古川毅『カタリタガリ』最終回 松村和哉と語るSUPER★DRAGONのこれからあるべき姿

普遍的な価値をアップデートしていきたい

――では、ここまでに話してくれたメンタリティをもって、お二人ひいてはSUPER★DRAGONはこれからどのような道を進んでいくのでしょうか。

古川:TikTok然り、YouTube然り、SNSで端的にわかりやすいものを発信することがアーティストの主なプロモーションツールになったことで、思い立ったら誰でもすぐにチャレンジできる環境があることは素晴らしいこと。映像という視点だとテレビ一強でチャレンジできる人たちが限られていた時代と比べると、明らかにオープンになっている。にもかかわらず、どこか違和感を覚えるんですよね。ツールが増えたことで需要も散らばってそれぞれが閉鎖的になっていたり、表層的でその場しのぎで消費される情報も格段に増えたことで、本当にいいものが埋もれてしまったり。そこで僕らはどう戦えばいいのか。

松村:ユーザー目線だと、それぞれのツールがある種の閉鎖性を孕みつつ、ワンタップで誰でも気軽に触れられるようオープンに存在している。変な感じですよね。そして人は目移りしやすい。それは悪いことではないし、入れ込むものが変わっていくことは当たり前のことなんですけど、今は多くの人の引っ越し先が見えない。僕らのようなアイドルを好きだった人が、同じベクトルでYouTuberとかTikTokをやっている人たちに興味が移っていくようなことも、ざらに起こっている。「じゃあ僕らのやってきたことって何?」と、思ってしまうこともあるんです。そんな感じで無差別に引っ越し先が増えすぎて、もはや椅子取りゲームの椅子がもうないような飽和状態だと感じています。そこで立ち止まってこの先のことを考えると、いよいよ自然淘汰が始まるんじゃないかと。そこで必要なのは、SNSで求められる短期的な爆発力や推進力より、より足腰が強くて普遍的なものだと思います。

古川:うん、そう思う。

――その普遍性を獲得する鍵はどこにありますか?

古川:エンタテインメントですから目に見えたわかりやすさは大切。そして、それと同じくらい目には見えないこだわりも重要だと思います。あとはトレンドに消費されないこと。トレンドを乗りこなす、なんならトレンドをセットする発信力、あらゆる面での基礎体力を上げていくことですね。そのために必要なことの一つが、この『カタリタガリ』でもよく言ってきたルーツを知ること。ルーツを知っていれば、例えば60年代のR&Bを採り入れた曲があったとして、「じゃあここはレイ・チャールズのあの歌い方をオマージュしてみよう」みたいな感じで歌えるわけじゃないですか。それによって、聴いた人はどこがレイ・チャールズからの影響かはわからなかったとしても、伝わる力は強まっているから、何かしら感じてもらえると思うんです。だからインプットもアウトプットもどんどんチャレンジしていきたい。そしていつしか、僕らのルーツに気づいてくれたファンが、自分のなかで新しいカルチャーに触れるようになってくれたら、SUPER★DRAGONのライブで見ることのできる景色もより豊かになっていく。そしてその景色に触発された僕らはさらに成長できる。そうやって、そこでしか味わえない普遍的な価値をアップデートしていきたいと思っています。

松村:僕はSUPER★DRAGONの2022年の連続リリースで8作中6作、作詞に関わらせてもらいました。そこで書いた言葉が正解かどうかはわからないけど、僕がさっき話したヒップホップに感じたリアルと、ボーカルパフォーマンスグループとしてのファンタジーの両方を、いかに棲み分けながら発信していくかが、普遍性に繋がっていくと思います。

――ボーカルパフォーマンスグループとしてのファンタジーとは?

