YONA YONA WEEKENDERS 磯野くん、楽しさを実感して定まった“バンドの軸” 自然体な曲作りに至った心境を明かす

 昨年メジャーデビュー、セルフタイトルの1stフルアルバムを携えての初ツアーも成功させ、まさに今勢いを増している4人組、YONA YONA WEEKENDERS。「ツマミになるグッドミュージック」というコンセプトは貫きながらも、その表現はさらに自由に開かれたものになってきている。

 そんな彼らの最新作となる4作目のEP『嗜好性』は、まさにそのタイトル通り、改めてYONA YONA WEEKENDERSというバンドが好きなもの、好きなこと、そしてそれをやり続けていくんだという意思を詰め込んだ作品だ。かつて過酷な労働環境に身を置きながら、そのフラストレーションの捌け口としてこのバンドを始めた磯野くん(Vo/Gt)だが、今の彼にとってのバンド、そして音楽はもはやそういうものではない。今作の最後に収められている彼らの新機軸にして最新の名曲「月曜のダンス」を聴けば、今の彼がどんな決意をもって、どこに向かって音楽を鳴らしているのかがわかるだろう。その心境の変化とバンドの現在地とは。じっくりインタビューした。(小川智宏)

「同じような境遇の人に寄り添う曲が、自然と出てくるようになった」

ーー昨年フルアルバムをリリースして、初のツアーも開催しました。そのなかでどんなことを感じていましたか?

磯野くん:インディーズの2枚目(2nd EP『街を泳いで』)を出したタイミングでコロナ禍になって。ほぼライブもできず、その2nd EPに関してはリリースパーティーもできないような状態だったんです。サブスクとかの再生数が結構伸びてるなっていう実感はあったんですけど、本当にそれを聴いてくれる人がいるというイメージがあまり湧かないような状態で。でも去年のワンマンツアーで実際に各地を回って、有観客でライブができて。本当にこんな僕らのことを待ってくれてる人が増えたんだなっていう驚きみたいな気持ちはありましたね。

ーーそういう感覚って、ライブのMCとか歌詞とか、発する言葉にも影響を及ぼしていますか?

磯野くん:そうですね、前向きな曲を書くことが多くなったかな。最初に書いた曲なんかは、当時僕が勤めていた会社や上司に対する愚痴を歌った曲だったんです。でも今は同じような境遇の人を応援するというか寄り添うというか、そういう曲が自然と出てくるようになったと思います。

ーーそういう経験を経て、レコーディングの空気やムードも変わりました?

磯野くん:そうですね。僕らは社会人をやりながら活動しているバンドなので、レコーディングが始まったぐらいから「納期がいつで……」みたいなことを言われていて。だからわりと慌ただしかったんですけど(笑)、その中でも明確に届ける人が見えた状態で作れたので、結構みんな前のめりというか。今まではレコーディングをやってても「果たしてどれぐらいの人がこれを聴いてくれるのか」と手探りな部分があったんですけど、今回はそういうのは一切なくて。とにかく、僕たちのことを好きな人だったり、もちろんこれから出会う人もそうですし、そういう人たちに単純にもっと届けたいなっていう思いで、楽しくレコーディングできたのかなと思います。

ーー1曲目が「考え中」で、これはMVも作られていますけど、すごく象徴的なものになっていますよね。このバンドが結成されるきっかけが描かれているという。

磯野くん:僕らのMVは初期から友人がずっと撮ってくれているんですけど、細かいストーリーとかは全部監督が考えてくれているんです。僕が出しゃばりなので、とにかく演技をやりたい、あとはMVを通してヒロイン的な方とちょっと絡むシーンを出してほしい、みたいなことしか言ってないんですよ。僕からは歌詞を送って、「これはこういう曲だよ」っていうイメージを伝えるだけで、監督が噛み砕いてできたのがあのMVなんです。だからこういう内容になるって聞いたときは「へえ〜」みたいな感じでした。

ーー撮りながら当時を思い出したりもしました?

