デジタルへの移行で変化する音楽プロモーションのあり方 DSP各社のレコメンドに注目

 時代と共に、楽曲ヒットのための効果的なプロモーションは変遷してきている。有線でのリクエスト、TV歌番組の出演、ラジオのヘビーローテーション、トレンディドラマや大ヒット映画での楽曲タイアップなど、その時代を象徴するメディアとのコラボレーションから生まれたヒット曲は多い。そんな中、インターネットが普及し、SNS時代に突入すると、新たなアプローチ=デジタルプロモーションという領域が生まれ、楽曲ヒットの基準もCDの売上枚数から、サブスク(定額制音楽ストリーミングサービス)での再生回数へと変容し、現在に至る。

 そんなデジタルプロモーションによって、従来型の音楽プロモーションはどう変化してきたのかを辿って整理してみたいと思う。

 最初のステップは、紙媒体=印刷物を通じて発信されるニュースや発売告知など一方通行的なものから、その話題を取り上げた記事がネット上でどう拡散され、バズっていくかという観点で価値が計測されるようになったことがあげられるだろう。Twitterのトレンドになるというのも同様である。デジタルプロモーションでは、拡散されやすい話題性を伴ったコンテンツをいかに提供できるかが重要である。

 また、デジタルプロモーションにおいては、アーティスト本人がSNSなどを通じて発信力を高めていくことも求められる。それぞれのSNSの特性を生かしてどのように自己表現をしていくのか、明確なブランディングも必要だ。トラディショナルメディアが覇権を握っていた時代、アーティストやタレントの影響力を測るバロメーターは番組出演時の瞬間視聴率などの推定値が主であったが、YouTubeではチャンネル登録者数の数やコンテンツの再生回数、Twitterではフォロワー数や「いいね」の数というある程度の実数が見えるかたちにシフトしているため、いかにそれぞれのプラットフォームにおいて数字を獲得していくのかも、デジタルプロモーションにおける課題の一つである。

 さらにSNSの時代が進化していくと、拡散力のあるインフルエンサーによる口コミがアーティスト本人の発信よりも影響力を持つ例も散見されるようになっている。その最たる例がTikTokでの拡散だろう。近年、TikTok動画で人気の楽曲がサブスクヒットにも直結している。TikTokではアーティストが自分のアカウントを持ち、自己発信するのはもちろん、主に楽曲の拡散の火付け役となるのは、TikTokerと呼ばれるインフルエンサーたちである。ただし、TikTokのユニークな点は、フォロワー数が少ない一般ユーザーからも、自然発生的に楽曲が拡散していくケースもあるということ。デジタル化された楽曲と口コミの相性の良さは実に興味深い。

 上記の流れを踏まえつつ、より有効なデジタルプロモーションとして今後注目したいのは、各DSP(Digital Sales Provider=デジタル音楽配信事業者)でのレコメンドを獲得することだ。それは、SpotifyやApple MusicなどのTOPページでのリリース告知の掲載や、リスナーから支持されるプレイリストでの選曲、施策と連動したプッシュアーティストに選ばれることなどを指す。CDショップで言えば、いかに目立つ場所にCDを陳列してもらえるか、どのくらいの数の試聴機にCDを入れてもらえるかということに近く、サブスクユーザーに最もダイレクトにプロモーションできるアプローチである。そして、CDショップ各店に独自のカラーがあるように、各DSPにもレコメンドの特徴や強みに少しずつ違いがある。

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