カーリングシトーンズ、アーティストが憧れずにはいられない稀有な音楽スタイル 兵庫慎司による『Tumbling Ice』レビュー

カーリングシトーンズ、2ndアルバムレビュー

 彼らがうらやましかった。俺もああいうのをやりたい、と思った。というのもあって、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎という同年齢のミュージシャンたちに声をかけて、「時代遅れのRock’n Roll Band」をやったーーと、桑田佳祐に言わしめたカーリングシトーンズが、7月20日に2ndアルバム『Tumbling Ice』をリリースする。

 説明するのもあれだが、1stアルバム『氷上のならず者』が、The Rolling Stonesにリリースしたアルバムの邦題『メイン・ストリートのならず者』をもじっていたのに続き、今作はアルバム収録の「Tumbling Dice」の邦題『ダイスをころがせ』をもじって「アイスをころがせ」と付けられたタイトルである。

 あと、冒頭の桑田佳祐の発言は、彼の番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM)を聴いているファンなら、「あ、何度か言ってたよね」と思うくらい、普段から桑田が口にしている。

 そもそも桑田佳祐、そういうあけすけなことをさらっと言う人で、『やさしい夜遊び』でも、いいと思った新人アーティストの曲をよく取り上げている。

 昔も……「波乗りジョニー」「白い恋人達」の頃だったから、21年も前になるのか。インタビューしたら、当時大ブレイク中だったLOVE PSYCHEDELICOと己を比較して、「今の自分があんなにいい曲を作れるのか疑問だ」「そんな自分がニューアルバムを作っていいのか?」などと話し始めて、思わず「いやいやいや、あなた、桑田佳祐ですよ?」と言ってしまったことがある。

 でも、そういう人だから、つまり目線と感覚がずっと現役のままだから、「殿堂入り」とか「上がり」とかにならずに、ずっと日本のポップミュージックのトップに居続けられるんだろう。

 話を戻す。桑田のような大先輩ですらそう思うんだから、後輩のミュージシャンたちも、カーリングシトーンズがうらやましくないはずがないだろう。でも、他に、実際にあんなことをやっているケースは、決して多くない。最近だと、それこそ「時代遅れのRock’n Roll Band」くらいだ。

 海外では、(これも桑田が例に出していた)ジョージ・ハリスン、ジェフ・リン、ボブ・ディラン、トム・ペティ、ロイ・オービソン、というメンバーで、1988年から1990年まで活動した、Traveling Wilburysが有名だが、やはり、そう頻繁にあるものではない。

 よって、このテキストでは、

・なぜミュージシャンは、カーリングシトーンズのようなことをやりたいのか
・でもなぜみんなできないのか。じゃあ、なぜカーリングシトーンズはやれているのか

 という、ふたつの段階に分けて、考えていきたい。

なぜミュージシャンは、カーリングシトーンズのようなことをやりたいのか

 毎日のように一緒にいるのに、メンバーと話が合わない。音楽的なビジョンや目的意識を共有したいのに、話が通じない。話をして気持ちを共有できるのは、むしろ、自分と同じようにバンドをひっぱっている、他のバンドのボーカリストたちの方だーー。

 自身のバンドの作詞作曲やトータルプロデュースを担う、人気バンドのボーカルに、昔、そんな話を聞いたことがある。

 「うわ、そうか、それは大変」と思ったが、「でもまあ、そりゃそうよね」とも思った。メンバーとは、立場が違うからしょうがない。その部分が近いのは、そりゃあメンバーよりも、よそでバンドをひっぱっている人の方よね、そうなるよね、という。

 でも、だったら、そういうふうに志を同じくする人と一緒にバンドをやってみたい、という気持ちになるのも、よくわかる。

 他のメンバーも曲を書いて歌ってくれるから、ひとりで詞曲を書いて歌わなきゃいけない、という責務から解放されるというのも、とても魅力的に思えるのだろう。

 あと、カーリングシトーンズには、ソロのアーティスト=斉藤シトーンこと斉藤和義もいるが、彼の場合はさらに動機がシンプルだろう。デビューからひとりでやって来て、「バンドっていいなあ」「バンドやりたいなあ」と、感じることがあったはずなので。現に、伊藤広規(Ba)、小田原豊(Dr)との3人でライブをやり始めたのが、SEVENというバンドに発展して、1999年に同名のアルバムもリリースした。現在も、ソロと並行して、中村達也とMANNISH BOYSをやっている。

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