鹿野淳、音楽フェスを取り戻すための挑戦 『VIVA LA ROCK 2022』が直面した課題と未来につながる出会い

「例年よりも初出演のアーティストが多いのは意図的」

ーー開催に至るまでの話はいろいろ聞かせてもらったんですけど、ラインナップや日割りについての話も聞きたいです。ラインナップはもちろん『MUSICA』の雑誌としてのマインドと共振しながら作り上げてると思うんですけど、今年特別に意識したことはありますか?

鹿野:思いっきりあります。それは来年が10回目になるってこと。ビバラの立ち上げ当初は「どう失敗しても3回目まで頑張ろう」っていうマインドで始めたんだけど、5年目が終わった後で「これ10回目までやれちゃうかもしれないね」と思ったのね。そういうもので、10回目って結構誇らしいんですよ。だからその10回目はこの10年間の総集編にしたい。つまり、今までビバラに協力してくださった素晴らしいアーティストと共に過ごしたいっていうことが、ブッキングの中で重要になってくるんです。そうなると当然9回目と同じことはしたくないから、9回目のブッキングは10回目を飛び越えて11回目以降に繋がるものにしたいなって思ったんです。10回目がベストアルバムなんだから、その前に出すものはベストアルバム以降に効いてくるストーリーを作りたいんです。

 よって今年は、例年よりも初出演のアーティストが多いんですけど、これは結果論じゃなくて意図的なんだよね。11回目以降のビバラがどう変わっていくべきなのか、どうしたら変わっていくことを自然と受け止められるタフなフェスになるのかって考えたときに、新しい出会いを今まで以上に積極的に求めようっていう気持ちが湧いてきた。だから今回は、再来年の11回目以降に繋がる新しいビバラへのキックオフにしたいなと思ってます。

ーーということは、もう10回目のオファーをしてるんですか?

鹿野:……してますよ(笑)。いや、ノーコメントだ。

ーーおおっ(笑)。珍しく歯切れ悪いっすね。

鹿野:これを言っちゃうと「そうなんだ。で、なんで俺たちに10回目のオファーが来ないんだろう」って思うアーティストがいるかもしれないから(苦笑)。でも9回目のブッキングの中で、必然的に10回目の話になることが多かったんです。自分も2年間分の地図を広げながらやりました。

ーーあとビバラの券売が好調な理由の一つに、アーティストのキャラクター性を日割りで区分けしてるという部分もあると思うんです。ただ鹿野さんが本当に理想とするのは、もっとまだら模様になるくらい混ざり合ったタイムテーブルになって、なおかつ全日ソールドアウトするっていう形だと思うから、ずっとそこにチャレンジしたいと思ってるんじゃないかなって。

鹿野:つまりビバラは日にちによってジャンルが割れて見えるから、その濃さがチケットを買ってくれる人の多さに繋がってるんじゃないかっていう話だよね。それはその通りで、4年目(2017年)くらいから非常に意識してることなんだよね。最近そういうフェスがより多くなったけど、ビバラの4年目くらいの頃は逆に少なかったので、ここ5年間くらいそういう流れを日別で作ってます。このやり方をする理由は、フェスっぽくないと言われる音楽ジャンルやシーンの中で、すごく素敵な音楽やアーティストが増えてきたから。よく言うSuchmos以降の時代感だよね。そういうアーティストって洋楽フェスに出るとしっくりくるけど、邦楽フェスには居場所がないってずっと言われてきたから、そこを払拭して、当時シティポップって言われていた音楽から、ヒップホップ、ダンスミュージック、ロックバンドと、全部のジャンルがイーブンに主役になれるフェスをもちろん目指してる。でもまだそれは完成には至ってないかな。幸福な途中過程だと思っています。

ーーでも諦めてないっていうのはすごく伝わってきますよ。それは『MUSICA』の姿勢とも繋がるじゃないですか。例えば今年の初日にBE:FIRSTとSKY-HIが出るっていうのは、大衆と向き合うということでもあるけど、やっぱりグルーヴ的なところで言えば、ビバラの精神性と繋がってくる。その意味で、鹿野さんにはDJ的な感覚もあるのかもね。そこがすごく面白いし、ビバラのまた一つのチャームかなと感じます。

鹿野:ありがとう。BiSHやBE:FIRSTとの出会いは今年すごく大きかった。BiSHなんて長年当たり前のように多くのロックフェスに出続けているのは知ってるんだけど、ビバラはずっとオファーをしてこなかったんです。アイナ・ジ・エンドとは仲良く付き合ってるフェスだし、去年のビバラでは彼女がソロでライブもやってくれているけど、BiSHとしては今までお呼びしなかった。『VIVA LA ROCK EXTRA ビバラポップ!』(2018年)にはお呼びしたんだけどね。

