裏切りおにぎり a.k.a Hanakoとはどんなアーティスト? 絶妙なポップセンスと実験精神に満ちた新しい才能の出現

 今年9月、いつものようにサブスクで新曲を漁っていたら、とある楽曲に耳を奪われた。それが「どんな子が?」という何とも興味をそそる疑問系のタイトルが施された曲だ。

裏切りおにぎり a.k.a. Hanako ‐ どんな子が?【Lyric Video】

 繊細なキーボードのタッチと緻密なリズムにまるで音と遊んでいるかのような不思議な楽しさがあり、内省的で等身大の歌詞には心をくすぐるものがある。それが曲が進むにつれて徐々に陶酔感や恍惚感を伴いながら、海底の奥深くまで潜っていくような未知の体験へと誘われた。全体的な印象としては品と洗練で満ちており、この曲をひと言で表せと言われれば「美しい」と答える。絶妙なポップセンスに、ほどよい実験精神、そしていくばくかの乙女心……。まったく新しい才能が現れたという気がした。ただ、どこか歌い方やコーラスの重ね方に聴き覚えがあるなということをなんとなく感じながら、この「裏切りおにぎり a.k.a Hanako」という奇妙なアーティスト名を頭の片隅に置いていたのだ。

 そんなことを考えていたら、すぐにまた新曲がリリースされた。

裏切りおにぎり a.k.a. Hanako ‐ 泡【Lyric Video】

 今度は「泡」というミニマルなタイトリングで、一転してピアノ主体の作品。メロディや言葉を中心に据えた、非常にシンプルな作りをしている。しかし、聴けば聴くほどに裏でひそかに鳴っているサウンドの繊細さや、一つひとつの音の響きの優しさに惹き込まれた。〈ハピネスの匂い〉という表現も独特でいい。上品だが親しみやすさがあり、聴く者を限定しない。この心地よい歌声と穏やかなメロディに、多くの者が癒されるはずだ。すると、後半にある〈あの日、君と見たかった映画の再放送〉というフレーズを聴いてピンと来た。ああこの人のルーツは、宇多田ヒカルなんだと。

どこか力の抜けた温かい質感が魅力

 裏切りおにぎり a.k.a. Hanakoは、18歳でアーティストを志して上京し、今年はFIVE NEW OLDのツアーにコーラスとして帯同するなど、今注目を集めている期待の女性クリエイター。YouTubeで独学で楽曲制作を学び、作詞作曲、レコーディング、ミックスからマスタリングまですべて自身で行うという。

 ネット上にはInstagramのほかにTwitterとTikTokのアカウントを持ち、その独特の世界観を発信している。まだまだ不明な点も多く、これから活動を重ねていくに従って色々と明かされていくだろうが、そうした謎めいているところもワクワクさせられる部分である。

 先ほど宇多田ヒカルの名前を挙げたのは、あのフレーズが「SAKURAドロップス」のワンフレーズを彷彿とさせるからだ。ただそれだけではなく、譜割りの自由さであったり、歌い方やコーラスの重ね方、あるいは日本語と英語を自在に操る言語感覚、洗練されたサウンド構築、楽曲全体から感じる陶酔感の部分であったりと、多くの点で合致するものがある。おそらく宇多田ヒカルの作品から多大な影響を受けているに違いない(実際にSNSで何度か言及している投稿がある)。

 細かく注目すれば、例えば「どんな子が?」の終盤の展開にジェイムス・ブレイクのような先進性や繊細さを感じたり、タイトル含めて特有の言葉遣いにキリンジの要素を感じたりと、他のアーティストの影響を見て取ることもできる。

 だがその中で、裏切りおにぎりの持つ独自性というのは、アートワークやアーティスト画像に代表される脱力感ではないだろうか。なめらかな曲線によって象られたヒトのような摩訶不思議な生物のプロフィール画像、柔らかなタッチによるジャケットアート。こうしたビジュアル面から感じる脱力感は、上記2曲のまろやかな質感を持ったサウンドイメージとも重なる。このどこか力の抜けた温かい質感が、彼女の最も魅力的なポイントだと思う。

 宇多田ヒカルを始めとした多くのアーティストたちの影響、そしてその中にもしっかりと存在する裏切りおにぎり独自のセンス。まだ2曲しか公開されていないが、今後がすでに楽しみなアーティストである。

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