キングギドラ、nobodyknows+、RIP SLYME……国内ヒップホップシーンで活躍広げるベテラン勢 人気再燃の背景とは?
厳密には今年に入っての再始動や再ブレイクではないが、他にも90年代デビュー組のヒップホップグループで気になる動きをしていたのが、SOUL SCREAMとNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの2組だ。まず、SOUL SCREAMは2020年にリリースされた18年ぶりとなる新曲「Love, Peace & Happiness」を経て、今年3月22日に「TOu-KYOu 2021 feat. RHYMESTER, Zeebra, K Dub Shine & DJ Oasis」を発表。1997年にリリースされた彼らの代表曲「TOu-KYOu」のセルフリメイクであり、盟友とも言えるRHYMESTERとキングギドラとの共演という部分も含めて、リアルタイムに原曲を聴いていた層を中心にヒップホップヘッズへ強烈にアピールすることに成功した。
NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDに関しては、2019年に7年ぶりとなる新曲「LIVE19」にて復活した後に、オリジナルメンバーであるS-WORDの脱退を経て、2020年より1年に1〜2曲のペースで継続的にシングルリリースを重ねているのだが、今年10月29日に「FIRE」、その2週間後に「Choose One」とかなり攻めた新曲を立て続けに2曲を発表。そして12月に入ると、さらなる新曲「ケモノミチ」、さらに12年ぶりとなるニューアルバム『SE7EN』がリリースされた。常に予想外の行動をする彼らではあるが、この突如のリリースラッシュは次の大きな動きを期待させる。
彼ら5組の2022年に入ってからの動きは、それぞれグループごとの事情は細かく異なるであろうが、さまざまな面でコロナ禍が大きく影響していたのは間違いない。2020年以降、ライブ活動や作品のリリースが思い通りにできなかったのはどのアーティストも同じだが、そんな期間だからこそスタジオに篭って新曲を録り溜めて、それが今のタイミングになってようやく発表できたというグループも多いだろう。以前は大手レコード会社に所属していた彼らであるが、今やSNSを使ってのセルフプロモーションやデジタルリリースが当たり前となったことで、インディペンデントであっても出したいタイミングで自ら作品をリリースできるようになったことも大いにプラスに作用している。さらに『THE FIRST TAKE』のようなYouTubeコンテンツが人気を得ているのもコロナ禍が大きな要因となっているし、直近のフェスの開催ラッシュも彼らの活動を強く後押しする。
ただ、以上述べたことはベテランだろうが若手であろうが状況は同じだ。ベテランアーティストとして彼らに共通するのは、それぞれがヒット曲を持っており、長年応援しているファンが存在し、現在も魅力と実力のあるアーティストであるということだろう。だからこそ、アーティストとしてのブランクがあったとしても、それがまるでなかったかのように活動することもできる。彼らのファン層の中心は『POP YOURS』や『THE HOPE』のようなイベントに来ている人たちではないだろうが、1990年代、2000年代の活躍をリアルタイムには知らない世代にも訴求するパワーがあり、それが例えばnobodyknows+の再ブレイクなどにも繋がっている。
ベテラン・ヒップホップグループである彼らの活躍が、今現在のヒップホップシーンにどのような影響を与えているかというと、正直なところ判断は難しい。これだけヒップホップというものが多様化した今、リスナーにとっては選択肢が増え、彼らの新曲などを通じて、リアルタイムには知らなかった1990〜2000年代の日本のヒップホップを聴くきっかけになったという人も少なくないだろう。そして、今のヒップホップシーンの最前線を走っているアーティストにとっては、自らの20年後、30年後の姿をイメージする機会になったかもしれない。改めてベテラン勢に望むのは、とにかく今起きている波に乗って、今後も活動を続けてくれるいうことだ。今まで世の中にほとんど存在していなかった50代後半や60代のヒップホップアーティスト像というものを彼らには見せてほしいし、それは若い世代のアーティストにとってもロールモデルにもなるだろう。そして、いずれはアメリカで行われている『Rock The Bells Festival』のようにベテランアーティストだけを集めたヒップホップフェスが日本でも開催されることを期待したい。
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