THE COLLECTORS 加藤ひさし、二度目の武道館を振り返る 開催までの葛藤、ステージ上で抱いた思いとは

加藤ひさし、二度目の武道館を振り返る

 2022年3月13日に行われた、THE COLLECTORS結成35周年を記念した二度目の日本武道館公演が、4月24日にWOWOWプラスで独占放送される。

 どんなライブだったかはこのリアルサウンドでもレポートしたが、そんな記念すべきライブについて「やり遂げてみていかがでした?」と加藤ひさし(Vo)に聞くインタビューを行なった。いろんな意味で本音ダダ漏れの、素敵なテキストになったので、じっくり読んでいただければ幸いだ(兵庫慎司)。

「もう今日は炸裂のロックンロールだな」と開き直り

ーーまず、二回目の日本武道館、前回以上にドラマチックじゃなかったですね(笑)。

加藤ひさし(以下、加藤):ドラマチックじゃなかった? まあね、なかったねえ。フジパシフィック(THE COLLECTORSの出版管理会社)の朝妻(一郎)会長が観に来てくれたのね。「加藤、ライブは良かったけど、おまえMCはさ、古市(コータロー)くんと相談して台本作ってしゃべれよ」って言われてさ(笑)。つまり、もうちょっと35周年のしゃべりをしなさい、ってことなんだろうね。

ーーあのしゃべりだからいいんじゃないですか。35周年だろうが武道館だろうが、ライブハウスやポッドキャストの時とまったく変わらない、あれを武道館でもやっていることに価値があると思うんですけども。

加藤:いや、それを問題だと思ったんじゃない?。「おまえら、いいかげんにしろよ」っていう(笑)。俺、1月3日にニューロティカの武道館を観に行ったら、あっちゃん(ATSUSHI、Vo)が「ありがとうございました!」って、100万回ぐらい言っててさ。

ーー言ってましたね。

加藤:「そんなに言わなくてもいいだろ」って思ったんだよね(笑)。だから俺は、あんまり言うのやめようと思って。あっちゃんはいいんだけど、俺たちは2回目だし、大きなところだからといって、かしこまった話をするのは楽しくないから。ライブDVDとかで観ると、大きいステージに立つミュージシャンって、しゃべりがデカくてヘンテコなんだよ。MCでその話をしようとして、コータローに止められたんだけど。

ーー「DVDになる時にカットされる話はいいから」って止められてましたね。

加藤:おもしろいんだよね。当たり前のことをもっともらしくしゃべっていたりしてね。「君はさ、君自身なんだよ」みたいな。だから、俺はそういうのはやめたいな。と思ってね。

ーー今回はステージに立った最初の瞬間、どんなことを感じました?

加藤:「1階スタンド(席)の客が少ねえなあ」って思ったね。座席がひとつ飛ばしになるし、満員は入れられない。というのはチケットを売る時からわかってたはずなのに、実際見てみるとショックだね。ステージに立って振り返った時、「思ったより少なく見えんなあ」って思ったよ。逆にアリーナは、同じようにチケットを売っていても、いっぱいに見えんのね。

ーー日比谷野音もそうで、一席飛ばしで売っても埋まってるように見えるんですよね。

加藤:そうそう、野音みたいに客席がなだらかに上がっていく会場だったら、そんなに隙間が見えないんだけど。武道館のスタンド席って、本当に縦に見えんのよ。それが第一印象。それと、歌い出した瞬間に残響がかなり残ってるのね。武道館って人が満員に入ると、残響が消されるから。

ーーああ、人の身体が音を吸うから。

加藤:それでやりやすい感じになるんだけど、残響が残ってるということは、つまり、やりにくいわけですよ。それはどうにもならないから、ドラムが鳴った瞬間にもう開き直りだね。「もう今日は炸裂のロックンロールだな」みたいな。

ーーじゃあ実際やりにくかったんですね。

加藤:めっちゃやりにくかったよ。

ーー観ている分には、まったくわからなかったですけど。音も良かったし。

加藤:残響があるってことは、聴いている方は気持ちがいいの。音がふくよかに聴こえるから。でもやってる方は、音が2つにも3つにも聴こえたりするので、それとの戦いなんだよね。今、イヤーモニター(イヤモニ)で演奏する人たちが多いから、イヤモニをしてる人は、どんなに響こうが関係ない。でも、俺たちみたいにイヤモニを使わないバンドは、ホールの大きさとか特性でガラリと演奏環境が変わっちゃうから。

ーー確かに今、あのキャパでもイヤモニを使わないバンドって、ザ・クロマニヨンズとユニコーンとTHE COLLECTORSぐらいかもしれないです。

加藤:そうかもしんないね。

ーー前回のインタビューで(※1)、コロナ禍なので、二度目の武道館をやるかどうか迷った、という話をされていて。

加藤:うん、迷いました。

ーーどの段階で、「やっぱりやって良かった」と思えました?

加藤:正直、ライブ当日の12時半に楽屋にメンバーが集まって、誰も熱が出ていないと知った時に思った。だって本当にさ、誰かメンバーがコロナに感染してステージに立てません、となったら……現実問題として、あのコンサートをキャンセルするとなったら、事務所はなくなるからね。もしそれが起こったら、俺たちしばらく活動できなくなるから。それが何より心配だった。

ーーわかっていたとはいえ、改めてそう考えると、かなり危ないことをやったんですね。

加藤:綱渡りだよね。本当に危ない賭けだったね。何よりそれが心配で、健康でステージに立ててたらこの日はOKぐらいの気持ちになっちゃうよ。周りでも、今度はこのバンドに陽性者が出た、あのバンドの公演が中止になった、ずっとそんな話ばかり聞いてるんだよ? 自分ひとりだけだったら、2週間前からシェルターにでも入りますよ。でも、メンバーもそれぞれ生活があって、子供もいたり。どこでどういうふうに感染するか、わかんないじゃない。だからと言って、感染しても責められない。だからもうそこだけだよね。本当にギリギリまで、その瞬間まで、ずっとドキドキしてた。

ーー「NICK! NICK! NICK!」の後に、加藤さんとコータローさんで、「35年ずっと同じギターを弾いてくれるよね」「いや、全然よくなってるよ」「俺もあの頃よりもパワフルに歌っちゃうよ」「俺ら、あの頃よりも元気いいよね」という掛け合いがありましたよね。

加藤:デビューしたての頃だと、ライブ環境が良くないとだんだんナーバスになってくるし、バンドの演奏がいい方向に行かないんだよね。やっぱり萎縮しちゃって。それが萎縮するどころか、「クソ食らえ!」みたいな演奏になっちゃってるわけだよ。ギターとか特に。それで俺も燃えるわけだよね。隣でピート・タウンゼントが腕をぶん回してるようなイメージでさ。そしたら俺ももうロジャー(・ダルトリー)になるしかねえ、みたいな。普段の音響が良いライブだとそういう気持ちにならなかったかもな。もっと丁寧に、しっかりと歌いたくなっちゃうよね。でもそういう状況下だと、もうクソ食らえだから。ロックンロールが持っている、本来のパワーみたいなのが、沸々と湧き出てくるよね。デビューする前とかの若い頃の気持ちみたいな。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる