帰ってきた夏の『TIF』で見た、アイドルとファンの新しいコミュニケーション 何度も蘇る7つの思い出

 2年ぶりの夏開催となった『TOKYO IDOL FESTIVAL 2022』(以下『TIF2022』)は、史上稀に見る涼しさから始まってほっとしたのも束の間、翌日には気温30度を超え、曇天のまま蒸し暑かった。この酷暑の中、それでも命がけで灼熱のお台場に出向いてしまう理由は何だろう。

1. 『 TIF2022』で出会った、ときめきたち

ゴリエ、桐原美月(リルネード)、小鳥遊るい(#ババババンビ)、高井千帆(BOLT/浪江女子発組合)

ゴリエ:8月6日 SMILE GARDEN

「みんな! ゴリエだよ~! ゴリエって、実在したんだよ~!!」

 『ワンナイR&R』(フジテレビ系)から生まれたキャラクターが、当時の姿そのままに令和のSMILE GARDENに現れる。当時の私はゴリエのヒット曲「Pecori♥Night」の底抜けの明るさに元気づけられていた。『TIF2022』連動番組『ねる、取材行ってきます〜TOKYO アイドルタイムズ〜』(フジテレビ系)内の企画で誕生した“ゴリエ チアダンス部”は、“ダンスが苦手な子”選抜の練習を重ね、成長していく過程を見せる。チアダンスはその名の通り、誰かを応援するためのもの。

 最後にサプライズ登場し、ワンフレーズを完璧に踊ったTIFチェアマンの長濱ねるさんには「アンタ、あたしたちのこの1カ月間の努力を全て持ってったわね!」としっかりツッコミを入れ、去り際にはきちんと「本日の主役!」と、チアダンス部員のアイドルたちを紹介するゴリエ。

 当時自分を元気づけてくれたゴリエに会えただけでも嬉しかったけれど、参加アイドルたちにステージ上で優しく微笑みかけながら踊っていた姿を眺めながら、キャラクターの中にある本当の優しさと気遣いが垣間見られてグッときた。

小鳥遊るい(#ババババンビ):8月6日 SMILE GARDEN

 遠くから見ると小柄できゅるきゅる、子リスのような可愛さ、近づいて見ると猛禽類を思わせる鋭い瞳のギャップに驚愕。

高井千帆(B.O.L.T./浪江女子発組合):8月7日 SMILE GARDEN、DOLL FACTORY

 キュッと整ったギリシャ彫刻を思わせるお顔に、包み込まれるような菩薩の微笑み。90年代『Seventeen』から抜け出してきたようなギンガムチェックの衣装のレトロ可愛さ。

桐原美月(リルネード):8月6日 SKY STAGE

 ワンフレーズごとに表情がくるくる変わり、全身から「私が世界で一番カワイイでしょ!」が爆発していたリルネードの桐原さん。インスタを覗くとクールな表情。完璧に自分を作り上げている“可愛さ職人”の技に感動。100%カワイイに全振りの桐原さんが観られるのは、今年9月28日のワンマンライブの日まで。

2. 東京アイドル衣装コレクション2022

 その人を一番可愛く見せるために作られた特別な衣装を一挙に見られるのも、大型イベントの魅力。写真や映像で予習したフリル・レース・メンバーカラーなどの記号的要素も、生で見るその質感、素材感、そしてそれらを纏っての動きそのものの情報量に、あっという間に上書きされていく。

 作詞家・児玉雨子さんが以前Twitterスペース上で推薦されていた『異文化としての子ども』(本田和子/ちくま学芸文庫)の一章“ひらひらの系譜ーー少女、この境界的なるもの”も拝読。多用されるフリルやリボンの“ひらひら”が一瞬一瞬変化していく揺らぎは、アイドルたちの楽曲に寄り添い呼応する。その時“ひらひら”は服の一部という存在を越えて、人間の移ろいやすい心情そのものを可視化している。

