ぜんぶ君のせいだ。出会いと別れを経て“約束の場所=武道館”へ 命を燃やすように叫び続けた活動休止前ラストライブ
「うちら今めっちゃ幸せだけど、みんなも幸せ?」
それは、グループ結成時から語られてきた約束の場所だった。3月15日、ぜんぶ君のせいだ。(以下、ぜん君。)が日本武道館のステージに立ったのだ。
先の言葉は、唯一のオリジナルメンバーとしてグループを牽引してきたリーダー、如月愛海(きさらぎめぐみ)がライブ中に患い(ファンの総称)たちに尋ねたもの。2015年の結成から、ぜん君。は幾度もメンバー脱退と加入を繰り返してきた。それぞれの事情によって、ぜん君。のライブ会場から足が遠のいた“患い”たちもいた。そして、この数年で社会全体も大きく様変わりした。
そんな多くの変化があっても、「ぜん君。として武道館に立つ」という目標は変わらず掲げられ、この日まで走り抜けてきたのだ。その切なる願いが、溢れる愛が、諦められなかった熱意が、まるで花火のように打ち上がった夜。活動休止前のラストライブにしてなお、ぜん君。の未来を信じたくなるライブだった。
怒涛の2時間半ノンストップライブ
開演時間になると会場は暗転し、ドクンドクンと鼓動音が鳴り響く。はやる気持ちが抑えきれない患いたちの心臓だろうか、それとも夢を実現する5人のもの? 客席からは思い思いに歓声が上がっていく。すると真っ黒なスクリーンに白い小さな文字が重なり、合わせて聞こえてくる「ぜんぶ君のせいだ。」の囁き声。
その文字が徐々に「ぜんぶ君のせいだ。」を形作ると、ステージ一面が真っ赤なライトに照らされて警告音が耳をつんざく。一瞬の静寂。思い切り息を吸う音が聞こえた次の瞬間、「ぜんぶ君のせいだ!」と叫ぶ5人の姿が。
ドラムのカウント音が響き渡り、1曲目が「Cult Scream」だとわかると、会場全体がグッと前のめりになったように感じた。如月、もとちか襲(もとちかかさね)、メイユイメイ、个喆(こてつ)、そして武道館単独公演と同時に加入が発表された新メンバーの寝こもち(ねねこもち)が拳を突き上げて、客席を早速煽っていく。
上半身を反らせ全身で歌い上げる如月。髪の毛先・目線の配り方まで艶やかなもとちか。腹の奥底から込み上げる魂の歌声で聴かせるメイ。持ち前のポジティブさがにじみ出る軽やかなダンスで魅了する个喆。そして、新メンバーとは思えないほどぜん君。を表現してみせる寝。5人は生バンドの力強いサウンドに負けない、絶叫とも呼びたくなる歌声を披露していく。
そんな彼女たちに応えるように患いたちも手を上げて叫びまくる。その声援を聞いて、さらに彼女たちの魅せる力が磨かれていくようだった。「WORLD END CRISIS」では、地響きのごとくメイのシャウトが鼓膜を震わせ、「arcana ail」ではもとちかも負けじとデスボイスを披露。そんなハードな曲調を歌いこなしながらも、続く「aiHUMANOID」では5人が集まってステップを踏み、体をくねらせセクシーに踊る。その表現の振れ幅は、まさにぜん君。ならではのパフォーマンスだ。
「最後まで遊びきれるかー?」と如月が煽ると、「SCAR SIGN」のイントロが流れ、もとちかの〈この身焦がれて、尚、望ム〉がキマる。惚れ惚れするようなかっこよさと、抱きしめたくなる危うさと。全力でエネルギーをぶつけてくる5人に、思わず胸が熱くなる。そのまま現体制で撮影されたMVが映し出されたスクリーンをバックに歌われた「孤HOLIC」に、また胸がいっぱいになった。
「病みかわいいで世界征服! ぜんぶ君のせいだ。です」と自己紹介をした後は、そのままMCなしのノンストップで楽曲を披露。ステージを駆け回り〈笑い合おう〉の歌詞のままにメンバーの笑顔が印象的だった「@唯君論」。「まだまだいくよ!」と手を左右に振り、会場が一体になって盛り上がった「オルタナティブメランコリー」……。
花道に座って少しでも患いたちに近づこうとしたり、「みんなで!」と一緒に飛んだり跳ねたり。汗だくになって歌い踊るぜん君。と患い。今できることすべてをやり尽くし、その姿を目に焼きつけてほしいという彼女たちの願いがビンビン伝わってきた。同時に誰よりもこのステージを楽しむ5人の喜びも。メンバー同士で背中合わせで歌ったり、おでこをつけたり、おんぶをしてみたり。二度と戻らないこの瞬間に命を燃やすかのようだった。