WurtSは研究者として卓越し、音楽家として飛躍する 多方面なサウンドへ進化したEP『MOONRAKER』全曲解説
WurtSがEP『MOONRAKER』を11月16日にリリースした。WurtSと言えば、2021年1月にTikTokに投稿したオリジナル曲「分かってないよ」が約1カ月で100万回再生を突破して一躍注目を集め、以降もどんどん認知を広めている21世紀生まれの“研究者×音楽家”だ。『MOONRAKER』はWurtSの楽曲配信/映像制作/アートワーク/グッズ販売などを総括して行うプロジェクト“W's Project”に<UNIVERSAL MUSIC / EMI Records>が参画して初のリリース作品。2022年、コンスタントに配信リリースしてきた「Talking Box (Dirty Pop Remix)」「SPACESHIP」「ふたり計画」「コズミック」「SWAM」という5曲に新曲「MOONRAKER」を加えた全6曲が収録されており、WurtSの多方面での進化がよくわかるEPになっている。
1曲目は「Talking Box (Dirty Pop Remix)」。2021年に多くのミームを生んだ「Talking Box」にラップパートを加えたバージョンで、すでに今年TikTokでバズっているので馴染み深いリスナーも多いだろう。そもそもこの“Dirty Pop Remix”の方がオリジナルだとWurtSは明かしているが、「Talking Box」の後に“Dirty Pop Remix”をリリースしたのは、海外のTikTokでリミックスバージョンの方がバズるケースが多くあることを踏まえての戦略だろう。“Dirty Pop Remix”の性急なラップパートは非常に中毒性が高く、楽曲としての強度がより増している。
今年4月に「Talking Box (Dirty Pop Remix)」とカップリングで配信された「SPACESHIP」は『NHKパラスポーツアニメ「スノーボードクロス編」』のテーマ曲として書き下ろされた。それまでのWurtSの歌詞は、「リトルダンサー」に代表されるサウンドのテンションを押し進めるものと、「分かってないよ」のように鮮明に情景を浮き上がらせるものという、大きく分けると2つのアプローチが見られた。しかし、ノアの方舟をモチーフに書かれたという「SPACESHIP」の歌詞は、“大会”と“大海”がリンクしていたり、世の中の正しさ/正しくなさが問われていたり、WurtSという船が大海に乗り出したことが示唆されるなど、意志が明確に示されており、明らかにネクストフェーズを感じる。拍手から始まる、タイトルのごとくまさにスペイシーなダンストラックとなっており、EP『MOONRAKER』を通して描かれている“SF感”“未来感”の先陣を切るような意味合いがある。
「Talking Box (Dirty Pop Remix)[Episode1]」と名付けられたMVに続いて「コズミック[Episode2]」と名づけられたMVが公開され、WurtSが絶賛展開中である“MVが連作になっている”という施策が行われた曲としても記憶に新しい「コズミック」。新アンドロイドデバイス「Nothing Phone (1)」とのコラボレーション企画のために書き下ろされた曲でもある。鍵盤のメロディが印象的な疾走感溢れるバンドアンサンブルと歌メロがとてもキャッチーで抜けも良い。西野カナ、緑黄色社会、SixTONES、ずっと真夜中でいいのに。などの楽曲アレンジで知られるNaoki ItaiとWurtSの共同アレンジによって制作されたところもポイントだ。