鹿野淳、音楽フェスを取り戻すための挑戦 『VIVA LA ROCK 2022』が直面した課題と未来につながる出会い
「去年のビバラをフェスにしてくれたお客さんに心から感謝している」
ーー取捨選択しながら、鹿野さんにとっての“フェスとは何か”をどんどん具現化しているわけですよね。去年はお酒の販売もスタンディングエリアも叶わなくて、今年よりもっと忸怩たる思いがあったでしょう。でも開催するためにはそうせざるを得なかった。僕も1日行きましたけど、フェスに行ったっていう体感は得られなかった気持ちも正直ありました。だからこそ、鹿野さんは2022年にビバラなりの施策を打つだろうなと思っていたし、今年の在り方を見て、ビバラは何をもってフェスとするのかっていうことを、100%じゃないにしても60%くらいまでは実現させたんだなと思ったんですね。当然そこにはすごい戦いがあったんだと想像に難くない。そういう意味も含めて、まずはやっぱりおめでとうっていう言葉が出ちゃう(笑)。
鹿野:あざっす。ちなみに三宅は去年楽しんでくれたし、結果的にも頑張ったなみたいなことは感じてくれたわけじゃん。その上で、「フェスじゃなかった」っていう感覚になったのは具体的にどういうところ?
ーー僕の場合はアルコールがなかったことが大きいけど(笑)、場内の空気みたいなものかな。
鹿野:要は、会場内に絶えず緊張感があるってことだよね。
ーーそうね。やっぱりまずは自分がかからない、人にも感染させないということをすごく緊張感をもって意識しながらルールを守っていたからね。同時にビバラをなくしたくないっていう気持ちがお客さんの中にもすごくあるんだなって思いました。
鹿野:去年って、買ったチケットを持って家を出て会場に行くこと自体に勇気が必要だったじゃない? 「やっぱり来てよかった」と言ってみんな帰ってくれたんだけど、同時に家に帰ってテレビをつけると、「〇〇のフェスでこんなことが起こってました」っていうニュースを観たわけだよね。実際、ビバラの会場にもテレビ局の方が来て、「これを教えてほしい」「これを撮影していいか」って聞かれたけど全部お断りしました。先方は応援のために撮影したいし聞きたいと言ってくれたんだけど、扱われること自体が参加者を不安にさせるわけだから、お断りをしたんです。それでもさいたま新都心の駅の改札でテレビカメラがずっと撮影しているから、お客さんたちは顔を隠して帰ったんだよ。あれは本当に申し訳ないと思いました。覚悟を決めて楽しみに来て、実際にさいたまスーパーアリーナ内では楽しめて、だけど帰り道でそんな目に遭う。本当に申し訳なかった。
ただ、去年はそういう状況であることは参加する前からわかってるから、自分たちは徹底的に緊張感を持って過ごすんだっていうみんなの一体感が、いつもとは違う雰囲気だけどフェスっていう共同観念を作ってくれたと思ったんです。そのフェスの雰囲気の大切な部分は、僕らが作ったんじゃなくて参加者が作ってくれたということ。もうね、本当に言葉にならないくらい感謝しています。で、その感謝を我々が形にするためには、お客さんがフェスにしてくれた去年と違って、今年こそは我々フェス側がフェスにしなくちゃいけないと思うんです。今、こうやって話していて整理できてきたけど、それが今年の一番のテーマなんだなと思います。
ーーあの時期のフェス文化はビバラ以降、いくつもの難儀な問題と直面していましたよね。
鹿野:去年の夏はやり玉に挙げられるべきフェスもあって、その空気が去年の暮れの冬フェスまで引っ張られたよね。去年暮れから今までにフェスをやった人たちに話を聞いても、「自業自得だって言われるような開催の仕方をしてしまったイベント、フェスがあったせいでやりにくい」「本当ならやっていいんじゃないかっていうことも、やはり認められなくてできなかった」と皆さん話していました。たぶん、その波は今回のビバラにもインフルエンスされちゃってるよね。悔しいです。
ーー世間には音楽フェスに対するレイヤーはないですからね。音楽フェスというだけで一緒くたにされる。VIVA LA GARDEN(さいたまスーパーアリーナに隣接した屋外スペース「けやきひろば」を使用して行う入場フリーイベント。2020年より開催されておらず、今年も中止)もビバラの大きなアイデンティティの一つだから、今年もギリギリまで粘ってたと思うんですけど。
