never young beach、新たなサポートメンバーと鳴らした“忘れられない一夜” 自由な遊び心を爆発させた3年ぶりのツアー

ネバヤン、3年ぶりのツアーレポ

 バンドの歴史で節目になる瞬間に立ち会う。長く音楽に関わっているとそういう経験は何度かある。不思議なのは、その記憶が必ずしも「完璧に計算され尽くした演出による百点満点なセットリストのライブ」とは限らないこと。むしろ、忘れられない一夜はそういう予定調和な物差しでは測れないものだ。ミスや綻びもたくさんある。だけどそれを超えた興奮や喜びがそれぞれの感覚を突き刺し、誰もが勝手に踊り出す。2022年7月13日、Zepp DiverCityにてnever young beachは、そんな忘れられないライブをした。

安部勇磨

 開演前の場内BGMは、映画『男はつらいよ』のサウンドトラックから。若い観客に聴き覚えがどれくらいあるのかわからないが、懐かしいテーマソングのメロディや様々な挿入曲など、昭和なサウンドがひたすら淡々と流れてゆく。みんなポカンとしたり、くすくすしたり、「また安部ちゃんが何かやってるよ」と思ったりしてるんだろうか。

 思い返せば、2017年に新木場STUDIO COASTで、彼らが敬愛するデヴェンドラ・バンハートをゲストに迎えて開催されたライブ(2017年12月7日の『「A GOOD TIME」Release Tour “extra show !!”』)でも、大会場での特別なイベントなのにBGMはずっと8bitくらいのゲームミュージックが流れていたっけ。その時その時で好きなものを隠さず、みんなに伝えたくなっちゃうのが安部勇磨(Vo/Gt)の性格であり、ネバヤンの流儀になっているんだよな。そんなことを考えながら『男はつらいよ』のメロディを聴いていたら場内が暗転し、渥美清が歌う主題歌「男はつらいよ」が大音量で流れ出す。そして本当に舞台に、フーテンの寅こと「車寅次郎」が現れた。チェックのスーツ、水色のダボシャツ、胴巻き、雪駄、中折れ帽など完璧なコスプレ(指輪までしていたそう)。しかも、寅さん1号、寅さん2号……が続々と現れ、最終的にメンバー全員、寅さんの格好だった。

 最後に登場した安部は、寅さんよろしく、客席に見栄を切ってご挨拶。でも、「そのままみんな演奏するの?」「サクッと脱いでTシャツになったりするんじゃないの?」ーーそんな巨大な“?”マークが客席に浮かび上がりそうになるのもまるで気にせず、「どうでもいいけど」のイントロが鳴り響いた。

 いやあ、楽しい。彼ら、本気で寅さんだ。ついついその不思議すぎる光景に目を奪われてしまうけど、実はこの名古屋・大阪・東京でのワンマンツアー『never young beach おひさしぶりツアー 2022』は、コロナ禍を挟んで約3年ぶりという重要なもの。さらには2021年11月、福井でのライブを最後に結成以来のギタリストだった阿南智史が脱退し、安部、巽啓伍(Ba)、鈴木健人(Dr)の3人にサポートメンバーを加えての活動継続を選択したネバヤンにとってリスタートの舞台でもある。ネバヤンのサウンドの大きな核であったツインギター(安部も加えればトリプル)が、両方とも助っ人任せになってしまうことへの不安を少なからず持っていたファンもいただろう。

 しかし、結論から言えば、それはまったくの杞憂だった。新たにバンドをサポートするギタリストは、20代前半の頃から、森は生きているのリーダー/ギタリストとして安部がずっと一目置いてきた岡田拓郎。さらにバンド(DYGL)とも交流が深く、漢気なギタースタイルを持つ下中洋介という、ネバヤンの3人がともにリスペクトする2人だ。

 そんな2人のギタリストが同時に新任になったことも、これまでのスタイルに敬意を払いつつ自分たちらしさも自由に発揮しやすい土台になっていた気がする。岡田がペダルスチールを弾いたカントリータッチの新曲2曲(「カントリー」「ネバヤンブルース」とそれぞれ仮タイトルがついているだけのでき立てほやほやっぽい曲)など、彼らの存在は過去をなぞるための補助としてではなく、新しいものを生む刺激になっていることが、いろいろな場面で伝わってきた。そして、その自由な振る舞いがネバヤン本体への刺激になり、その相互作用が嬉しさとなって客席にも伝播してゆく。

 そして、安部のソロアルバム『Fantasia』(2021年)への参加がきっかけになり、このツアーにもキーボードで参加した香田悠真も含め、寅さんコスプレをしようという提案を(ちょっと戸惑いつつも)受け入れる性格の良さと遊び心が頼もしいじゃないか。

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