米津玄師、BUMP OF CHICKEN、緑黄色社会、羊文学……映像作家・林響太朗のMVに見る多彩な表現技法
5月18日にリリースされた米津玄師の最新シングル表題曲「M八七」。雄大なサウンドスケープ、厳かな歌声、勇ましくも優しい歌詞。そんな楽曲を投影したかのようなミュージックビデオも大きな反響を呼んでいる。無機質な都市と建築物の構築美、現実を超越した場所で歌い舞う米津玄師の姿、そして世界を柔らかく包み込むような“光”のショット。そこに明確なストーリー性はないのだが、楽曲のスケール感を見事に体現している。そして巨大な存在を想起させるシーンの数々によって映画『シン・ウルトラマン』の主題歌であることもしっかりとイメージすることができる。非常に優れたデザインの作品だと言えるだろう。
このMVはクリエイター・林響太朗による作品である。米津をはじめ、BUMP OF CHICKEN、星野源、Mr.Childrenなどのミュージックビデオを手掛け、その度に話題を呼んでいる。映像作家としての作品制作のみならず広告のビジュアルを担当したり、写真家としても活動するなど、各方面から引く手数多なクリエイターだ。
BUMP OF CHICKENが昨年リリースした「なないろ」。NHK連続ドラマ小説『おかえりモネ』(NHK総合)の主題歌として日本の朝を彩った柔らかく伸びやかな1曲だ。林は『おかえりモネ』のOPタイトルバック映像とともに、この曲のMVでも監督を務めた。スピーディかつ超常的なこのMVは楽曲の疾走感を強調しており、豊かな色彩と透明感が印象的なドラマのタイトルバックとは一味違う魅力がある。
“空を落ちながら互いに手を取り合おうとする2人の少女”という躍動的な場面を中心としながら、時折挟まれる物静かな2人の佇まいがラストにある抱擁の劇的さをより際立たせている。バンドメンバーは登場していないが、楽曲の持つ晴れやかさを想像力たっぷりに描いた映像に仕上がっており、この曲のMVとしての説得力は凄まじい。
「なないろ」のMVは実写シーン、CG、アニメーションなどを組み合わせて作られたという(※1)。ナチュラルな人物の表情を捉えたり、生々しいポートレイトを撮ることも得意とする林だが、元々はCGクリエイターとして活動を始めたという経歴を持ち、それゆえにボーダレスなアプローチで映像表現を行えると推察できる。幅広いアーティストから求められているのは、多彩な表現技法でその曲に適した映像を生み出せるからだろう。
『Adobe MAX 2021』でのセッション「林響太朗が紡ぐ世界 アーティストに共鳴するクリエイティブ」では、「MVや広告も共通して、自分の色を出したいと思っているつもりはなく、漠然としたイメージに対して、自分なりにどう応えられるかを大事にしている」と語っており、(※2)、自分のアイデアとアーティストの思いを密なやり取りで重ね合わせる創作の過程も明かされている。作品を丁寧に解釈し、そこで生まれたアイデアを具象化するための真摯なプロセスがあるからこそファンからも強く支持され、同じアーティストのMVにも繰り返し起用されているのではないだろうか。