SZA&リトル・シムズ、ヒップホップ/R&Bを代表する2人の新作を考察 メンタルヘルスなどの真実を吐露した共通項も

ネガティブな感情をふるい落とそうとするリトル・シムズ

 2021年にリリースされた『Sometimes I Might Be Introvert』が英国最高峰の音楽賞マーキュリー賞を受賞し、ブリット・アワードの最優秀新人賞にも輝いたリトル・シムズ。今年の9月には来日公演を行い、現在最も熱いインディペンデント・アーティストとしても世界中で人気を博しているリトル・シムズが、12月12日に新アルバム『NO THANK YOU』をリリースした。

Little Simz - Introvert (Official Video)

 同作には『Sometimes I Might Be Introvert』を手掛けたインフローがプロデューサーとして参加しており、『Grey Area』(2019年)と『Sometimes I Might Be Introvert』のダイナミックさの間を取ったサウンドとも言える。リトル・シムズはアルバムを発表した際に「感情は動くエネルギー。自分の真実と感情を誇りに思う。恐怖を根絶する。境界は重要だ」(※5)と投稿しており、『NO THANK YOU』では大きく成功した後にくるネガティブな感情をふるい落とそうとするリトル・シムズを聴くことができる。

 音楽業界で経験した問題やメンタルヘルスが今作の大きなテーマとなっており、「Angel」では7年間一緒に歩んできたマネージャーとの決別、そして音楽業界への不満についてラップしていると思われる。「なぜ私の代わりに権限を持つ鍵をあなたに与えたのか? 企業内で生活している人に私は何を期待したのか?」「私は奴隷船に乗ることを拒否する。原盤を全て渡してあなたの給与を下げろ」(※6)とラップしている。自分の作品の権利と、制作に対する自由を持った状態で、音楽業界内でリスペクトを得ることに苦労した経験も語っており、「X」の「過小評価され、得るべき感謝をされていない。なぜあなたに私のアイデアを渡さないといけないのか?」(※7)という歌詞も印象的だ。

Little Simz - Angel (Official Audio)

 また、「Broken」では「なぜ黒人コミュニティではメンタルヘルスの話題はタブーとされているのだろう」(※8)と疑問を示している。自身の過去の経験やトラウマと向き合い素晴らしいアートに昇華した『Sometimes I Might Be Introvert』とは違い、『NO THANK YOU』は“今”のリトル・シムズの感情を表していると言えるだろう。

NO THANK YOU

 SZAとリトル・シムズの新作はどちらも自身の感情を赤裸々に吐露しているという共通点があるが、状況と感情のベクトルが違うこともわかるだろう。SZAはメジャーアーティストとして、レーベルとのいざこざや葛藤も頻繁に語っており、リトル・シムズはインディペンデント・アーティストとして大成功したにも関わらず、金銭的な理由で北米ツアーをキャンセルしていた。そのような全く違う境遇の2人であるが、自身のメンタルヘルスなどにおける“真実”を表現し、多くの人々が人生のハードルを乗り越えられるように、音楽で手助けをしているのは確かだ。

(※1)https://youtu.be/a9cCfTjx0Qo
(※2、筆者訳)https://genius.com/Sza-sos-lyrics
(※3、筆者訳)https://genius.com/Sza-kill-bill-lyrics
(※4)https://www.controlledsounds.com/first-week-sales/szas-sos-first-week-sales
(※5)https://www.instagram.com/p/Cl1QvYKKk4r/
(※6、筆者訳)https://genius.com/Little-simz-angel-lyrics
(※7、筆者訳)https://genius.com/Little-simz-x-lyrics
(※8、筆者訳)https://genius.com/Little-simz-broken-lyrics

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