清 竜人×内田怜央(Kroi)、新しい音楽に挑戦する意義 互いのクリエイティビティへの信頼が生み出す刺激的な表現

 清 竜人が、<ソニー・ミュージックレーベルズ>移籍第一弾アルバム『FEMALE』を11月30日にリリースする。“原点回帰”を掲げた本作には、「Knockdown」「フェアウェル・キス」「コンサートホール」「離れらない」などの配信シングル、リード曲「愛が目の前に現れても僕はきっと気付かず通り過ぎてしまう」を含む10曲を収録。シンガーソングライターとしてのさらなる深み、そして、現代的なポップスとしての魅力を兼ね備えた充実作に仕上がっている。

 リアルサウンドでは、清 竜人とアルバム収録曲「If I stay out of life...? (feat. Leo Uchida from Kroi)」(清が監督・主演・音楽を務めた同名映画の主題歌)に参加した内田怜央(Kroi)の対談をセッティング。楽曲の制作プロセス、両者の音楽観やルーツなどについてたっぷりと語り合ってもらった。(森朋之)

「新しい音楽への挑戦が、また新しいものを生み出す」(清)

ーー清 竜人さんのニューアルバム『FEMALE』収録曲「If I stay out of life...? (feat. Leo Uchida from Kroi)」に内田怜央さんが参加されていますが、お二人は以前から交流があったんですか?

清 竜人(以下、清):いえ、まったくなかったです。今日で会うのは2回目ですね。

内田怜央(以下、内田):はい。レコーディングで初めてお会いしたので。

ーーつまり、いきなり「曲に参加してくれませんか?」とオファーが来たと。

内田:そうなんですよ。竜人さんが監督した映画の主題歌なんですけど、突然、声がかかって。「なんで俺なんだろう?」と不思議に思いつつも、すごく光栄だなと。会ったこともない人にいきなりオファーするっていう采配もカッコいいと思いましたね。

清:この曲の制作が終わって、あとは歌を入れるだけになったときに、「ラップができるボーカリストが必要だな」と思って。最初はヒップホップの世界にいる、(歌モノの曲に)フィーチャーされてそうなラッパーも考えていたんですけど、そうじゃないなと。歌詞やサウンドには映画の世界観も投影しているし、それを表現できるのは、クロスオーバーな音楽をやってる人だろうなと思ったんです。そのときに最初に浮かんだのが怜央くんで。

内田:え、本当ですか。嬉しい。

清:以前からKroiの曲も聴いていたし、怜央くんのラップパートやスキャットのリズム感、声色もすごくいいなと思ってたんですよ。

ーーKroiの音楽性に対しては、どんな印象を持っていたんですか?

清:初めて聴いたときは「ゲームチェンジャー的な音が鳴ってるな」という印象でしたね。音楽業界のうねりのなかで、世代の変わり目を感じるサウンドが生まれてくる時期があると思っていて、Kroiはまさに「次の新しい音だな」と。ただ新しいだけではなくて、聴き馴染みがよくて、ちゃんとポップスとして落とし込んでいるのも素晴らしいですよね。

内田:ありがとうございます。生きていけます(笑)。竜人さんの音楽はずっと前から身近にあって。「痛いよ」はみんな歌っていたし、音楽業界のなかをずっと走り続けながら、進化をやめないのがすごいなと思います。自分たちもそうありたいと思っているし、尊敬しています。

清:飽き性な部分も大いにあるんですけど、この仕事をしている以上、責任を持って新しい音楽に挑戦し続けるべきだと思っていて。それがまた新しいものを生み出すはずだと期待しながらものづくりを続けているし、怜央くんに伝わっていたとしたら嬉しく思いますね。

内田:竜人さんのアルバムはそれぞれコンセプトがありつつ、1曲1曲、リスナーを飽きさせない仕掛けがなされていて。俺らも1曲ずつ変化したいと思ってるんですよね。

清:普段、楽曲制作はどういう手法でやってるんですか?

