怒髪天 増子直純×柳家睦、己の音楽を追い求めて行き着いたロック バンドとしての生き様を語り合う

怒髪天 増子直純×柳家睦対談

ロックンロールを語る前に、男の仕事のひとつにバンドがある

増子直純と柳家睦

——今回の2マンは怒髪天から声がけしたそうですが、柳家さんは誘われてどう思いました?

柳家:他の人から誘われたって、2マンなんてやらないです。「(コロナ禍だから)声出さないでね」って増子さんが言って、お客さんもわかってる、そして怒髪天が受け止めている。お客さんとそういう関係性を持ってるバンドに「一緒にやろうぜ」って言われたら、「おう、当たり前じゃねぇかよ」ってなる。怒髪天のお客さんに会いたいなって。「俺もそこに混ぜて! 友達になって!」みたいな気持ち。今までライブにそういう気持ちで臨むっていうのはなかったから、今回一緒にやれるのは楽しみなんですよ。

増子:俺らがラットボーンズとやりたいなと思ったのは、うちのお客さんがラットボーンズをきっと「いい」と思ってくれるだろうな、というのがいちばんにあって。もうひとつは、俺らがこれまでやってきたこと、やり方というか、それを伝えたいっていうのがある。演奏が、曲が、ライブ運びが、とかではなく、バンドを進めていく方法というか。これは口じゃ説明できないんだよ。だから一緒にやることによってわかるものがあると思うんだよね。それを今回、ちゃんとむっちゃんたちに手渡したい。

柳家:そういうことをダイレクトに言わないんだけど、飯食いに行って、遠回しに伝えてくれるんですよ。

増子直純

——ロックバンドの先輩として、後輩に渡したいものがあると。

増子:バンドって、それぞれ違うから。俺らのフォーマットが全部ハマるわけじゃないし、難しいよね。ここは使えるなとか、ここはちょっと違うなとか。そこは一緒にやってみないとわからないと思うからね。一緒にやることはうちのメンバーも喜んでるし。

柳家:うちのメンバーも顔つきが変わっちゃって。音とか、そういうものじゃなくて、バンドの姿勢というか、怒髪天というバンドがどうやってここまできたか、っていうのをメンバーみんながわかったような気がするんですよ。人それぞれのバンド観や音楽観がある中で、仕事をしながらやってきた、こうやって音楽と向き合っていくんだっていう。俺はサイコビリーっていうジャンルの中で生きてきたんですよ。増子さんは札幌から出てきたときに、東京で細かく分かれているどのジャンルにも当てはまらなくて、もがいて、怒髪天というジャンルを確立してここまで来ている。俺はシーンに照らし合わせちゃってた。シーンに残るっていうのは、汚い言い方をするとパーティだから。終わっちまえば何もない。でもずっとバンドでやっていくというのは終わらせちゃいけない。そういうことがこの歳になってグッとくるというか。ロックンロールを語る前に、男の仕事のひとつにバンドがある、怒髪天にはそれが見えるから、メンバーもそこを感じたのかなって。

——怒髪天というバンドの生き様ですよね。

増子:バンドっていうものの在り方と、それを仕事にできた道というか、それは見えると思うんだよね。俺らは商売に寄ってこなかったから。もうちょっと上手くできたんじゃないかなと思うこともあるけど、それができなかったんだよ。それでも生き残ってきたから、その道をちゃんと渡したいというか。だからぜひ、ラットボーンズに音楽で食っていってほしい。音楽に1日中時間を掛けられる環境になって、とことんやってみてほしいんだよね。俺らも時間が足りなくてできなかったことって、いっぱいあったから。バイトして、肉体労働して、もう疲れちゃって。あと1時間練習したかったけど、今日はもう無理だ、体が重くて眠くなっちゃった、ということがよくあった。そこから1日24時間、自分の音楽に時間をかけられる環境になると、できるものをもっと突き詰められる。それをぜひやってみてほしい。その価値のあるバンドだと俺は思ってる。新しいジャンルといったら大袈裟かもしれないけど、他には絶対ないものだから。出てきただけでお客さんが、わーっとなるもんな。(渋谷クラブ)クアトロのライブもとてもよかった。周りに愛情が感じられるっていうのは素晴らしいよね。

柳家:こうやって増子さんが言ってくれるから、その期待に応えたいって思ってるんですよ。増子さんもそうなんだけど、もしかしてお客さんもそう思ってるのかなって。「期待に応える」って、いちばんやったことないんだけど(笑)。

増子:(笑)。それね、俺もそうだったのよ。バンドなんて興味がなくなったら明日にでもやめようと思ってたから。それがやっているうちに「期待してくれている」ことに対しての責任じゃないけど、もう怒髪天は俺だけのものじゃないんだなっていう。ちょっと寂しくもなっちゃったんだけど、心地よい責任感というか。背中に掛かってくるんだけど、嫌な重さじゃない。

柳家:コロナ以前/以降っていう言い方はあれかもしれないけど、イヤな野郎も腐るほどいるんだけど、優しい人もいっぱいいるんだなって。それまでは、優しい人って裏があるんじゃねぇかな、ってどうしても素直に喜べない性格だった。でも入院して死ぬか生きるかという状況になって、少し世の中の見方が変わってきた。優しい言葉をかけてくれる人や、増子さんが言ってくれたことに対して、素直に嬉しいなって思えた。だったら、どこまでできるかわからないけど、やってみようかなって思えるようになった。

増子:俺がラットボーンズに思ってることって、本来は北海道出身の10代、20代の若いバンドに向けなければいけない気持ちなんだろうけど、50代の友達のバンドに対してそう思ってる(笑)。

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