丘みどり、オペラ『椿姫』を題材にした新曲「椿姫咲いた」 新境地で挑む攻めの1年

 演歌歌手の丘みどりが、2023年の一発目となるシングル『椿姫咲いた』を2月22日にリリースした。表題曲の作曲に、米米CLUBのメンバーとして活動する他、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の劇伴などを手がけたフラッシュ金子こと金子隆博。作詞に坂本冬美の「夜桜お七」などを手がけた、歌人の林あまりを迎えて制作。オペラで有名な『椿姫』を題材に、力強く生きる女性の新たな物語を情感豊かに歌い上げた。『椿姫』の有名な楽曲が一部使用され、演歌の醍醐味である「こぶし」を使わないなど、大胆なチャレンジを試みた楽曲について話を聞いた。また、出会いと別れの季節である春に出会った、丘みどりのファンとは?(榑林史章)

新たな『椿姫』を届けたい

――丘さんとして、今年はどんな活動をしたいと思っていますか?

丘みどり(以下、丘):昨年1年間を通して、『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ)などバラエティ番組に出演させていただく機会が多く、若い方に注目いただくことが増えたので、そういう方にもっと演歌の格好良さを届けられたらと思っていました。なので今年は守る1年ではなく、攻める1年にしようと。何か新しい風を吹かせられるような楽曲を作りたいと思って、『うたコン』(NHK総合)で何度かご一緒させていただく機会のあった金子隆博さんに、作曲をご依頼しところから今回の楽曲に向けて動き出しました。

ーー新曲の「椿姫咲いた」は、オペラの『椿姫』を題材に作られたそうですが、どういった経緯で『椿姫』を題材にすることになったのですか?

丘:金子さんはたくさんのポップスや演歌を演奏していらっしゃるので、きっと新しく格好いい音楽を作っていただけるのではないかと思い、お会いした時に「来年の新曲で、格好いい曲を作っていただけないでしょうか?」とお声がけさせていただいたところ、金子さんからご紹介いただいたのが作詞家の林あまり先生でした。その林先生から、オペラ『椿姫』をモチーフにした世界観をご提案していただきました。

ーー『うたコン』の合間などで、金子さんとは何かお話をされたことが。

丘:ご挨拶程度だったのですが、思い切って「1曲作ってください」と(笑)。それで、今までにないものを作るにあたって、斬新なことをするのも大事だけど、歌の世界観はしっかりあったほうがいいと言われて。漠然と「こういうことを歌っているのかな?」ではなく、誰もが知っている物語で、歌の世界観が想像できるものにしたほうがいい。そういう歌詞を作ってくれそうな方として、林先生がいいんじゃないかとご紹介いただきました。お二人と簡単なミーティングを行った上で、林先生からいくつか題材のご提案があった中から金子先生が「これがいい!」と決めてくださったのが、『椿姫』でした。

ーー『椿姫』はオペラの作品としても有名ですが、丘さんは、観たり聴いたりしたことはありましたか?

丘:それが全くなかったので、今回のお話をいただいてからどういう物語なのか本を読んだり調べたり、勉強させていただきました。読んで思ったのは、とても悲しいお話だということです。もっときらびやかで優雅なお話なのかなと思っていたので、背景などを知って少し意外な面もありました。ただ今回の「椿姫咲いた」はオペラ『椿姫』を題材にはしていますが、背景やストーリーをそのままなぞったのではなく、『椿姫』をベースにした完全オリジナルストーリーです。なので、丘みどりが演じる物語として、新たな『椿姫』を皆さんにお届けできたらと思いました。

ーー最初に『椿姫』を題材にすると聞いた時は、どんな印象でしたか?

丘:やっぱりすごく驚きましたね。そもそもオペラの作品を題材にするということ自体、考えたこともなかったですし。それで、どういうお話か背景とか物語の行方を調べていくうちに、「これは絶対歌いたい!」と思いました。

ーー冒頭に流れるのはオペラ『椿姫』の音楽ですか?

丘:はい。オペラ『椿姫』に出てくる「乾杯の歌」の一節です。実際の『椿姫』のメロディを使うのは驚きのアイデアで、「何が始まるんだろう?」という期待を持っていただけるイントロになりました。オペラの『椿姫』を知っている方なら、そこで「そういうことか!」と感じていただけると思います。「乾杯の歌」のメロディについては、間奏に入れるとかもっと分からないようにさりげなく入れるとか、いろんな案があったのですが、「え! 何?」って思ってもらえるように、あえて分かりやすく一番はじめに入れました。

ーー歌詞を読んだ時は、どんな風に感じましたか?

丘:ただ悲しむとか、ただ寂しいとか辛いだけじゃなくて、椿姫の芯の強さや気高さを感じ、そこから女性の強さというものを表現できたらと思いました。

ーー気高さというのは、歌でどう表現するのですか?

丘:とても難しいことなのですが、とにかく自分の中でかみ砕いて何度も歌うしかできません。なので、それを言葉にするのはとても難しいです。

ーーこういう声色で、こういう歌い方をすれば気高く聴こえるだろうとか?