 BE:FIRSTに関しても、日高(SKY-HI/日高光啓)からこの話をもらったときに「すごくいいタイミングでいい提案をしてくれてありがとう」っていう気持ちでした。我々も新しい世界に行きたかったし、それにあたってロックフェスっていうカテゴリーをさらに柔軟なものにしたいなと思っていた矢先だったので。日高は何度もビバラに出てくれてるし、最初は本当に日高のファンしか観ていなくて、フェスからのアウェイの洗礼を彼はビバラで受けたけど、それでも「ビバラには出続けたい」と言ってくれて、お互いに階段を昇っていって今やビバラの主役アーティストになっている。僕は彼の姿勢、努力や愚直さを本当にリスペクトし続けているんです。今年初めてボーイズグループに出てもらうというのは我々にとって未知の挑戦なんだけど、そういうプロセスを体感してくれた日高が、今一番心血を注いでいるグループを「この春はビバラだけに出したい」って言ってくれたのは、すごく大きなことでした。僕も日高からの声だったから受けとめた。さらに、そんな日高=SKY-HIに今年のキックオフ日のヘッドライナーを務めていただけるのも、本当に感慨深いことなんです。そういうラッキーな出会いが生まれたのも、この9回目っていうコンセプトが胸の中に強くあったことと無縁ではないと思ってる。

ーーしかもBE:FIRSTのあとにOriginal Loveがいることに不思議な必然性を感じるのが、またビバラの面白さに繋がるよね。BE:FIRST目当てに来た10代の子が、Original Loveの「接吻」とか聴いたらどんなことを感じるんだろう? とか、興味深いなって。

鹿野:ね。TikTokerが、「この人(田島貴男)とこの曲エモい!」とか言ってくれるような空間になったらいいよね。今から楽しみです。

ーーあと、これはすごくシビアな話になるんだけど、例えば最近開催されたサーキットイベントでも、開催前日にコロナ陽性や濃厚接触者になってしまったアーティスト何組かがキャンセルになって、代わりに別のアーティストが出演するという事例があったじゃないですか。あまり考えたくはないですけど、もしかしたら今の日本の状況では、補欠としてアーティストにオファーするフェスっていうのもあり得るのかなって。

鹿野:え……。

ーーいや、あり得るかなって。

鹿野:……三宅、僕よりもフェスやれる人かもしれない。すごいね、その考えは一切ないわ。そう言われても、それでもない(笑)。

ーー(笑)。でも現実的にビバラもそういうリスクに直面し得るわけだから、鹿野さんはその辺りどう考えてるのかなって。

鹿野:いやだから、考えてないって。その可能性は視野に入ってるけど、そのための準備をしてないってこと。ただ、今の話を聞いて、想定しているのに準備をしないのは怠慢だなとは思いました。だけど、それでも出演しない補欠のような方のブッキングは現実的にもしないしできないと自分は思うからね。どうしたもんかね(笑)。実は2年前のオンラインフェスのときに、マネージャーが発熱したアーティストがいて、PCR検査の結果が出るのが出演時間の1時間前ってことがあったんだよね。で、とりあえず機材とかは調整しておいて、結果が出るまではチーム全員に楽屋には入らないで駐車場で待機してもらってた。結果的には陰性だったから「こんな思いさせてごめんね」ってすぐ楽屋に入ってもらったけどね。そういうこともあったけど、一昨年も去年も、我々のフェスでは1組もコロナでキャンセルは出ていないんです。三宅の考えが正しいっていうことを前提とした上で言うけど、アーティストや関係者がコロナに感染して出演キャンセルになるというのは、フェスにとって台風と一緒だと思います。ビバラ以前に僕が主催として関わっていたフェスでは台風を2回経験してるけど、出演者のコロナ感染に関してはこの2年間、何事もなかった。だからたぶん、このフェスは持ってます。そういう闇雲な自信はあります。

 というか、もしキャンセルが出たとしたら、その全ての時間にthe telephonesに出てもらいます。ビバラだったら出てくれる、きっと(笑)。そのthe telephonesの気概と気持ちに僕は頭を下げて甘えます。もしくは、ピエール中野のドラムソロライブにするか、VIVA LA J-ROCK ANTHEMS(亀田誠治率いるスーパーミュージシャンバンドとゲストボーカルによるセッション)に何日間かやってもらえるよう考えるか。こんな発言を読むと「何を調子乗ってんだ」って言われるだろうけど、甘えられる方々がいるフェスだっていうことは、心の底から幸せに思いたいね。

ーーそれはもしかしたら今日のテーマの核かもしれないね。ビバラのチャーミングポイントがなせる業なわけじゃない。他のフェスではなかなかできないと思いますよ。

鹿野:いや、でも『AIR JAM』と『ARABAKI ROCK FEST.』だったら、BRAHMANが全部やるよ(笑)。だからそういうアーティストとちゃんとお付き合いできてるフェスっていうのはやっぱり貴重だよね。我々もその一端にいるんだったら、とてもラッキーです。

ーーそれはでかいと思う。ビバラって、たぶんずっと何かが不完全だと思うんですよね。コロナ関係なく平常時でも。不完全であり続けるんだけど、それがすごくチャーミングポイントになって、お客さんの思い入れになっている。そういうフェスだと思うので、こういう事態になってるからこそ、改めて滲み出てくるものもあるのかなって感じています。