内田:実家に生ドラムを置いてるんですよ。まったく防音してない部屋なんですけど、隣が自動車工場で、朝9時になると騒音が鳴り始めるから、そこからドラムを叩き始めて。まずビートから作ることが多いですね。

清:まずはビート感を設定するんですね。生でドラムを録ってるんですか?

内田:そうなんです、マイクもずっと立てっ放しなので。クリックを流して、とりあえず踊って(笑)、「こんな感じのグルーヴにしよう」と決めてドラムを叩いて。その後、ウーリッツァー(鍵盤)とかベースやギターを入れて、デモを作ります。

清:それをバンドに持ち込んで、アレンジメントを進める?

内田:はい。ある程度は自分でアレンジを作るんですけど、メンバー各々のフレージングは任せているところもあって。

清 竜人

清:Kroiの曲を聴いてると、ジャムっぽいところもあれば、しっかり練られたフレーズやハーモニーもあって、そのバランス感がすごくいいんですよね。怜央くんが全部自分で作ってるようにも聴こえるし、ちゃんとバンドでもあるっていう。

内田:インストとかは、全部セッションだったりするんですけどね。竜人さんはどうやって制作してるんですか?

清:基本、どの曲もサポートミュージシャンに弾いてもらうのが前提なんですよ。まず打ち込みでデモを作って、それをミュージシャンに渡してレコーディングして。その場で出てくるソロを活かしたり、ある程度、余白の部分を持たせておくようにしてますね。若いときは全フレーズを完コピしてもらってたんだけど、それも疲れちゃうので(笑)。ミュージシャンによって作り方が結構違うし、せっかくだからこういう話もしてみたかったんですよ。

ーー「If I stay out of life...? (feat. Leo Uchida from Kroi)」は、清さんが主演、監督、音楽制作、編集などを手がけた映画『IF I STAY OUT OF LIFE...?』の主題歌ですが、この映画の成り立ちも聞かせてもらえますか?

清:もともとは自分発信ではなくて、いただいたお話だったんです。“ミュージシャンが役者をやる”というテーマのプラットフォームに参加したんですが、スケジュールがタイトで、なかなか監督が見つからなかったので自分でやることになって。10代の頃から趣味で短編映画を撮ったりしてたんですけど、仕事にするつもりはまったくなかったし、作品にしたのは今回が初めてですね。そのとき“Part I”(『HANARE RARENAI』/脚本・根本宗子)を作ったんですが、いい評判をいただいて。その後「“Part II”を撮り下ろして長編映画にして、映画館で上映しましょう」ということになったのが経緯ですね。

ーーロードムービー的な展開の“Part II”(『秋人』)は脚本も清さんが担当されています。

清:“静と動”というか、Part Iは閉じられた空間のシーンが多く、そのなかで男女の気持ちが動いて物語が進展する。それに対してPart IIは、飽きさせないギミックも必要になるし、映画としてのスケール感もほしかったんですよね。

内田:すごく面白かったです。当然ですけど、自分には絶対にできないことだなと。音楽も素晴らしかったですね。普段はSF映画が好きで、音楽と映像の絡みを気にしながら観てるんですが、この映画は普通の劇伴とは違うアプローチもあって。

清:メッセージ性のある映画ではないし、どちらかというとカルチャー寄りというか、いろんな切り口で楽しんでもらえる作品にしたかったんですよ。サウンドトラックに関しては、シーンと楽曲のバランス、音楽性、曲を入れるタイミングを含めて、慎重に考えながら進めました。

内田:「普通はこの場面でこういう音楽は入れないよな」というところもあって。覆される感じが気持ちよかったです。

清:メインの活動はシンガーソングライターですけど、サウンドトラックはクリエイターとして普段とは違う引き出しを使っているところがあって。いつもは“歌モノ”という制約があるし、「ポップスとは」という不文律もあるんだけど、映画音楽は自分の声が入らない分、自由度が増すんですよね。何でもあり、というか。

内田怜央(Kroi)

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