丘:そうですね。声色や歌い方もそうですけど、花柳糸之先生に動きも付けていただいて。「こういう目線で歌いなさい」とか手や指の動かし方まで細かく考えてくださったので、動きも含めた総合的なもので気高さを表現できたらいいと思いました。

ーー「椿姫咲いた」というタイトルに対しては、どんな印象ですか?

丘:すごく素敵なタイトルだなと思いました。ここからどういう物語が始まるのか、タイトルの「咲いた」はどういうことなのか、もっともっと知りたくなるなと。

ーー丘さんはそれを、どういう風に解釈をしたのですか?

丘:どういうことかは、聴いた皆さんそれぞれで考えていただきたいです。きっと歌詞を書いてくださった林先生の意図もあると思いますが、私はそれを聞いていませんし、私の中での解釈もあるのですが、話してしまうとそれが正解になってしまって、そこから想像が広がらなくなってしまうと思うんです。この曲は、皆さんの想像をかき立てるものでありたい。歌う上でも、ここはこういう気持ちで歌いましたと言ってしまうと、それも答えになってしまうので、そこも私の歌声や表情から想像してほしいなと思います。物語を読む時に、最初から筋や結末が分かっていたら面白くないじゃないですか。この「椿姫咲いた」もイントロの「乾杯の歌」から、ワクワクしながら物語を読み進めるように、聴いていただけたらうれしいです。

ーーなるほど。

丘:林先生は「受け取り方だから、こちらからこうだと話すのは違うと思う」とおっしゃっていて。これまでの作詞家の先生は、歌詞の意味や意図を「これはこうだよ」と教えてくださったので、作詞の先生と作家の先生の違いが表れていて面白いなと思いました。

ーーレコーディングは大変でしたか?

丘:全部で3回歌っただけなので、とても順調でした。その時によって違いますけど、たくさん歌う時もありますし、その日中に終わらず別日を設けて録ることもあります。

ーー3回でOKテイクが出たのは、金子さんのメロディが歌いやすかったということでしょうか。

丘:メロディも含めて曲の世界観に入り込みやすかったからだと思います。金子さんのディレクションも、「ここをこう歌って」というものではなく、「多少音をはずしてもいいから感情的に歌ってほしい」ということでしたので、私も自由に感情のままに歌わせていただきました。金子さんのディレクションはとても優しくて、「今のもいいんだけど、もう少しこういう風に表現できたらいいよね」と、とても丁寧に導いてくださいました。

ーー金子さんは、フラッシュ金子名義で米米CLUBやBIG HORNS BEEのメンバーとしても活躍。もともとはポップスフィールドの方ですが、今回演歌の作曲をしてもらって、何か今までの演歌とは違った金子さんらしい部分は感じましたか?

丘:金子さんらしいという言い方が正しいかどうかは分かりませんが、イントロの始まりのアイデアとか、サビに入るところの転調とか、テンポ感は初めて聴くものでしたので、きっとこれは金子さんにしか書けない新しい演歌だなと思いました。自分では考えもつかないメロディでいただいた時はうれしかったのですが、同時に「これを私に歌えるのか?」という不安もありました。それくらい、今まで歌ってきた演歌とは違うものでした。ファンの方には、その違いを楽しんでほしいです。

ーーイタリアの作品『椿姫』を題材に、日本の和で表現した「椿姫咲いた」。海外ですごく評価を得そうですね。

丘:はい。MVとジャケットで着させていただいた花魁の衣装は、レディー・ガガさんが来日した時に気に入って袖を通されたものだそうです。ビジュアルも含め、楽曲の題材としても海外の方が入り込みやすいものだと思います。もともとラスベガスで公演を行うことが私の夢の一つなのですが、また一歩夢に近づけた印象です。この曲を携えて、ラスベガスに限らずもっといろいろな国で公演をやって行きたいと思っています。

ーーYouTubeでMVが公開された時は、海外の方からのコメントもありましたね。

丘:はい。Instagramでは、海外の方に見つけていただきやすいように、英語でハッシュタグを付けるようにしています。

ーーMVには、「綺麗すぎる」「早くフル尺が観たい」などコメントがありました。

丘:こだわって撮影したので、すごくうれしいです。新しいチャレンジをする時は「何でこういう感じにしたの?」と言われるんじゃないかなどの不安があって、皆さんの反応がいつもより気になるのですが、今回も好意的なコメントが多く「受け入れてもらえたのだな」と感じることができました。

丘みどり<Midori Oka>/椿姫咲いた<TSUBAKIHIME SAITA>ミュージックビデオ フルバージョン

ーー他の演歌歌手の方の反応も気になりますね。

丘:すでに何度か番組の収録で歌ったのですが、長く演歌のバックで演奏していらっしゃる方や先輩歌手の方、同業者も含めて、皆さんから「すごく格好いいね」と言っていただけているので、不安は以前よりも和らいでいます。

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