうちになぜか、「初めてさださんの曲を聴いたのはいつだったかな」と考えた。筆者は、親戚のお姉さんがレコードを聴きながら、「“パンプキン・パイとシナモン・ティーに角砂糖2つ”って、甘すぎない(笑)?」と言っていたのを見たのが“初めてのさだまさし”だった。みなさんはどうでしょうか。

■リリース情報
さだまさし
44thアルバム『なつかしい未来』
2023年6月14日(水)発売
・初回限定盤(CD+DVD):¥5,500(税込)
・通常盤(CDのみ):¥3,850(税込)

【CD収録曲】
01, 序曲「未来へ」 ~さだまさしに捧ぐ~
02, はてしない恋の歌
03, 夢の街
04, ドレスコード
05, 昭和から
06, わたしはあきらめない
07, マイアミの歓喜もしくは開運 ~侍ジャパンと栗山英樹監督に捧ぐ~
08, 愛によって
09, 中秋無月
10, 私の小さな歌
11, なつかしい未来

【DVD収録曲】
●GRAPE 50年坂
一夜限りのグレープ復活コンサートat神田共立講堂 ~トークを中心にお届けするたっぷりダイジェスト~
●Annimation Movie
「主人公」
「ペンギンみなきょうだい2020」(short edit version)
「孤悲」(アルバムトレーラー)

さだまさし オフィシャルアーティストサイト

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