松村:例えばSNSってしんどい情報も勝手に入ってくるじゃないですか。心の痛む話や意見が転がりすぎている。あの人を燃やしたような、血なまぐさいにおいに耐えられなくなったときに、僕はよく村上春樹の作品に逃げていました。それが僕の思うファンタジーです。とは言え、ファンタジーは逃げ道であって解決にはならないから、それを提示する場としてリアルを発信していかなければならない。凝視したリアルを昇華して作品にする責任は常について回るものだと思います。それが僕の考える、SUPER★DRAGONとしての普遍性です。

――確かに、私も昨年SUPER★DRAGONのライブを何度か観るうちに、リアルと向き合いたい気持ちと、圧倒的に日常では味わえないパフォーマンス、すなわちファンタジーも求める二軸があったような気がします。

松村:そのリアルとファンタジーを背負うことが僕のリアルで、正直めちゃくちゃしんどいですけど(笑)。

古川:和哉からリリックのことで悩んでいるって呼び出されて、二人で泣いたこともあったよね(笑)。でも、何かと何かの狭間で苦しめていることがアーティストとしての価値だと思うんです。だから2022年は総じて、苦しかったけど最高の1年だった。とは言うものの、僕らは器用なタイプじゃないから内側の苦労に引っ張られたことで、ファンの人たちにできることを見落としていたんじゃないかと、申し訳ない気持ちになることもあります。けれど、そうやって自分たちととことん向き合った時間があったからこそ、新しいフェーズに立って胸を張ってパフォーマンスできる礎はできた。3月にはアルバムも出ますしライブもしっかりやっていくので、楽しみにしていてください。

松村:また村上春樹の話になりますけど、氏の自叙伝で、結果は結果でしかなくて墓場に持っていけるのは実感だけ、みたいことが書かれていて「なるほどな」と思いました。そして「俺はやるだけやったからあとは知らねえよ」って、ちょっと個人的に生きてみることで楽になったんです。その一方で、SUPER★DRAGONは9人のメンバーがいて、僕がマイクを握っているということはみんなの代弁者ではなくてはならない。自分のパーソナルな部分だけが先走ってはいけないので、ほかの8人のこともよく見るようになったんですけど、本当にめんどくせえ奴らの集まりだなって(笑)。

古川:間違いない(笑)。各々のこだわりが強いんですよ。だから面白い。

――では和哉さんに最後の質問です。『カタリタガリ』に参加してみていかがでしたか?

松村:ふだん受けるインタビューはリリースに関することが多くて、ここまで個人的なことをたくさん話せるタイミングはないので、めちゃくちゃ楽しかったです。それが良かったのかどうかはわかりませんが(笑)。

古川:楽しかったし興味深い話が聞けて良かったよ。

――では古川さん、最終回締めの一言をお願いします。

古川:今回も思いっきり“カタリタガリ”させてもらったんで、最後はシンプルにありがとうございました。またいつか、こういう機会があったらいいなと思います。

合わせて読みたい

『毅の“カタリタガリ”』第1回 シーンを動かした4人のボーカリスト
『毅の“カタリタガリ”』第2回 影響を受けた“歌詞”
『毅の“カタリタガリ”』第3回 “ファッションと音楽”
『毅の“カタリタガリ”』第4回 表現のインプットとなった3組
『毅の“カタリタガリ”』第5回 新たなスタンダードを築くアーティスト4組
『毅の“カタリタガリ”』第6回 憧れる3人の“超役者”
『毅の“カタリタガリ”』第7回 圧倒的なミクスチャー感覚を持った4組
『毅の“カタリタガリ”』第8回 ポップミュージックの未来を感じる4組
『毅の“カタリタガリ”』特別編:熊木幸丸対談

古川毅 Twitter:https://twitter.com/tsuyoshi__0227
古川毅 Instagram:https://www.instagram.com/tsuyoshifurukawa_227/
松村和哉 Instagram:https://www.instagram.com/tomoyamatsumura_415/
SUPER★DRAGON オフィシャルサイト:https://super-dragon.jp/

関連記事