SPECIAL OTHERSが追求した“いい音”とは? コロナ禍がバンドにもたらしたプラスの変化
スペアザの哀愁さの秘密は「ちょろけん」要素
ーーしかも、SPECIAL OTHERSの曲はどこか哀愁や郷愁を感じさせるというか。切なさが内包されていると思うんですよね。
宮原:それって日本的なセンスなんですかね。日本の作品って、どこか哀愁とか郷愁を感じるものが多い気がするんですよ。最近、昔の文化などを調べていたら、「ちょろけん」という芸事に興味が湧いたんです。江戸時代後期の、大きな張り子を頭にかぶって三味線や太鼓に合わせて練り歩くという、正月に行う大道芸の一種なんですけど。どこか物悲しさというか哀愁を感じてビリビリきたんです。
芹澤:「ちょろけん」はいわゆる門付芸と呼ばれるもので、お金がなかった人たちが小遣い稼ぎにやっていたから、ただ明るいだけじゃなくて馬鹿馬鹿しさと妖しさと切なさが融合したような感じがあって。
宮原:見た目は“元祖ふなっしー”みたいなね(笑)。
芹澤:そう(笑)。それを見つけた時に、メンバーみんなで「すげえ!」って大盛り上がりしたんです。SPECIAL OTHERSには「ちょろけん」の要素が受け継がれているのかもしれない。
ーーそういえばリオのカーニバルを生み出したブラジルにも、サウダージと呼ばれる郷愁や哀愁、切なさの概念からボサノヴァが生まれているし、メキシコでは葬式が祝祭のように執り行われているし。喜びと悲しみは表裏一体なところがありますよね。
宮原:確かに。
ーー例えば、「祝う」という言葉と「屠(ほふ)る」という言葉って、語源が一緒らしいんですよ。そのことを今、思い出しました。動物の命をいただくことは、祝うことでもあるんだなって。
芹澤:コロナ禍で明るい曲が生まれたのも、今の話と通じるところがある気がする。
宮原:あり得る!でも、実際にそんな深いことを考えながら曲を作ったかと言われると、全然そんなことないんだけど(笑)。
芹澤:でも、遺伝子レベルでは一緒かもしれないよ。
宮原:そうだね、もともとこういう話が好きなメンバーが集まっているわけだし。
ーー本作では、個人的には「NEW WORLD」が特に印象に残りました。後半のスペーシーかつプログレッシブな展開がタイトル通り新世界へ突入していくようで、聴くたびにゾクゾクします。
宮原:この曲のモチーフは、沖縄でYogee New Wavesのメンバーとカラオケに行った時に思いついたんです。ちょうどライブの日程が一緒で、終わった後に合流してみんなでカラオケに行った時に、ネタでUnderworldの「Born Slippy」を歌って。そこで久しぶりに曲を聴いたらめちゃめちゃかっこいいなと。自分の中で“遅れてきたUnderworldブーム”が巻き起こったんですよね(笑)。それで、過去に録りためていたストックの中からそれっぽい曲を引っ張り出して「人力Underworld」をテーマにブラッシュアップしたのが、この「NEW WORLD」です。Underworldに近づけたかどうかは分からないけど、かっこいい曲になったので満足していますね。
五感では感じ取れない「何か」があった野音ライブ
ーーところで、本作の初回生産限定盤には、野音でのライブ映像(『SPECIAL OTHERS 日比谷野音 LIVE 2020 (QUTIMA Ver.29)』)が特典として付いています。この時のことで印象に残っていることはありますか?
柳下:最初に話したようにコロナ禍でライブやイベントが飛んでしまって、大袈裟でなくこの公演に向けて半年以上じっくりと時間をかけてリハーサルを重ねていたんですよ。そんな状況って、プロになってから初めてのことで。
芹澤:ライブをやらないどころか、誰にも会わない日々がここまで続いたことってなかったし、会場にいる全員がそういう気持ちだったと思うんですよ。その状態でライブをやった時に生まれるエネルギーって、もう言葉で言い表せるものじゃないですよね。マスクもしているし、ほとんど声を出すこともできない状況なのに、目には見えない、というか五感では感じ取れない「何か」がその場にあって。
宮原:見えない渦みたいな(笑)。いつも俺たちのローディーをやってくれている桑原丈さんも「あの時は泣いた」とおっしゃっていました。やっぱり、音楽って誰にとっても必要なものだったんですよね。でも、普段の生活の中ではそれが当たり前にあったものだから、ちょっと忘れていたのかなと。
ーー決して不要不急なんかじゃないんだということを、コロナ禍が思い出させてくれましたよね。
芹澤:当たり前に存在しているけど、なくなったら生きていけない、ある意味音楽って「空気」みたいな存在なのかなと気付かされたというか。それに、音楽がなかったら出会えていなかった人たちもたくさんいるわけだから、コミュニケーションツールとしての威力も大きいですよね。
ーーそれに、SPECIAL OTHERSの野音ライブをアルコール抜きで見るのもなんだか不思議な気分でした(笑)。
芹澤:言われてみればそうですね。普段から俺たちのライブを見にきてくれているお客さんの中には、ベロベロに酔っ払って後半ほとんど覚えていないという人も多いんですけど(笑)、そういう人たちもこの日のライブは最後までしっかり演奏を聴けたんじゃないかな。
宮原:そういえばいつもライブに来てくれる友人が「酒抜きで見たのは初めてだし今までで一番感動した」って言ってた(笑)。きっと彼らのような人には新たな発見がたくさんあったライブだったんじゃないかな。
ーー(笑)。今作のタイトルにあるように、SPECIAL OTHERSはデビュー15周年を迎えました。メンバー間の関係性ってこの15年でどのように変化しましたか?
宮原:若い頃って、芹澤によくいろんなところ揉まれてたけど……。
芹澤:ああ、ボディタッチの方のコミュニケーションの話ね。
宮原:そうそう。そういうのって、おじさんになってくるとやっぱりほとんどなくなってくるね(笑)。
又吉:俺はそういうの昔からやってないからな。
芹澤:いやいや、俺と又吉でMMAやってたじゃん。
柳下:なにMMAって。プロレス?
芹澤:総合格闘技のこと。関節技かけて遊んだりしてたじゃん。俺がタックルして又吉の肋骨を折ったこともあったし。
ーー激しすぎます(笑)。
又吉:ああ、あったね。忘れてたわ。
宮原:今はもう、「三角絞めさせて」と言われても「めんどくせえな」みたいな感じにはなってきたよね。
芹澤:俺たちもおじさんになって、あんまりはしゃがなくなったのかな(笑)。
柳下:と言いつつアー写でまたはしゃいでるけどね。
一同:(笑)。
■リリース情報
SPECIAL OTHERS『Anniversary』
2022年6月8日(水)リリース
<商品形態>
・初回限定盤(CD+DVD)¥6,380(税込)
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・通常盤(CD)¥3,300(税込)
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<CD収録内容>
01. Spark joy
02. Happy
03. THE IDOL
04. Yagi & Ryota 2
05. Timelapse
06. Flowers
07. DECO
08. Anniversary
09. NEW WORLD
10. WAGON
11. Session 317
<初回限定盤付属DVD収録内容>
『SPECIAL OTHERS 野音2020 (QUTIMA Ver.29)』
01. TRIANGLE
02. Good Morning
03. JAM
04. Puzzle
05. PB
06. SERI & RYOTA 1
07. WAVE
08. AIMS
09. Laurentech
10.Beautiful Orange
11.BEN
※メンバーのオーディオコメンタリー付きで収録予定
■関連リンク
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