連載「lit!」第28回:才歌、椎乃味醂、鬱P、¿?shimon……次に来る! 世界水準のサウンドを鳴らすダークなボカロ曲
毎週1つのテーマに関連した新作から近作をレコメンドする連載「lit!」。今週は、ボーカロイド曲の中から筆者が注目するダークな作品をお届けしたい。今年も様々なボーカロイド曲が台頭したが、とりわけ、執着心、信仰心の強い少女を主人公にしたナンバー、ブルータルなナンバーなどは、今のボーカロイド界隈の隆盛を周知させる強烈なアイコンとなった。本稿ではサウンド、リリック、世界観、テンポ感をはじめ、今のボーカロイド界隈でヒットする要素を持っている4曲を紹介したい。
才歌「私のせいじゃない」
作詞作曲、イラスト、動画のすべてを才歌自身で手がけた「私のせいじゃない」。狂気をまとったピアノの音色と可不、歌愛ユキの音声合成ソフトウェアによる歌声で不穏な空気が耳底に刷り込まれていく。〈本能になっていく〉のリピートが幻想の世界へと誘い、解放的な印象を残す。その一方で、2番目からの〈失敗した〉のリピートでは、自我を保てない操り人形のような人物をイメージさせるなど、常に感情と無感情の間を浮遊しているようなメロディライン。ダンスミュージックの要素に加え、サビなどで奏でるリズミカルで煌びやかなシンセやピアノの音色も印象に強く残る。
椎乃味醂「知っちゃった」
「知っちゃった」は今年の秋に開催された『The VOCALOID Collection(ボカコレ)』のTOP100の3位に浮上した。リリックの大半はポエトリーリーディング風の歌唱となっており、潤沢な情報がコンパクトに収まっているアップテンポなダンスミュージック。直線をなぞるように延々と言葉が放たれていくフレーズは、ボカロP・れるりりのアンセム「脳漿炸裂ガール」にあった捲し立てる高速フレーズを彷彿とさせる。かつての高速ボカロ曲を想起させる一方で、洋楽を意識したエスニックサウンドが取り入れられるなど、令和の時代の新しいボーカロイド曲の波を感じさせる。