椎名林檎、最強のバンドで届けたツアーファイナル 濃厚かつ緻密に磨き上げられた、息つく間もないステージに

 「初めて江戸弁の猫の口調で詞曲を書きました」と紹介した5月24日リリース予定の新曲「私は猫の目」では、猫っぽいコスチュームでダンサー Bambiが登場する映像が披露された。アマチュア時代からのバンド仲間である時津梨乃、そして田渕ひさ子、NYヒップホップの新星 BIGYUKIと録音したというこの曲は、ここでもエッジの効いたサウンドで聴かせる。「公然の秘密」は60年代風のビートが小気味好い。その流れを受けた「女の子は誰でも」ではドアのセットが持ち込まれ、パジャマに着替えた椎名がドアを開けて登場すると言う趣向。夢見る乙女つながりか、The Banglesの「胸いっぱいの愛」をカバーしたのも初めてのことか。

 白いエレガントなコスチュームに熊手のようなものを頭に被って現れた椎名は「いろはにほへと」を軽やかに歌い、これも林原めぐみに提供した「命の息吹き」をジャジーな演奏でセルフカバー。アニメ『おじゃる丸』(NHK Eテレ)エンディングテーマに書き下ろした「いとをかし」は林のグランドピアノが曲を色づけ、「長く短い祭」での浮雲のコーラスが流れるパートはグッズのフラッグで顔を隠すという細やかさ。そろそろフラッグの出番とオーディエンスが待ちかまえた「緑酒」に続いた「N I P P O N」で椎名はギターを持ち、風に吹かれコスチュームのおおぬさを踊らせながら会場中で振られるフラッグに応えた。最高潮で迎えた本編のエンディングだった。

 グレーのジャージとスカートに着替えてアンコールに応えた椎名は、この3年を振り返り「呑まなきゃやっていられない。もっと言うと呑んでもやっていられない日々を想像して、それに見合う演目をと思ったのですが、冗長になってしまいました」と和ませ、「江戸前と自負しているものですから曲は3分、アルバムは40分、ライブは90分で行きたいのですよ」などと珍しくフランクなMCをして、東京事変の「母国情緒」へ。生ピアノやアコーディオンが面白いレトロ感を醸し出し、椎名は間奏でスライドホイッスルを鳴らして軽妙な味を加えた。どっしりとスケール感のあるバンドサウンドで最後を飾ったのは「ありあまる富」。この日も実に多様なアレンジで椎名は歌ったが、どんなアレンジであれ演奏を凌駕するボーカルの存在感は変わらない。

 メンバーが去ったステージ後方に流れた映像は、SISがファミコンをするシーンからゲームの中へ。8ビット仕立てのエンドロールで「しいなりんごときゃつらとしょぎょうむじょうをしった」といった文字に続き、メンバーやスタッフの名前が並んだ。締めの言葉は「まいどあり」。ありきたりの感動などさせてたまるかと言わんばかりの幕引きに、また一本やられた。デビューから25年、私たちを翻弄してきた椎名林檎は、これからも変わらないようだ。

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