藤井風、King Gnu、YOASOBIらJ-POP史に息づくジャズのDNA 日本音楽とブルーノートの関係性を紐解く
ただラップバトルにおけるビートと同じく、楽曲はビーバップで即興の素材と見なされがちだった。ありがちなディスである「フリースタイルだけでなく、音楽(楽曲)で聴かせてくれ」はビーバップにも当てはまり、さらなる大衆性を持たせ、より楽曲的にアレンジされた「ハードバップ」が主流になっていく。この時期以降の名盤を数多く送り出したレコード会社のひとつがニューヨークで創立された「ブルーノート・レコード」だ。
「売らんかなの派手な装飾ではなく、演奏の衝撃力を伝える」と宣言したブルーノートは密度の高い作品カタログを誇る(※1)。また当レーベルがアートワークや盤面のデザインに至るまで、全方位的にジャズのクールなイメージ形成に一役買ったのも間違いない。創業者はアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフ、ふたりのドイツ系移民。彼らが「芸術の総合」を謳うバウハウスの国に出自を持つことは運営の方向性と無関係ではないだろう。
そのサウンドが時を超え、1980年代にイギリスのDJジャイルス・ピーターソンにダンスミュージックとして再発見されたことも興味深い。これをきっかけに起こるのが「アシッド・ジャズ」で、カップヌードルのCMでお馴染みのジャミロクワイもここから出てくる。それが日本では「渋谷系」のなかで聴かれるようになり「クラブジャズ」に繋がっていく。この流れから出発した代表的な日本人のバンドがSOIL & "PIMP" SESSIONS、さらに邦ロックの文脈に寄せたのがfox capture planといえる。
さらに時代が飛び、新たな体制となったブルーノート・レコードから2012年、ヒップホップ×ジャズの金字塔であるロバート・グラスパー『Black Radio』が発売される。その前からジャズに混ざりつつあったが、ヒップホップは本作品を機に完全にジャズの範囲に収まり、ヒップホップ的なビートをジャズミュージシャンが人力演奏することは当然のこととなった。そのパイオニアのひとりがドラマーのクリス・デイヴ。その影響を受けて育ったのがKing Gnu・勢喜であり、自身のグループ・Answer to Rememberや米津玄師、くるりなどのサポートも務める石若駿らである。
このようにブルーノート・レコードの歴史を追えば、ジャズの広大な鉱脈の輪郭が少しずつ見えてくる。それに関連させて日本への影響も同時に探っていけば、よりポップスを解像度を上げて聴くことができるはずだ。その入門として、おすすめしたいのが隔週刊のデアゴスティーニ「ブルーノート・ベスト・ジャズコレクション」。毎号ひとりにスポットを当てて作品やアーティスト像を深堀りしながら、レーベルの歴史、ジャズの用語解説に加え、選りすぐりの高音質CD(SHM-CD)による名演を楽しめる内容だ。
第1巻は「ジャズの帝王」と呼ばれたマイルス・デイヴィスが主人公。人生をかけてビーバップからヒップホップに至るまで、音楽を探求していった彼の歩みとともに、スタンダードナンバーといえる「枯葉」を始めとした音源にぜひ触れてほしい。
第2巻で取り上げるのは現在も最前線で演奏するキーボード奏者のハービー・ハンコック。1960年代にマイルスのバンドで名を知らしめ、卓越したテクニックだけでなくファンキーなプレイでも人々を魅了してやまない。彼がブルーノートに残した『Maiden Voyage』や『Speak Like a Child』などは永遠の名盤である。
そして第3巻で取り上げられるのはサックス奏者のソニー・ロリンズだ。この号にはビーバップ期から今なお健在の彼による1957年から1958年の演奏が収められ、1959年に訪れるジャズの一大転換期を前にした、歌心のある雄々しい彼のブロウが聴ける。
今どきはサブスクのプレイリストやYouTubeで片っ端から聴いてみるのが手っ取り早い。しかし、前述したような歴史や専門用語を理解することで、ジャズの楽しみ方も広がる上に、そこに影響を受けたアーティストの楽曲に対する新しい発見にも繋がるのではないだろうか。
※1 『ブルーノート・レコード―史上最強のジャズ・レーベルの物語』(朝日新聞社)
■商品情報
『隔週刊 ブルーノート・ベスト・ジャズコレクション 高音質版』
詳細はこちら
https://deagostini.jp/sn/bn2/realsound/
創刊号特別価格 :490円(税込)/第2号以降通常価格:1,499円(税込)
創刊日:2023年1月5日(木)※第2号 1月24日(火)、以降隔週火曜発売となります。
刊行周期:隔週刊
刊行号数:全90号(予定)
創刊号仕様:A4変形判/16ページ(表周り含む)