鹿野:三宅にはいつもありがたい言葉を頂戴しているから、今日も本音を言いたいなと思って話させてもらったんだけど、その本音の中に弱音とか愚痴に聞こえるようなこともあったと思うんです。でもそういうことがあった上でお祭りが生まれる、お祭りを開催できるっていう現実もあるんだよ。それを今日はお伝えした。だから絶対に120%楽しめるお祭りにしますよ。去年以上に、“お祭りエチケット”と“お祭りチケット”の両方の要素がビバラの中にはたくさんあるからさ。お客さんに、しっかりもぎっていただきたいなと思うコンテンツがいっぱい揃ってます。この1年間、今まで以上に判断しかねることや直球で行けないことがたくさんあったからこそ、今年は音楽フェスとは何なのか、そしてそれがもたらすものは何なのかを体感させられるビバラになってるんじゃないかな。そうであってほしいなっていう我々の願いもあります。

ーーそうですよね。

鹿野:まぁだからね、陣頭指揮者をやってる自分が今、感染したり、濃厚接触者になったりするのが一番やばいよね。だから、今日はもうとっとと帰ってくださいっ!

ーーはい〜!(笑)。この春はビバラに全部注ぐくらいのお客さんもきっと多いだろうし、あとは万全を期するのみですね。お客さんもルールを守る意識の高い人が多いと思うので。

鹿野:はい。とにかく去年は参加者に助けていただいて、今年は我々が参加者を助ける番だと思っているんだけど、そこは正直言って道半ばです。だから、まだまだ参加者に対してご協力願いたいことがたくさんある。とはいえ、その中でも去年以上に楽しい要素はたくさんあるから、竹中直人の名人芸の“笑いながら怒る人”みたいな感じで、コロナ禍でちゃんとルールを守ろうっていう表情でいながらも、ずっとケラケラ笑ってるみたいな、そういう状態をみんなに持ってもらえるくらいの準備はできているはずです。改めて参加者に対して、今年もありがとう、どうかよろしくお願いいたします! っていう気持ちです。だからもう、早く帰ってーー。

ーーはい〜!(笑)。

■開催概要
『VIVA LA ROCK 2022』
公演日:2022年4月30日(土)、5月1日(日)、3日(火・祝)、4日(水・祝)
会場名:さいたまスーパーアリーナ
主催・制作:(株)FACT / (株)ディスクガレージ / (株)GYAO / (株)イープラス
制作:さいたまスーパーアリーナ
後援:埼玉県 / さいたま市 / 浦和レッズ
協賛:ファミリーマート /  株式会社クレディセゾン /  LIVE DAM Ai  第一興商 / サッポロビール(株)/ コカ・コーラボトラーズジャパン(株) / GLAB. / 丸井織物株式会社 /日本工学院ミュージックカレッジ
お問い合わせ:ディスクガレージ https://www.diskgarage.com/form/info
050-5533-0888 (weekday 12:00~15:00)

<出演アーティスト>
4/30(土)
秋山黄色/ Awesome City Club/ Ochunism / ODD Foot Works / Original Love / キタニタツヤ/ Kroi / 崎山蒼志 / SKY-HI / TENDRE / Tempalay / Vaundy / BE:FIRST / ビッケブランカ / BREIMEN/ Base Ball Bear / 変態紳士クラブ / UNISON SQUARE GARDEN / Lucky Kilimanjaro

5/1(日)
androp / 映秀。/ Creepy Nuts / 小林私 / Saucy Dog / SHE'S  / SHISHAMO /  (sic)boy /スピッツ / CHAI / NUMBER GIRL / 日食なつこ/ ハルカミライ / BIGMAMA / My Hair is Bad / マカロニえんぴつ / Maki / マハラージャン / ヤユヨ

5/3(火・祝)
打首獄門同好会 / THE ORAL CIGARETTES / KEYTALK /coldrain / SiM / 四星球 / w.o.d. / TETORA / 10-FEET / Dragon Ash / NEE / ねぐせ。 / HEY-SMITH / Helsinki Lambda Club / マキシマム ザ ホルモン / MAN WITH A MISSION / moon drop / ヤバイTシャツ屋さん / リーガルリリー

5/4(水祝)
UVERworld / 君島大空 合奏形態 /クリープハイプ / コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)/ SUPER BEAVER / sumika / 卓真(10-FEET )/ the telephones / 東京スカパラダイスオーケストラ / ドミコ/ にしな / Hakubi / BiSH / VIVA LA J-ROCK ANTHEMS【Ba:亀田誠治 / Gt:加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)/ Dr:ピエール中野(凛として時雨)/ Key:伊澤一葉】/ 04 Limited Sazabys / BLUE ENCOUNT/ フレデリック / 黒子首 / Mr.ふぉるて

オフィシャルHP

関連記事