漆原裕菜(PANDAMIC)、南雲咲楽(開歌-かいか-)、新間いずみ(fishbowl)、芹澤もあ(ukka)

PANDAMIC:8月7日 ENJOY STADIUM、DOLL FACTORY

 シンプルで渋く、夏よりも秋を思わせる色味の中に、パンダのような白黒のモノトーンが差し込まれた粋な配色。UNDERCOVERやCOMME des GARCONSのように強くてクール、すらりと大人びて見えるシルエットの美しさ。

開歌-かいか-:8月6日 ENJOY STADIUM、SKY STAGE

 いつもカラフルで繊細。PAUL & JOE的なペールピンクをベースに、細かいスパンコールで描かれたテキスタイル、スタンドカラーと肩周りの重み、スカートのサイドに大きく盛られたチュールがふわりと広がる、Simone Rocha的シルエットと質感に、70年代Courrègesな丸バックルベルト。トレンドとレトロを絶妙に組み合わせた印象は、どこか懐かしいのに新しい開歌-かいか-の音楽にも繋がる。

fishbowl:8月7日 ENJOY STADIUM、SKY STAGE

 ステージ衣装を手がけたスタイリスト iwatsu yuiさんが呟いた「ライトが当たった時にキラッと反射して光る」、その狙い通り、太陽光も夜の照明もサテンの上でキラキラ光り、さっきまで水の中にいた金魚がそこに現れたとしか思えなかった。(※1)

ukka:8月5日 HOT STAGE、DREAM STAGE/8月6日 SKY STAGE、SMILE GARDEN

 限りなく白に近いパステルグリーンに、ピンクのパイピングとお花の刺繍。繊細な京和菓子のように上品ですっきりした色使いは、賑やかなアイドルたちの中でも一際輝いていた。

3. 若い翼は大空仰ぐ

 人の魅力に年齢は関係ないけれど、若い命が放つぎらぎらしたエネルギーと、サングラスも貫いてくる眩しさには、どうしても惹きつけられてしまう。ステージ間を移動しようと自転車に乗った瞬間、足がつりかけた運動不足の『ASAYAN』世代には、若者たちの生命の輝きが痛いほど染みる。今後もアイドルを見つめ続けるために、健康と体力作りを改めて決心した夏。

fishbowl:8月8日 ENJOY STADIUM、SKY STAGE

fishbowl

 「朱夏」のMV以来、ずっと気になっていたfishbowlを初めて観た。ほんの数秒で心掴まれるイントロと共に目の前に現れた4人、高まり切っていた期待をふわりと越えて、ただただシンプルに音の響きの中を泳ぐよう。夜の闇の中で踊る金魚を擬人化したような衣装は、夏祭りの金魚すくいの煌びやかさ。

 儚いイメージの金魚だけど、幼い頃に近所の家で飼われていた金魚は、どう見ても鯉では……という大きさまで育って何年も生きていた。fishbowlもそんな長生きする金魚になってほしい。

アップアップガールズ(2):8月5日 HOT STAGE/8月6日 SMILE GARDEN

アップアップガールズ(2)

 東京女子流のエレガンスの次に現れたアプガ(2)は、“目の前にいるお客さんの心を全部持っていくぜ!”という気迫の好対照。初のメインステージ(=HOT STAGE)、代打が決まってからの短期間で仕上げてきたとは思えない完成度で披露されたBEYOOOOONDS「ニッポンノD・N・A!」のカバーは、底抜けの明るさとその裏側の想像を絶する努力が見え、と存在しない孫を見守るような気持ちになり涙。細くても引き締まった筋肉がついた足には、日頃の鍛錬が表れていた。

 90年代J-POPのギラギラ感が耳にこびりついて離れなくなる、つんく♂による楽曲「Be lonely together」。『ASAYAN』を夢中で観ていた自分はどうしても反応してしまう、この3日間で最も踊りたくなった時間。

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