My Hair is Bad、“共に生きていく音楽”を鳴らした5年ぶりの武道館 過去と現在に向き合って見出した新たな答え

 そして椎木がリアルタイムで発する音源にない言葉たちが、バンドの今と過去を縫い合わせていく。「どうかこの曲が、間違いと分かっていても熱くなっている、誰かの恋を冷ましますように」という言葉が添えられた「綾」。〈もう忘れた、どうして別れたのかも/もう忘れた、どうして泣いていたのかも/でももう一度君に会ったら思い出すんだろう〉と歌う弾き語りからそのまま突入した「真赤」。「明日大丈夫じゃなくても、明後日大丈夫じゃなくても、今夜だけは大丈夫にしてやるから!」と始まった「フロムナウオン」。「今日ここにいる誰かの若気の至り、楽しかった20代にこの曲を贈ります」と紹介した「花びらの中に」。「ここで何を残せるかとか、みんながどう喜んでくれるかなとか、いろいろ考えてたけど忘れちゃいました。結局今を生きることに精一杯で、ラブソングあるあるみたいに、すごく大切なことを見過ごしたりして」「僕は20代の自分に、一生懸命だけどカッコついてない自分に、今の自分から見たら思いやりのない自分に、そういう大切なことを学びました。もう俺は、失ってから大切なことに気づくなんてこと、絶対にない。大切なこと、思い浮かべてください。一つじゃなくてもいい。一方的でもいいよ」と始まった「味方」。

 楽曲の中で歌われる後悔が、その音楽を受け取った誰か一人を不幸から遠ざけるための言葉に変わっていく。そしてその言葉は、おそらく過去のマイヘア自身をも救っている。このバンドが登場した時、若さと衝動のままものすごいスピードで駆け抜けて、いなくなってしまうバンドかもしれないと思った人も少なくないだろう。しかし今は違う。ここにいるみんながマイヘアと一緒に人生を生きていくイメージを浮かべ、今目の前で行われているライブ越しに自分自身の人生と向き合っている。ツアーを振り返るMCでは「バンドとしても、チームとしても、人間としてもすごく豊かになりました。でもこれからも続いていくからさ、これからもよろしくってことだよね。そういう気持ちが本当にあるんだよ」(椎木)、「伝わってるよ」(山本)、「いろいろな主人公が曲の中にいて、支離滅裂で、意味は繋がらないけど、何か一つここにあったっていう、そんな日を目指してました。それに近い日だったと思います」(椎木)というやりとりも。メンバーと同じ手応えを観客も確かに感じていたはずだ。

 本編ラストは「歓声をさがして」。みずみずしく疾走するセクションと半テンでどっしりと鳴らすセクションを行き来するアンサンブル、その呼吸からはバンドが重ねてきた月日の厚みが感じられた。そして人生なんてよく分からないとしつつも、〈DJ もういいや 僕の曲は僕が/歌うことにするから〉と宣言する歌詞は、今日のライブを経て――いや、『angels』と『アルティメットホームランツアー』、そして20代のバンド活動を経て、My Hair is Badが掴み取った一つの答えだろう。まるでこの瞬間のために作られた曲みたいに輝いている。人生は伏線回収の連続とよく言うが、それにしても、こんなにも美しい結末はあるだろうか? そう言いたくなるラストシーンに、ロックバンドという生き物の美しさを垣間見た。客席含め会場全体が明転になると、「歓声も拍手も俺らのライブも、全部全部みんなにあげるから、幸せになってくれ!」と叫ぶ椎木。最後、3人でジャーンと音を鳴らしたと同時にバンドのロゴが出てくるタイミングも完璧で、セットリストの全部の曲がこの瞬間に繋がっていたかのような感慨に包まれる。その後のアンコール、ダブルアンコールは観客のシンガロングとともに。大きな幸福感とともにツアーを終えたのだった。

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