【ネタバレあり】『ブラッシュアップライフ』劇中曲が暗示する“麻美の運命” 人生に寄り添う平成ソングに込められたヒント

ウルフルズ「笑えれば」のようなハッピーエンドを

 第2話の人生2周目では、麻美が通学中の電車内、音楽プレイヤーで曲を聴いていた。そのプレイリストにあったのが、一青窈「ハナミズキ」(2004年)、DREAMS COME TRUE「やさしいキスをして」(2004年)と「何度でも」(2005年)、ORANGE RANGE「花」(2004年)、Janne Da Arc「月光花」(2005年)、平井堅「瞳をとじて」(2004年)、そしておそらくGLAY×EXILE「SCREAM」(2005年)などだ(いずれの曲も麻美の運命に重ねて語ることができるのだが、かなり長くなるのでここでは割愛する)。

 ここでセレクトするのがNANA starring MIKA NAKASHIMAの「GLAMOROUS SKY」(2005年)。この曲にはドンピシャで〈「繰り返す日々に 何の意味があるの?」〉という歌詞が出てくるほか、〈Flashback〉〈Remember〉など麻美のこれまでの記憶について触れるような言葉があったり、〈君の未来照らしたい〉と彼女を後押しするようなメッセージが流れていたりする。

 また2周目の人生でも仲良しになった夏希、美穂とドライブに出かけたとき、その車内で流れるPerfume「ポリリズム」(2007年)の〈巡り巡る〉〈くり返す〉〈あの光景が甦るの〉という分かりやすい箇所だけではなく、〈ポリリズム〉〈リズム〉〈ポリループ〉〈ループ〉とひたすら繰り返されるところも麻美そのものを象徴している。(改めて観ると、Perfumeが“3人”というのもポイントかもしれない)

 第3話では麻美が、大人になった玲奈(黒木華)と再会。ただ、玲奈の交際相手が、既婚者である自分の同僚だと気づいてそれを告げる。未婚者だと思っていた玲奈は、弄ばれた怒りをぶつけるようにカラオケでマキシマム ザ ホルモンの「恋のメガラバ」(2006年)を激唱。この曲にも、都合の良い関係を楽しんでいた相手に向けてのメッセージ的歌詞が散りばめられている。ちなみに「恋のメガラバ」は、第5話のエンディング曲にも起用されている。同話では麻美が、玲奈が不倫関係に陥らないように先手を打ってさまざまな作戦を実行する。歌詞に〈グッバイエロ細胞〉とあるように、玲奈と不倫相手の関係性について伏線回収的に使われている。また、第3話の劇中にも登場しエンディング曲にもなっている中島みゆき「ファイト!」(1983年)も、3周目の人生に突入することが決まった麻美に向けたエールになっていた。

 第6話では、アニメ『美少女戦士セーラームーン』のオープニング主題歌である「ムーンライト伝説」(1992年)が劇中曲として印象的だった。同話で麻美は人生4周目に突入し、知識や教養を幼少期から包み隠さず生きていた。保育園時代も、同級生が花をもぎって蜜を吸っているところを冷静に注意したり、不倫関係に陥るはずだった先生に正論をぶつけたりして阻止する。そういった麻美の世直し活動と楽曲が重なり合っている。

 その後も、1周目から3周目では過去の経験から得た知識だけを頼りに生きていたが、4周目ではさらに勉強して、テストでも常に学年1番をとる秀才としての人生を送る。その結果、一流大学の大学院まで進み、30歳になってからは研究者として働くことに。第7話では、そんな彼女は通勤中にKing Gnuの「白日」(2019年)を聴いている。この曲は、人間として生まれ変わるために徳を積まなければならず、そのために勉強に打ちこみまくった結果、仲良しだった夏希、美穂とは疎遠になってしまう麻美の心情があらわれている。昔のような関係に戻れなくても前に進まなくてはならない、そんな彼女の気持ちが少し切ない形で投影されている。また同話では、第1話で麻美、夏希、美穂がカラオケで歌っていたZONEの「secret base~君がくれたもの~」(2001年)が伏線回収的に使われている。〈最高の思い出を〉の歌詞の通り、麻美のなかに刻まれている3人で過ごした日々を想起することができる。

 第8話では、ウルフルズの「笑えれば」(2002年)がエンディングで流れた瞬間、泣けた視聴者も多いはず。秀才になった麻美は、夏希、美穂とは疎遠になったかわりに宇野真里(水川あさみ)と交流を深める。その真里も実は人生5周目。しかも彼女の1周目では麻美、夏希、美穂と仲が良かったのだという。麻美、夏希、美穂はかつて、真里の恋人が浮気をしていたことを知り、それを励ますためにカラオケで「笑えれば」を歌おうとしていた。ただここでのカラオケボックスのシーンでは、歌唱シーンは映されない。

 第8話終盤、真里がなぜそんなに周回を重ねているかを麻美は知る。さまざまな苦しみを抱えながら何周も人生をめぐる真里の心境を考える麻美。そうこうしながら麻美は4周目の人生を終え、死後の世界で究極の選択に迫られたとき、「笑えれば」がエンディング曲として聴こえてくる。同曲の〈子供の頃から同じ 同じ夢ばかりを見て だけど今になって 大人になって 立ち止まったりして〉は、麻美、真里、そしてこのドラマに登場するすべてのキャラクターにあてはまる象徴的な歌詞と言えるだろう。

 そして第9話では麻美、夏希、美穂、真里の4人の友情が描かれるのだが、ここで流れるのがKiroro「Best Friend」(2001年)。人生のやり直しを繰り返す中、麻美と真里の選択によって4人の関係性も様々に変化していくわけだが、いかなる時でも最高の友達であることに変わりはないという感動の一幕だった。それと同時に、物語は新たな波乱の中で最終話へと向かうことになる。

 第8話の「笑えれば」のサビは、〈とにかく笑えれば 最後に笑えれば 情けない帰り道 ハハハと笑えれば〉であり、第9話の「Best Friend」のラストは〈ずっと ずっと ずっと Best Friend〉である。この歌詞がこの物語の今後の展開や着地点を言いあらわしていると信じたいところだが、果たして麻美はどんな運命の終着点にたどり着くのか。そして最後にはどんな音楽が麻美らの運命を彩るのか、最終回を心待ちにしたい。

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