矢野顕子、変化と進化を繰り返す絶品のアンサンブル 自由度高く鋭いメッセージを届ける『さとがえるコンサート2022』

矢野顕子『さとがえるコンサート2022』レポ

 矢野顕子が、年末恒例の『さとがえるコンサート2022 featuring 小原礼、佐橋佳幸、林立夫』をスタートさせた。

 1996年から始まった『さとがえるコンサート』は、今回で27回目。アンソニー・ジャクソン(Ba)、クリフ・アーモンド(Dr)のトリオから始まり、矢野ひとりの弾き語りはもちろん、忌野清志郎、小田和正、上原ひろみ、レイ・ハラカミ、くるり 岸田繁、TIN PAN(細野晴臣、鈴木茂、林立夫)といったアーティストとの共演など、毎年のようにスタイルを変えて行われてきたがーー自慢ですけど、私、ほとんど毎年観ていますーー今年は昨年に続き、小原礼(Ba)、佐橋佳幸(Gt)、林立夫(Dr)をフィーチャーした(矢野本人いわく)“ザ・矢野顕子”によるツアーとなった。筆者はツアー初日、12月7日の埼玉・戸田市文化会館公演を観たのだが、同コンサート(ほぼ)皆勤賞の私にとっても、強く記憶に残るライブとなった。

 まず特筆すべきは、当たり前すぎて恐縮だが、演奏のすばらしさ。小原、佐橋、林の技術の高さと奔放な閃きが絡み合い、“ゆったり安心して聴ける心地よさ”と“何が起こるかわからないドキドキ感”が共存する音楽空間が冒頭から出現していた。

 特に印象に残ったのは、昨年の夏にリリースされたアルバム『音楽はおくりもの』の楽曲だった。この作品はもともと、「小原礼とレコーディングしたい」という矢野の強い希望によって制作が始まったのだが、ライブでの演奏を重ねるにつれて変化と進化を繰り返し、今年はさらに成熟。落ち着いたという意味ではなく、ハッとするようなフレーズが重なり合うことで、楽曲の新たな魅力が引き出されているのだ。

 “他人の曲をまるで自分の曲のように演奏してしまう”カバーも『さとがえるコンサート』の目玉。今回のツアーでは、久々に「ちいさい秋みつけた」(作詞:サトウハチロー/作曲:中田喜直)が選曲されていた。原曲の情緒をそのままに、ジャズ、フュージョン、ロックなどを自由に行き来しながら、生き生きと美しく形を変えるアンサンブルはまさに絶品。全身を使って奏でられる、矢野のソロ演奏にも強く心を揺さぶられた。ちなみに本楽曲のカバーは1980年代から矢野のレパートリーで、初収録はアルバム『峠のわが家』(1986年)。こちらもぜひ聴いてほしい。

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