「LIVE INVISIBLE」「blackboard」「DRIP TOKYO」……多種多様なスタイルに発展する音楽系YouTubeチャンネルの現在
2021年11月にスタートした「LIVE INVISIBLE」は比較的最近できたチャンネルだ。コンセプトは“アーティストを熱で感じる音楽チャンネル”。まず目を惹くのは、サーモグラフィカメラ撮影によるビジュアルだろう。アーティストの内にある熱量の可視化を試みる他にはないユニークな演出だが、容姿や性別、知名度、国籍、音楽ジャンルなど先入観に繋がるバイアスを取り払う意図もあるという。全アーティスト顔出しはなしで、多様性と公平性を重視したチャンネルとなっている。そういったメッセージ性をはじめ、ずっと真夜中でいいのに。やEve、ヨルシカ、Adoらを筆頭に、顔出しせずともヒットを生むアーティストが続々と出てきている現代にフィットしたコンテンツといえるかもしれない。
バイアスを排除したあとに唯一残るものは何かというと音楽本来の魅力であり、それに対するユーザーの純粋な感動だ。Ray(藍空と月)、ACCAMER、大沼パセリなど、現状若手アーティストが多く出演しているが、まだ光の当たっていない才能をフックアップするだけでなく、すでに広く認知されているアーティストの新たな魅力を引き出す狙いもありそうだ。また、各アーティストは出演に際して歌唱曲をリアレンジしているため、他のどこにもない、「LIVE INVISIBLE」ならではのバージョンを聴けるのも大きな魅力だろう。
例えば、再生数312万回を超える、生活を忘れて「浅めの夜で」の原曲はR&B/ファンク系のアレンジだが、「LIVE INVISIBLE」ではテンポを落としたアコースティックアレンジになっていて、コメント欄では「こっちのアレンジも好き」といった声も見られる。また、歌い手の(元)現役女子高生あたしが、Chinozo「グッバイ宣言」をカバーするなど、ボカロ文化圏の新世代アーティストへの目配せも忘れていない。
パフォーマンス動画とは別に、Q&A形式のインタビュー動画を制作しているのも「LIVE INVISIBLE」の特徴だ。質問内容は自身の音楽活動や社会の課題にまつわるもの。海外アーティストが社会問題に対して発信する姿を目にする機会は多いが、同じく社会の一員である各アーティストの個人としての考え、価値観を深堀りするとともに、音楽と社会のつながりを見つめ直そうという制作チームの姿勢を感じる。
コロナ禍でライブの本数が全体的に減少したことも重なって、「THE FIRST TAKE」の出現と台頭、および音楽系チャンネルの多様化は、間違いなく国内音楽シーンにおける一つの転換点となった。多様化しているからこそ、それぞれのチャンネルに固有の特色、軸というべき信念が求められる部分もあるのも事実だろう。そんななか生まれた「LIVE INVISIBLE」もシーンの一角を担う存在となっていきそうだ。
■YouTube情報
「LIVE INVISIBLE」
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