磯野くん:そうですね。朝から晩まで本当に怒られ続けていた頃の気持ちをちょっと思い出しました(笑)。

YONA YONA WEEKENDERS “考え中” (Official Music Video)

ーーこの曲自体は、自分の思い出を振り返ったりするようなものじゃないですよね。それなのに監督がこういうストーリーにしようと思ったのもおもしろいですね。

磯野くん:でも、働きながらバンドをするっていう決断をしたのもそうだし、今こうやって、健全に働きながら、家族もいてバンド活動も楽しくできている。そのいろいろな「考え中」を経て、たどり着いたものでもあるから、最初のきっかけの「考え中」をMVでは描いているのかなって思います。

アパレルとのコラボで感じた“好きなものへの情熱の大切さ”

ーーそうやっていろいろな選択をしてバンドを続けていく中で、磯野くんにとって「バンドとは何か」という立ち位置も変わってきたんじゃないですか?

磯野くん:そうですね。最初はやっぱりストレス発散だったんですよ。バンド中心の生活はもうできないと思って、それまでやっていた音楽をやめて会社員になって。結婚して、子供がいつか生まれて、マイホームを建ててみたいな、普通の幸せな家庭を築いていこうと思っている中でこのバンドを始めたので、最初はまず普通の生活があって、バンドは本当に趣味っていう気持ちだったんです。だけど今は、自分は音楽っていうもの、バンドっていうものがあるから心が健康に生きられてるんだなって。一番大事なものなんじゃないかなと思うようになりました。

ーーそこに気づいたのっていつぐらいなんですか?

磯野くん:どうだろう。今の事務所に入って、いろいろライブができたり、表舞台に立てるようになってから「やっぱり楽しいな」っていう気持ちが生まれてきて。こういうのがたくさん増えたらいいなとは思っていたんです。でも本気でバンドを中心に置いていきたいと思ったのは、それこそ去年ツアーを回ってるときとか、アルバムを作ってるときとかですかね。仕事をしながらだったのでアルバム制作も大変だったんですけど、やっぱり仕事よりも楽しいし。1回、僕のライブを今の会社の上司が観に来てくれたんですよ。そのときに「会社で見たことないような生き生きした磯野を見た」って言われて(笑)。僕、会社では正直営業成績がいいほうではなくて、社内で「大丈夫か?」みたいな感じになったりもしたんですけど、「そういうことだったんだ」って上司も納得してくれて。

ーーめちゃくちゃいい会社、いい上司ですね。

磯野くん:そうなんですよ! すごくサポートをしてくれる会社なので。そのときに「やっぱりそうか」と思いましたね。

ーーそれこそ最初はストレス発散や現実逃避から始まったバンドだと思うんですけど、そうじゃなくなってきているわけですよね。その気分とか環境が今回の作品を作らせているんじゃないかなと思います。今回収録されている曲、どれもすごく肯定的だなって思うんです。

磯野くん:そうですね。「Ice Cream Lovers」みたいな曲でも、ちょっと投げやりな気持ちだったりするんですけど、それさえも「しょうがねえな」みたいな気持ち。前向きではあると思います。

ーー「1989’s」も、まさに好きなものを詰め込んだような曲になっています。これはBEAMSの名物バイヤーの加藤忠幸さんと出会ったことをきっかけに生まれた曲なんですよね。

磯野くん:そうですね。最初は加藤さんから「一緒にやりませんか」みたいに声をかけていただいて(今年4月にBE AT TOKYOの企画「illmatic sense」でコラボ)。音楽とはまた別の業界、カルチャーと一緒にやるというのも初めての経験だったんで、どうなるのか想像がつかないまま始まっていったんですけど、結局ジャンルとかフィールドが違えど、やっぱり自分の好きなものに対する情熱や向き合う姿勢みたいなところって変わらないんだなってすごく思って。加藤さんがファッションやアパレルと同時に農業をやっていて、二足のわらじを履いているところもシンパシーを感じましたね。

ーーこのEPも、自分の趣味性だったり好きなこと、好きなものを散りばめて作っていて、決して媚びていないところがいいと思うんです。そういう感覚も加藤さんと通じるものがあったのかもしれないですね。

磯野くん:はい、まさにそうだと思います。

YONA YONA WEEKENDERS “1989's” selected with Tadayuki Kato(SSZ) Lyric Video

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