電気グルーヴ、aiko×井口理……オールナイトニッポン55周年番組を振り返る 昭和から令和までを繋ぐラジオという存在
ラジオ番組『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)の放送開始55周年を記念し、2023年2月17日から3日間オンエアされた『オールナイトニッポン55周年記念 オールナイトニッポン55時間スペシャル』。その多くのタイトルがSNSでトレンド入りを果たすなどさまざまな話題を振りまき、あらためて同番組の影響力の強さが実感できた。
番組全体から筆者が感じたのは、ラジオというコンテンツを通して昭和から令和までの時代をつないでいたということだ。今回の『オールナイトニッポン55時間スペシャル』では、それぞれのパーソナリティが過ごした時代に起きていたことが話された。テレビで放送される昭和・平成・令和特集は各世代間のギャップなど「分断」がテーマになっていることが多い一方で、『オールナイトニッポン55時間スペシャル』は、3日間ほぼぶっ通しで放送されたこともあり「すべての時代と物事は地続きにある」ということが強く感じられた。
それは同番組でお馴染み……というより普遍的なテーマ曲「Bittersweet Samba」の効果によるところも大きいのだが、なにより昭和、平成、令和の3つの時代をまたにかけて放送されてきた番組ならではの「55年の空気」が一塊になって出ていたのではないか。つまり、これだけ多彩なパーソナリティがそろっていながら、時代性、世代による価値観などが分断されている気配がまったくなかった。『霜降り明星のオールナイトニッポン』で粗品がひたすら自分の知らないほかの時間帯のパーソナリティをバッサリ切り捨てても、せいやがひたすらいかにその人たちがすごかったかを説明し、彼らがいたから今の『オールナイトニッポン』などがあると話していたくだりは、「知らない」「分からない」「世代じゃないから」で物事を完結させないことの象徴だったように思えた。
電気グルーヴが語ったコンプライアンス
そういった「時代は地続きである」と感じさせる傾向は、ミュージシャン関連のタイトルでも際立っていた。
19日27時放送『電気グルーヴのオールナイトニッポン』は、電気グルーヴによるコンプライアンスについてのトークがおもしろかった。石野卓球は今回の『オールナイトニッポン』のパーソナリティのオファーには裏があり、電気グルーヴをコンプライアンスに引っ掛けて炎上させようとしているのではないかと話した。彼らがパーソナリティに就任したのは1991年。2人の過激なトークと誰も想像のつかないような行動が話題となり、2部(27時台)から1部(25時台)に昇格、今でも語り継がれる“伝説の番組”となった。放送終了から30年近く経った今回の放送は、ただ単に「今はコンプラが厳しくて」という話ではなく、コンプライアンスへの意識が薄かった頃に登場してきた彼らだからこそ、変わることは容易ではないと言い表していたようだった。その際たるものが「これを録ってるのは1992年です。昔のアニメとか放送されたときに最初に注意書きで『作品のオリジナリティーを尊重し、当時のままにしてます』って(書いてある)。それを言っておけば録音だから大丈夫なんじゃない」という発言だったと思う。
黒柳徹子が“降臨”した、17日22時放送『松任谷由実のオールナイトニッポン』も聴きごたえがあった。女性として初めて日本のニュース番組、トーク番組で司会をつとめるなど芸能面から日本社会を開拓した黒柳。そんな黒柳が「もし文学座に入っていれば今頃は、杉村春子とは言われなくても女優さんとして認められる人になっていたかもしれない」ともうひとつの人生について思いを馳せたとき、松任谷が「女優さんは星の数ほどいるじゃないですか、でも黒柳徹子は一人だけだからね」と反応したのは、黒柳の功績に対する最大のリスペクトでありとても感動的だった。そしてあらためて黒柳が昭和という時代の一部分を前進・発展させ、それが平成、令和にも結びついていることを印象づけた。