コーチェラの変革が決定的となった2023年 全ステージ配信が“アーティストの今後”に与えた大きな影響とは?

コーチェラの変革が決定的となった2023年

 そんな意義のある空間の中で厳しい状況を迎えてしまったのが、3組目のヘッドライナーであり、バッド・バニーやBLACKPINKよりも近年のコーチェラの傾向に近いアーティストであるはずのフランク・オーシャンだった。足の負傷によって当初予定していたセットができなくなってしまったことにより、開演時間の遅れやセット半ばでの終了、そもそも配信自体が直前のタイミングでキャンセル、2週目に至っては出演自体が取り止め(代わりにBlink-182のパフォーマンスと、スクリレックス/フレッド・アゲイン/フォー・テットによるDJセットが急遽決定した)という事態を招いてしまったのである(実際のパフォーマンスを巡っても様々な意見が噴出しているが、公式の配信がなかったため、ここでは触れないことにする)。

 特定のアーティストを特別扱いするのが良くないことは分かっているが、フランク・オーシャンといえば現代のポップミュージックにおいてもトップクラスの重要人物として扱われていることは明らかで、彼のためだけに海外からコーチェラの会場まで足を運ぶようなファンがいたとしても、個人的には全く疑問には思わない。もちろんやむを得ない事情ではあるのだろうが、そうしたファンの存在を考えると、どうにもいたたまれない気持ちになってしまう(残念ながら今回の件に伴う払い戻しは、コーチェラ側からは特にはないようだ)。

 本来であればそうしたことを考えるだけで済むはずなのだが、ここまで書いてきたように、コーチェラはもはや単なる一つの音楽フェスティバルではない。出演当日の急な出来事であったことも災いし、ソーシャルメディアを中心に、ある種の炎上に近い様相を迎えてしまったのである。彼のパフォーマンスを楽しみにしていたファンが失望を語ったTikTokの動画には100万以上の「いいね」がつけられ(※1)、本来であればステージに出演する予定だったアイススケーターが現場の困惑を語る動画が瞬く間に拡散され、例によって様々な真偽不明の噂がネットに溢れ返っていった。その背景には、それまで配信をずっと楽しみにしていたファンが、その楽しみを突然奪われてしまったことに対する困惑や怒りがあることは間違いないだろう。もちろん、コーチェラの配信は無料であり、そもそも現地がメインなのだから文句を言うのはわがままなのではないか、という指摘もあるかもしれないが、本来観られるはずだったものがなくなってしまえば、文句が出てくるのは必然的な流れだ。前述の通り、“コーチェラの出演=配信”というイメージや、配信を意識したアーティストの動きが目立ったこともまた、今回の出来事に対してさらにマイナスの印象を与えているように思える。これがもしも5〜6年ほど前であれば、ここまでの状況にはならなかったのではないだろうか。

 世界中の人々に向けて発信されているからこそ、運営/アーティスト/音楽ファンのすべてにとって、コーチェラのステージは極めて重要な意味を持っており、うまく働けば、これまで見過ごされてきた様々なコミュニティに光を当てるきっかけになったり、アーティストのメッセージを広く届ける場として活用することができる。だが、一方では、一つの失敗が瞬く間に世界中に拡散され、キャリアに大きな影響を与えるというリスクを抱えていることもまた、今回のコーチェラは示していた。

 コーチェラは、現地に行くことのできない世界中の音楽ファンが配信を楽しみ、それに伴ってフェスティバルはより特別な場所となり、さらに規模が膨らんでいくというサイクルを繰り返して成長してきた(現地の観客と配信勢の格差も、それに合わせてさらに拡大しているのではないかという気もするが)。“ロックフェスティバル”だった頃の面影はほとんど残っておらず、もはや巨大なモンスターのような存在と化したコーチェラだが、来年以降もその成長は続いていくのだろう。

※1:https://www.tiktok.com/@xyzsings/video/7222937561772199214

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