楽曲制作力とプロデュースの才能を、音楽事務所CEOとして発揮するSKY-HI

　SKY-HIは2005年にAAAのメンバーとしてデビューしてから、グループ活動と並行し、レーベル非公認の取り組みとしてソロ活動をスタートさせた。都内のクラブシーンを中心に活動し、2012年には自身主催の楽曲制作企画で『FLOATIN’LAB』をリリース。KREVAなど多数のアーティストとの共演を経て、同年の「WOOFIN’ AWARD 2012 ベストオブラッパー部門」を受賞した。

　2013年には初の全国ツアーを開催し、8月にソロとして『愛ブルーム/RULE』でメジャーデビューを果たす。その後は毎年のようにアルバムをリリースしながら、全国ツアーやイベント、フェス出演などをハイペースにこなし、日本武道館公演や海外アーティストとのコラボ作品のリリースを成功させるなど、数々の実績を残している。

　そのようなSKY-HIのキャリアにおいて、アーティスト活動の成功はもちろんだが、やはり特筆すべきは音楽事務所・BMSGの設立ではないだろうか。彼はソニーミュージックとJYPエンターテイメントによる『Nizi Project』の成功を目の当たりにしたとき、「（ずっと日本にいたNiziUのメンバーを）誰も、発掘も、育成も、プロデュースもできなかった」ことに大きな危機感を抱いたのだという（※3）。そして、「今の日本の音楽産業はタイタニック号と同じ」と喝破しながら（※4）、これまでアンダーグラウンドで着実に積み重ねてきた楽曲制作やプロデュースの知見、経験、才能を、若手パフォーマーのために使うことを決意。2020年にBMSGを立ち上げてオーディションを開催し、今や『NHK紅白歌合戦』に出場するほど人気を集めるボーイズグループ・BE:FIRSTを輩出した。そして2023年3月末には、BE:FIRSTの勢いに続き、2組目のダンス＆ボーカルグループ・MAZZELのデビューを発表。世界を見据えて、次なるステージへと向かおうとしている。

　SKY-HIは自身がプロデュースするグループのメンバーに対して、あたたかで愛情深いまなざしを向けながらも、グループが世界で飛躍を遂げるためには何が必要なのかを冷静に分析する鋭い視点も併せ持っている。例えば、BE:FIRSTのMVでは、K-POPシーンのトレンドを踏まえたアプローチも多く見られる。2023年2月にリリースした「Boom Boom Back」では、昨今K-POPシーンでもNewJeansなどで見られるレトロ感ある映像や、数年前から続くレコードブームを背景としたモチーフを取り入れたりと、随所に表現への工夫とこだわりが感じられ、そのトレンド感や映像のおもしろさに思わず引き込まれてしまう作品となっている。SKY-HIの掲げる「クリエイティブファースト、クオリティファースト、アーティシズムファースト」の実践は容易ではないはずだが、これを有言実行でやり遂げている点は、彼の“すごさ”のひとつであり、圧倒的な手腕の成せる業と言えるのではないだろうか。

　また、直近では日本テレビとタッグを組み、日本から世界へ向けた大型プロジェクト『D.U.N.K. -DANCE UNIVERSE NEVER KILLED-』を立ち上げたことも記憶に新しい。同企画は“幾多のダンス＆ボーカルグループ（アーティスト）が垣根を越えて、日本から世界に発信していくプロジェクト”と謳っており、BMSG所属グループのほか、BALLISTIK BOYZ、&TEAM、超特急、s**t kingz、XYなどの豪華アーティストが参加している。そこはレーベルや事務所の枠組みを越えた、音楽という共通言語だけで繋がったユートピアとも言えるだろう。

　そして様々なプロジェクトを立案・実行するSKY-HI自身も、企業のいち経営者という枠に捉われない、熱いフロンティア精神を持ったイノベーターでもある。SKY-HIが今後、日本のエンターテインメントの世界にどんな青写真を描いていくのかは予想できないが、いずれの行動からも音楽シーンをより良い方向へと発展させたいとピュアに願う、高い志しが感じられる。

　ともにAAAのメンバーとして活動し、ソロでも大きな飛躍を遂げたNissyとSKY-HI。彼らはエンターテインメントへの強い想いを胸に、それぞれの領域でスキルと才能を発揮し、日本の音楽シーンに大きな影響を与え続けている。Nissyはインタビューの中で「『ここまできたら、目指す先はまだまだあるよね。行けるとこまで行きたいね』って話したんです」と語り（※5）、SKY-HIはMAZZELのデビュー発表記者会見で「メンバーは鮮やかな景色を、日本から世界中に届けてくれる存在」（※6）と、プロデュースするグループの世界進出に大きな意欲を見せた。彼らがその大きな夢を叶えたとき、私たちにどんな景色を見せてくれるのだろうか。

※1：https://withonline.jp/lifestyle/ent-news/LF0p0
※2、5：https://gendai.media/articles/-/62005
※3、4：https://www.businessinsider.jp/post-233176
※6：https://realsound.jp/2023/03/post-1293199.html