Mr.Children、30周年記念ツアー『半世紀へのエントランス』日産スタジアム公演完全レポ 彼らにしか実現できない奇跡的ステージ

ミスチル、日産スタジアム公演完全レポ

 その後はメインステージに戻り、深いメッセージを刻んだ楽曲を連発した。まずは「タガタメ」。スクリーンに無数の星が映し出されるなか、桜井はアコギを弾きながら、まるですぐ隣にいる人に語り掛けるように歌い始める。特に心に残ったのは、〈この世界に潜む/怒りや悲しみに/あと何度出会うだろう/それを許せるかな?〉というフレーズ。2004年に発表された楽曲が2022年の世界と結びつき、新たな意味を帯びるーーそれもまた、長く活動することでしか起きない音楽の力であり、素晴らしさだろう。

 続く「Documentary film」にも強く心を打たれた。2020年12月にリリースされたアルバム『SOUNDTRACKS』に収録されたこの楽曲は、“自分たちの音楽がリスナーの日常を彩るサウンドトラックであってほしい”というアルバムのテーマを象徴するナンバー。メンバー4人の生身の音を際立たせるシンプルで奥深いアレンジ、メロディの美しさを増幅させるようなストリングスを含め、現在のMr.Childrenの音楽的な充実ぶりを感じさせる楽曲だ。演奏が終わった瞬間、筆者の目の前の女性同士が“いい曲だね”と言い合っていたが、このツアーで「Documentary film」(そしてアルバム『SOUNDTRACKS』)の魅力を改めて実感した人も多いのではないだろうか。

Mr.Children(写真=渡部 伸、樋口 涼)
Mr.Children(写真=渡部 伸、樋口 涼)
Mr.Children(写真=渡部 伸、樋口 涼)
Mr.Children(写真=渡部 伸、樋口 涼)
桜井和寿
田原健一
中川敬輔
鈴木英哉
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桜井和寿
田原健一
中川敬輔
鈴木英哉
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 同じく『SOUNDTRACKS』の収録曲であり、生きること、音楽を続けることの葛藤と快楽を滲ませる「DANCING SHOES」からは、さらにディープな音楽世界へと突入。真っ赤な照明と炎を使ったダイナミックな演出によって強烈なインパクトを与えた「LOVEはじめました」。鋭利なバンドサウンドのなかで、〈すべてはフェイク〉という絶望、それでも生きていけるのか? という疑問がぶつかり合う「フェイク」には、オーディエンスの心を抉るような手触りが備わっていた。社会や人生のダークサイドを炙り出すこの場面もまた、Mr.Childrenのライブの重要な部分だ。

 その後も、このバンドの奥深い世界観を堪能できるステージが続いた。田原のギターリフとともに特効の爆発音が炸裂し、観客のテンションをさらに引き上げた「ニシエヒガシエ」。いつかは終わりが来ることを理解しながら、〈僕らはきっと試されてる/どれくらいの強さで/明日を信じていけるのかを〉と歌い上げる「Worlds end」。真摯なエモーションを込めた楽曲を続けると、気が付けばすっかり日が暮れ、スタジアムは夜に包まれていた。そして桜をモチーフにした映像をバックに歌われた新曲「永遠」(Netflix映画『桜のような僕の恋人』主題歌)へ。“ミスチルらしさ”を更新するような楽曲の後は、サイケデリックかつフォーキーな雰囲気の「others」。この振り幅もまた、彼らの武器だ。

 イントロが鳴った瞬間に会場全体が色めきだち、自然に手拍子が鳴りはじめ、幸せな一体感が生まれた大ヒット曲「Tomorrow never knows」からライブは後半のクライマックスへ。骨太な4つ打ちのビート、渋みの効いたギターリフ、ダイナミックなメロディラインが共鳴する「光の射す方へ」、〈悔やんだって後の祭り もう昨日に手を振ろう〉というメッセージをきっかけに華やかな祝祭感が広がった「fanfare」と曲を重ねるごとに爆発的なテンションへと繋がっていく。スタジアムロックの醍醐味をこれほどまで生々しく体現できる日本のバンドは本当に稀だ……という当たり前のことを改めて実感させられた。

Mr.Children(写真=渡部 伸、樋口 涼)

 「この最高の夜を忘れないために! そして大変だった過去を、昨日を忘れ去るために! このメロディをこの音楽を一緒に楽しもう!」という桜井の祈りにも似たシャウトに導かれた「エソラ」で、会場のムードは最高潮へ。桜井、田原、中川が花道の真ん中で演奏し、そこから歌詞とサウンドが放射線状に広がっていく。一人ひとりに寄り添うと同時に、圧倒的なダイナミズムを生み出すMr.Childrenの真骨頂がそこにあった。

 「最高の時間を本当にどうもありがとう! ずっとマスクをしてないといけないのに、声も出せないのに、歌うこともできないのに、こんなに集まってくれて本当にありがとうございます」「このライブをやれるのかどうなのか、ずっと気をもみながら過ごしてきました。だけど、やれることを頭のなかに描いて、いいイメージで。そして、どの曲で最後みなさんとお別れを告げようか、感謝を告げようか考えて、この曲を選びました。この2年間握りしめていた曲です。受け取ってください」

 万感の思いが込められた桜井のMCを挟んで届けられた本編のラストは「GIFT」だった。自分への確信はなかなか持てないし、年齢を重ねるごとに背負うものも増えていく。それでも“君”が喜ぶ姿を想像しながらギフトを選び、“君”からの心のこもったギフトを受け取りながら、前に進んでいきたい。そんな願いが込められた「GIFT」は、Mr.Childrenとリスナーの30年間を美しく照らし出していた。特に〈今 君に贈るよ/気に入るかなぁ?/受け取ってよ〉をメンバー全員で歌うシーンは、この場所にいたすべての人の記憶に強く刻まれたはずだ。

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