『温泉むすめ』プロデューサー 橋本竜、コロナ禍で直面したプロジェクトの危機 温泉地と共に歩む再生の道のり
温泉地の意識を変えた、『温泉むすめ』の功績
――改めて、温泉地と『温泉むすめ』の関係性について聞かせてください。
橋本:よく温泉地の方にお伝えしているのが「皆さんが主役です」と。我々はキャラクターを作った運営元ですが、やっぱり温泉地の皆さんにイニシアチブを持っていただきたいですし、地域の方が積極的に「次はこれやりたい」「これを売りたい」という状況にならないと、我々がビジネスプランをパッケージ化してもファンの方にその熱意や魅力が伝わらないと思っています。『温泉むすめ』の面白さって、多様性だと思うんです。コンテンツとしての多様性だけでなく、ローカライズされて地域ごとに面白い取り組みができることです。なので我々が作る公式グッズもあれば、温泉地の皆さんが考案される公認グッズもありまして。公認グッズは本当にバラエティに富んでいて「こんなものを作っちゃうんだ」みたいな驚きが毎回あるんです。現地の人の愛情とか知恵やアイデアが詰まった公認グッズは、ファンとしても欲しくなる逸品だと思っています。
――常日頃から連携をとっているからこそ、皆さんの意見をピックアップ出来るんでしょうね。
橋本:はい。こうしてインタビューを受けている間にも、ご連絡がたくさん届いています。温泉地の皆さんが参加できる温泉地ごとのLINEグループを作っていまして、その中で「次はこういうグッズを作りたいです」「こういう書き下ろしイラストを作りたいです」「こんなファンの方が来られました」などのご相談・ご報告がひっきりなしに飛んでくるんです。
――LINEグループに関連する話で言えば、これまで温泉地同士はライバル関係にあったところを、『温泉むすめ』によって皆が支え合い宣伝し合えるようになった、と聞きました。そういう意味では、温泉業界を変えたと言えるのかなと思うんです。
橋本:おこがましいですけど、意識は確実に変えられたと思います。分かりやすい例を挙げると岡山には湯郷温泉、湯原温泉、奥津温泉の“美作三湯”がありますが、これまでは一切連携をしていなかったらしいんです。そんな中、「せっかく『温泉むすめ』が3人いるし、活用していこう」ということで三湯が連携するようになりました。先のLINEグループもそうですし、スタンプラリーをやったり、三湯だけのアイドルユニット(MiMASAKAスリースターズ)を組んだりもしているんです。それに伴ってお客さんもたくさんいらっしゃって、非常に好評の声をいただいています。今までは隣の温泉地はライバルで、お客さんを奪い合う関係だったんですけど、逆の発想で「例えば三泊してもらうなら、各温泉地に一泊ずつしてもらえばいいじゃないか」と考えるきっかけになったのは、全国展開をしている『温泉むすめ』ならではだと思います。今って楽天さん、じゃらんさんなどのOTA(オンライン・トラベル・エージェント)で宿泊の予約をされることが多いと思うんですけど、そうなると温泉旅館単位になるので、温泉地の知るきっかけってあまりないんですね。我々は「1箇所の温泉地だけじゃなくて、隣の温泉地もおすすめですよ」と、来訪者に多くの選択肢を紹介する温泉地プラットフォームとして機能しています。
――Twitterを見ていると「岡山の『温泉むすめ』に会いに行ったし、このまま北へ行って鳥取の『温泉むすめ』にも会いに行こう」と足を伸ばしている方もいますよね。
橋本:それが出来るのも各地に『温泉むすめ』というキャラクターがいて、独自のプラットフォームがあるからこそですね。色々な所を自然に回遊してもらえるのは、『温泉むすめ』の最大の強みでもあります。宿泊数だけで言ったら『温泉むすめ』きっかけの経済効果やインパクトは弱いかもしれませんが、「温泉地の意識改革に関しては『温泉むすめ』に取り組む前と後で大きく変わった」と多くの方に言っていただけます。とはいえ表立った数字に出ないので「『温泉むすめ』のファンなんて少ないし、そんなに影響力はないでしょ?」と言われますが、全くそんなことはなくて。そもそも東京の企画会社が作った新しいコンテンツを歴史のある温泉地が受け入れて「若いお客さんを取り込みたい」と思っていただくだけでも、大きな意識改革ですから。さらに「こんなにお客さんが来るんだったら、もっと周りの温泉地とも仲良くして、皆で助け合いながらやって行こう」というのは第二の意識改革だと思います。今まで政府を含めて色々な方が地域創生・地方活性化に挑戦されていますが、全国規模で網羅的に盛り上げることは誰も叶わなかったと言われる中、ここまで意識改革含めて結果を出せていること、それは『温泉むすめ』の功績として胸を張っていいのかなと思っています。
――前回インタビューをした2018年の年末から色んな変化があったと思いますが、現在はどのような取り組みをされているのでしょうか?
橋本:キャラクターを使った地域創生は、アプローチの1つではありますが、それが全てではないとこのコロナ禍を含めた5年間で感じました。今は『温泉むすめ』を運営するエンバウンドとは別に、ルーラという会社でQRコード決済サービス「ルーラコイン」を始めました。使用された金額の1%が自動的にその地域に寄付される仕組みとなっていて、購買行動が地域貢献や観光支援に繋がるのが特徴です。よって、既存のキャラクターを使って地域に利益を生む方法も進めつつ、QRコード決済を含めたデジタルツールを使ってのDX(デジタルトランスフォーメーション)化で温泉地を活性化する。そんな2つの方法に同時に取り組んでおります。
――QRコード決済サービスは、いつから始められたんですか?
橋本:今年の2月からサービスインしたので半年ちょっとになりますが、おかげさまで加盟店も使えるエリアも増えていまして。さらにQRコード決済だけではなくて、もっとほかのアプローチでも引き続き観光支援をしていこうと考えております。やはり地方創生は何が成功するか分からないので、まずはやってみるという積極性が必要だと思っています。なにより、今は9月11日に開催する飯坂温泉のイベントに力を入れていまして。久しぶりのライブですし、結構なボリュームの内容になりそうなんです。採算の問題、コロナの問題などいろいろありますが、かといって弱気になってもいけない。我々が先頭に立ってやっていくのが大事かなと思っています。