雨宮天、歌謡曲への愛情とリスペクトを作品に昇華 初の全曲作詞作曲に挑戦した最新EPを紐解く
2曲目の「都会逃避行(ネオンエスケープ)」は、イントロのギターフレーズやバックに流れるシンセサイザーの音色など、サウンドには80年代のエッセンスが満載。楽曲の主人公は、社会や大人に対し反抗しながらも、その内面はまだ幼い少女。居場所を求めて都会の夜を彷徨う、少女の危うく切ない物語が展開される。昭和のアイドル歌謡においては、山口百恵や中森明菜などを筆頭に、自らのアイデンティティを模索しながら大人への一歩を踏み出そうとする、儚くもろい少女の歌が数多く歌われてきた。「都会逃避行」は、昭和アイドル歌謡の王道が、雨宮流に再構築された。
意表を突くのは、演歌に挑戦した「初紅葉」だろう。編曲を手がけたのは、多くのアイドルやアニメ楽曲を手がける一方、香西かおりや前田有紀など演歌歌手の編曲も手がけている上杉洋史。アコーディオンをスパイスに加えたダイナミックなサウンドは、「津軽海峡冬景色」などの演歌を彷彿とさせ、雨宮の手がけたメロディもあえて分かりやすい演歌調に徹した。奇をてらわずド直球であることが神髄とされる演歌の世界。それが踏襲された本楽曲からは、演歌の流儀も心得た雨宮のこだわりが感じられる。歌詞も、演歌では王道の悲恋が描かれ、シンプルだが季節感や情景が浮かぶ言葉選びはさすが。こぶしを回すように声を震わせながら歌う、情念の込められた雨宮のボーカルは一聴の価値がある。
他にも山本リンダを彷彿とさせ、リズミカルなサウンドに乗せて迫力あるシャウトなど熱い歌声を聴かせる「マリアに乾杯」。高橋真梨子の「for you…」や德永英明の「レイニーブルー」のカバー歌唱をきっかけに制作されたというラブバラード「ぽつり、愛」を収録。“~っぽい”ではなく、リスペクトがあればこその、あえてのド直球。歌謡曲をリアルタイムで知るミドルエイジも納得のできばえ。当時を知らない世代に伝えたい、“本物”の歌謡曲の輝きがここにある。
デビュー当初から「歌謡曲が好き」と公言し、自身のラジオ番組では歌謡曲を語るコーナーを設け、カバーライブを開催するなど、熱心な歌謡曲ファンであることが知られている雨宮。彼女にとって歌謡曲は、アイデンティティとも呼べる原点。また、アーティストとして作詞のみならず作曲にも積極的にチャレンジするなど、ここ数年は声優アーティストの枠を超えたクリエイティビティも発揮してきた。その2つが掛け合わさって制作されたEP『雨宮天作品集1 -導火線-』は、彼女の思いと地道な創作活動が、1つの作品として結実した形だ。愛する歌謡曲を丁寧に咀嚼し、雨宮天というフィルターを通して制作された5曲から感じるのは、彼女の歌謡曲に対するリスペクトの念と深い愛情。彼女にとってのライフワークとなりそうなシリーズだ。
■リリース情報
雨宮天1st EP「雨宮天作品集1-導火線-」
2023 年3月22日(水)発売
■初回生産限定盤(CD+DVD)
価格:¥2,500(税込)
[CD]
1.TRIGGER
2.都会逃避行(ネオンエスケープ)
3.初紅葉
4.マリアに乾杯
5.ぽつり、愛
[DVD]
TRIGGER Music Video
雨宮天作品集1-導火線- TVSPOT15sec+30sec
■通常盤(CDのみ)
価格:¥2,000(税込)
[CD]
1.TRIGGER
2.都会逃避行(ネオンエスケープ)
3.初紅葉
4.マリアに乾杯
5.ぽつり、愛