桑田佳祐、原点と現在地を結ぶ35周年の充実した日々 『Mステ』や全国ツアーへの確かな手応えを明かす

 その後も、リスナーからのメールに応える形で、『クローズアップ現代』(NHK総合)へ出演した際のエピソードを話したり、現在一緒にツアーを廻っているサポートミュージシャンを紹介したりしながら番組が進行していく。そして話題は、今回のベストアルバムに収録された新曲の1つである「なぎさホテル」へと移っていく。

「9月の初めぐらいに、鎌倉のスタジオで歌入れを始めたんですよね。海繋がりでよかったのかもしれないんですけど、詞を書き始めた途中でね、『なぎさホテル』っていうワードが降りてきたんですよ。もしかしたら、伊集院静先生と夏目雅子さんが私に書くように仕向けたか? っていうふうに思うぐらいね。その後、伊集院先生の自伝小説『なぎさホテル』を読ませていただいてね。お手紙も書かせていただいたり」

「私も茅ヶ崎にいたので、もしかしたらすれ違っていたかもしれない。当時の湘南の海岸沿いっていうのは、賑やかさやかっこよさじゃなくて、やっぱり寂しさっていうかね、そっちのほうが私のような世代の地元民にはすごく思い入れが強い部分なんですよね。だからそういうのと、伊集院先生の『なぎさホテル』という小説の中にある悲しみみたいな部分がすごくシンクロしたような気がしました」

桑田佳祐 - なぎさホテル(Full ver.)

 ここで語られたことからも明らかなように、かつて湘南に実在した名門ホテルを巡る情景を描いた「なぎさホテル」は、まるで自身の青春を回想するかのような原点回帰的な意味合いを持つナンバーとなっている。そして特筆すべきは、今回のベストアルバムに収録された他のヒット曲の中で、この新曲がとても瑞々しい輝きを堂々と放っていることだ。一切衒いのないポップソングを非常に高い精度で生み出す手腕は、健在どころかさらに磨きがかっていて、また、アレンジ面においては果敢なチャレンジ精神を感じさせる。「なぎさホテル」は、ポップミュージシャンとして絶え間なく進化し続ける桑田の現在地を映し出した楽曲で、こうした新曲が今回のベストアルバムに収録される意義はとても大きいと思う。

 番組の後半では、若い世代のリスナーがツアーに参加してくれたことを振り返ったり、ライブや番組収録をはじめとした各現場に、新しい世代のスタッフが増えていることを語った上で、今回のベストアルバムに収録されたもう1つの新曲「平和の街」を流した。SOMPOグループの本人出演テレビCMソングに起用されているため、日々の生活の中ですでに同曲に触れている人も多いはず。〈歌おう Shoo-Be-Doo-Wop!!/いつの日か/大好きな人に巡り会える Someday/平和の街で/共に生きよう〉という歌詞が象徴しているように、桑田はこの楽曲に未来への希望を託している。これまでの他の楽曲たちがそうであったように、この曲も、往年のファンだけではなく新しい世代のリスナーの心にも響くような非常に射程の広い楽曲となっている。桑田は、いつだってポップミュージックシーンの最前線に立ち続けながら、同時にリスナーと同じ時代を共に生きる一人の生活者として、私たちに等身大の言葉で語りかけ続けているアーティストだ。だからこそ彼の語る言葉には説得力があるし、今回の「平和の街」に込められた未来へのメッセージも、きっと時代や世代を超えて、いつまでも高らかに響き続けていくのだと思う。

桑田佳祐 – 平和の街 (2022 Special Making Movie)

 番組の最後に、桑田はこれから幕を開けるツアー後半戦への意気込みを語った。

「このところ、いろいろ感染された方々の名前も聞こえてまいりますけども、私たちも最後までツアーを完走したいと思います」

「来週は、大阪ライブでございます。私も楽しみでございます。コロナ対策、インフルエンザ対策もきちんとやることやってね、皆さんと逢瀬を満喫したいと思います。大阪ライブは、とにかくステージ上はノーコンプライアンスでやります。出しちゃいます!(笑)」

 桑田が生み出してきた数々の珠玉のポップアンセムは、また、66歳にして並々ならぬエネルギーで全国の大会場を廻り続ける彼の姿は、これからも数え切れないほどのリスナーの日々の生活を鮮やかに彩り、励まし続けていくのだと思う。そして、常にまっすぐ時代と向き合いながら更新され続けてきた彼のキャリアにとって、2022年はまだまだ通過点にすぎないはず。今回の「やさしい夜遊び」は、改めて、そう強く確信させてくれるような時間となった。

桑田佳祐、多彩さの奥に光る“親しみやすいポップスの本質” ソロ活動35年間の変化と広がりを振り返る

桑田佳祐のソロ活動が35年を迎え、ベストアルバム『いつも何処かで』が11月23日にリリースされた。ではさっそく、これまでを振り返…


桑田佳祐は音楽人としての自身を更新し続けている 『LIVE TOUR 2022「お互い元気に頑張りましょう!!」』宮城初日公演レポート

昨年開催された、桑田佳祐による全国アリーナツアー『LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」』。こ…

関連記事