CMでのカバー曲に求められるボーカルの特徴は? Hump Back 林萌々子、GLIM SPANKY 松尾レミ、スカート 澤部渡らの共通点
何気なくテレビを見ていると思わず目を留めてしまうCMがある。例えばそれは、よく知ったメロディが知らない声で歌われるCMソングが理由かもしれない。
4月23日よりオンエア中の大塚製薬「オロナミンC」のCMソングはHump Backの林萌々子が担当し、NHKの同名人形劇のテーマソング「ひょっこりひょうたん島」を歌唱。パンキッシュなサウンドと林の歯切れ良いボーカルで、原曲の印象をがらりと変えたのがこのカバーだ。印象的なサビはCMでは流れていないが、耳馴染みのあるメロディがフレッシュなイメージに刷新され、不思議な高揚感をもたらしてくれる。福本莉子が出演した清涼感溢れるCM映像含め、全年齢層にリーチし得る内容だ。
GLIM SPANKYは2022年4月からサントリー「角瓶」のCMで「ウイスキーが、お好きでしょ」を歌唱。石川さゆりが1991年にSAYURI名義でリリースした原曲は、2007年にリバイバル使用されてから15年近くこのCMで歌い継がれてきた。今回のカバーではGLIM SPANKYらしいブルースロックの色気を纏った演奏と松尾レミ(Vo/Gt)のハスキーな歌声が大人びた詩情を呼び起こしている。また、歌謡曲のリアレンジというトライを行ったことでバンドの新たな魅力を引き出しており、単に名曲カバーの域にとどまらない意義深いものになった。
スカートはサントリー「金麦」のCMで「ビタースウィート・サンバ」を演奏。こちらも長らく同CMで使われてきたジャズナンバーだが、このカバーではスカートの持ち味であるソフトロックサウンドで軽やかな編曲を施した。ハミングのみの歌唱でも澤部渡の歌声は清らかで、シマダボーイが叩くパーカッションの響きも心地よい。60年代のポップスとも接続した楽曲を作るスカートという最適な抜擢であり、馴染み深いメロディだからこそ長年同じメンバーで培ってきたバンドアレンジの旨味を感じ取れるはずだ。
これらの起用アーティストを振り返ると、やはり声の記名性が重視されていることが分かる。あえて原曲とは違う声で名曲を届けることを選ぶとするならば、個性的かつ求心力を持つボーカルであることは欠かせないだろう。また、新たな解釈をもたらすなど思いがけない効果や発見をもたらすケースも多い。