矢野顕子、オーディエンスを宇宙へ連れ出す新しい音楽体験 歌とピアノで“生命の喜び”を紡いだ感動の一夜をレポート

 国際宇宙ステーション(ISS)をテーマにしたエレクトロポップチューン「When We're In Space」(矢野顕子 & Reed and Caroline/アルバム『ふたりぼっちで行こう』/2018年)を挟み、「PRAYER」(アルバム『SUPER FOLK SONG』/1992年)、「ひとつだけ」(アルバム『ごはんができたよ』/1980年)。どちらも彼女のキャリアを代表する名曲だ。共通しているのは、今はそばにいない大切な人に向けた普遍的な愛だ。遠く離れた場所から、“あの人はどうしているだろう。元気でいてほしいな”と祈るような思いを馳せるーーそれはアルバム『君に会いたいんだ、とても』の根底に流れるものと強く重なっていた。筆者はこの2曲をコンサートで何度となく聴いているが、そのたびに新しい感動を得られる。それは言うまでもなく、矢野顕子の歌とピアノが常に形を変え、深みを増していることの証左だ。

 〈頭上に新月/眼下に日蝕/青い龍の静かな夜〉という野口の朗読音声とともに奏でられた「青い夜」から、再び『君に会いたいんだ、とても』の世界へ。“必要なものはすべてここにある”という満ち足りた喜びを歌った「月と地球とドラゴンと」、そして、空いっぱいに広がる星、未来への確かな希望を穏やかに描き出す「ここに いるはず」。そこから伝わってくるのは、自分たちの生活は宇宙につながっているという実感と、大きなものの一部であることの喜びだ。

 地球という命、宇宙という死の空間を対比させながら、その厳しさと美しさを「透き通る世界」、そして「一緒に宇宙に行ってくれて、本当にどうもありがとう!」という感謝の言葉に導かれた「雲を見降ろす」で本編は終了。アンコールではまず、「みなさんをもうちょっと遠くへお連れしましょう」というMCから「Welcome to Jupiter」(アルバム『Welcome to Jupiter』/2016年)。さらに野口の「ドラゴンはのぼる」の歌詞の朗読、ロケット発射の映像とともに矢野が即興でピアノを演奏し、コンサートはエンディングへ。観客はスタンディングオベーションで矢野のパフォーマンスを称えた。

 地球という命への感謝、愛する人への深い思いをピアノと歌で表現した今回のコンサートは、矢野顕子の本質そのものと言っていい。アルバム『君に会いたいんだ、とても』はとても彼女らしい作品なのだと思う。わずか2公演ではいかにももったいない。ぜひ再演を願いたい。

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■LIVE配信情報
『矢野顕子の歌とピアノで宇宙へ行こう。「君に会いたいんだ、とても」リリース記念ライブ』
アーカイブあり:3月31日(金)23:59まで
視聴チケット:¥3,850(税込)

Streaming +
https://eplus.jp/akikoyano-0325stp/
ZAIKO
https://akikoyano.zaiko.io/item/354774

『君に会いたいんだ、とても』スペシャルサイト

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