THE COLLECTORS『Living Four Kicks』ツアー開幕! 無比のポジションを手にして放つ円熟のステージ

 THE COLLECTORSが初の日本武道館公演を行ったのは、メジャーデビュー30周年を迎えた2017年のこと。その3年前、同じく初の武道館に立った怒髪天の増子直純が、感極まって「みんなやったほうがいい。次はお前らか?」と煽ったこともきっかけのひとつだった。名指しされたのはTHE COLLECTORSだけではなく、フラワーカンパニーズ、ピーズなどが同時期に次々と武道館公演に踏み切っていく。いわゆる「武道館バトン」と呼ばれた一時期のムーブメントであった。

古市コータロー

 しかし、THE COLLECTORSだけはその後、二度目の武道館公演に挑んでいく。2022年3月13日のことだ。一生に一度と言い切ったほうが格好いい気もするし、コロナ禍で人を集めにくい時期にやるのかとの声も少なからずあったはず。それでも彼らは堂々と二度目を成功させ、興奮も冷めやらぬうちに夏の東名阪ツアー『THE COLLECTORS 35th anniversary live action “Living Four Kicks 2022”』へと突き進んでいく。7月23日、豊洲PITで行われたこのライブが、その初日となる。

 武道館での物販グッズであったペンライトを持参したファンが多数。ほんの数カ月でもTHE COLLECTORSのライブなしに人生の喜びはないと言い切る人ばかりが集まったようだ。椅子席のPITはほぼ満席。スタンディングなら倍以上の人数が入るだろうが、加藤ひさし(Vo)のMCによれば「大人なんだから椅子席がいいよね(笑)」とのこと。異論はない。そもそもTHE COLLECTORSはモッシュピットで騒ぐ類の音楽ではないのだし、オーソドックスでスウィートなロックンロールをそれぞれ踊りながら感じたいだけ。4人には広い会場がよく似合う。

古沢“cozi”岳之

 1曲目「限界ライン」から安定のプレイが続く。ラフなTシャツ姿で現れ、なんの気負いもなさそうに音を鳴らす古市コータロー(Gt)、山森“JEFF”正之(Ba)、古沢“cozi”岳之(Dr)の3人。背の高い古市が持つエレキギターは通常よりも小ぶりに見えて、ものすごく簡単に弾けそうな、手軽に扱えるオモチャのような錯覚を覚えてしまう。古沢の叩くエイトビートも然り。おそらくかなりの技術を要するものだが、あまりにも軽やかなものだから、必死に頑張っていますという主張がまったく感じられない。なるほど、こういうものを円熟の芸と言う。

 遅れて登場した加藤が見せるのも芸の極みだ。大柄な肉体をフルに使った圧巻の声量。高音域まで余裕のハイトーンボイス。凡人には着こなせないド派手な衣装も含めて、揺るぎない「芸」がすでに成立している。一寸先どうなるかわからない、危なっかしさを売りにするバンドではないのだ。

 それってロックとしてつまらないんじゃないか、と考えるのはTHE COLLECTORS未経験者である。危なっかしさのない、余裕にして円熟の芸を身に付けた4人は、そのうえで永遠の憧れを追い続ける。〈好きなもの 好きなひと 好きならもっと好きになれ〉と歌う2曲目「TOUGH」(1997年発表)が青い時代の理想だとはちっとも思えない。考えてみれば加藤が歌うのは無我夢中の憧ればかり。ここではないどこかに連れて行ってくれと願うものばかりなのだ。醒めない夢と憧れは、時間と共に輝きを増して、もはや絶対に手放してはいけない何かになっている。THE COLLECTORSそのものになったと言ってもいいのだろう。

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