鹿野:そう。去年の開催直後から2022年の目標にしていたのが、オールスタンディングを奪還することと、VIVA LA GARDENを3年ぶりに開催することだったんだよね。さいたまスーパーアリーナっていう屋内フェスが野外空間も手に入れられるっていうのがVIVA LA GARDENなんだけど、一番大切なのは、無料で音楽が楽しめて、フェス飯が食べられて、ビアガーデンやキッズ広場もあって、近隣のファミリー層とかフェスとは無縁の人たちが混在しながら、最低限半日は遊べる場所だっていうことなんです、あれは。もしVIVA LA GARDENがきっかけで、「今度はちゃんとチケットを買って会場内にも行ってみたいね」という方々が生まれれば、その方々によって音楽ファンを増やすことに繋がるし、地域還元にもなる。それが目的だったわけです。でも現状は、近隣の方々を中途半端に招くことほど危険なこと、迷惑なことはないという判断が下されました。もちろん理解しています。同意もしました。その上で何ができるかを考えた結果、今回はけやきひろばで今までと同じようにフェス飯屋さんに20軒出店してもらい、それを食べるスペースを作ることになりました。
ーーよかった。
鹿野:今年のビバラは、本来は2万7000人ほどのキャパシティの会場に、各日2万人前後の方々が参加される予定で。去年と同じように館内の廊下に飲食店を多数並べることほど密になって危ないことはない。だからさいたまスーパーアリーナの中で全ての飲食店を出すっていう選択肢はなかったです。まあ、来年(2023年)は記念すべき10回目ということもあって、本来のビバラスタイルをフルセットでやりたいので、今年はそこに繋がればいいなとポジティブに思ってます。
ーー実際VIVA LA GARDENで遊んで、翌年に実券を買って入ってきた人もいっぱいいるでしょ? VIVA LA GARDENが大きな入り口となって、後々フェスの会場内に家族で入って、その子供がいろいろな音楽文化を味わって、もしかしたら将来の出演者になるかもしれない。そういうストーリーをすごく大事にしているのも鹿野さんらしいと思う。
鹿野:ストーリーをちゃんと紡いでいくと、そこに加担してくださる参加者とかアーティストも生まれるわけで、例えばよくお話するんだけどteto(現the dadadadys)はビバラで銀杏BOYZを観た帰りに「やっぱりやるっきゃねぇよな」ってバンドを組んだんだよね。だから彼らはビバラに出ることに特別な思いを抱いてくれる。これは我々にとっては素敵すぎるボーナスみたいなものじゃない。
ーーその連鎖は大事にしたいよね。ビバラが面白いのは、1日に2万人、フルキャパだったら2万7000人の規模でやりながらも、お客さんやアーティストがそういうエピソードを生むっていうヒューマニスティックな部分。今年これだけ券売の調子が良いのも、そのチャームポイントを約10年間でしっかり育てて、お客さんからお客さんに伝播していってるからなのかなって思うんですよ。もちろん都市型で利便性が高いこともあるだろうけど、その物語にお客さんも気持ちが乗ってるというのが少なからずあるんだろうなって。
鹿野:そうであればありがたい話だと素直に受け止めさせていただくけど、今年の券売において一番ポジティブな要因になったのは去年の開催だと思う。心の底から去年参加してくれた方々に感謝をしたいです。自分が予想するに、今年の参加者は去年からのリピーターが相当多いと思うんだよね。それは去年開催したことへの賛同や支持と、去年体感した人が来年も行くぞっていう気持ちになってくれた証だと思うんです。それはスタッフ一同の献身的な努力が今年に繋がっているということだと思うし、コロナ禍に突入した中でやってきたことが結果的に今年に結びついてると思う。
ーー不可思議なフェスだなって思いますよ。
鹿野:そもそも地味なフェスだからね。アーティストフェス的な派手さもないし、メガフェスの中でもテレビに出演するようなアーティストの率は低いと思うし。フェスに参加したい人にとっては、面白さや感動するポイントがあるけど、参加しない人からしたらよくわからない施策もいっぱいやってるフェスだからね。「ALL NIGHT VIVA!」(終演後に行われるオールナイトイベント)とか、「アーティスト郵便局」(ビバラが用意したカードにアーティストなどへの思いを綴って、館内に設置した専用のポストに投函してもらい、それを出演スタッフに渡すという企画)とか、そんなことを異常に大切にしているフェスだからね。
ーーそういう文化祭マインドが最後まで残ってるところもチャームポイントなんじゃないですか?
鹿野:だって開催する方はそれが一番楽しいんだもん。社会人になって文化祭はなかなかできないよ?
ーーそれに付き合ってるスタッフもすごいなと思う(笑)。
鹿野:いや、スタッフだって絶対文化祭したいって! これを読んでくださってる方だって、自分の仕事の中で文化祭ができるならしたいっていう人も多いと思う。だからね、今回も「中夜祭」をやりますよ。今年は5月2日が平日だから中日としてお休みしているんです。だけど、その日もスーパーアリーナの中にはビバラの設営がそのままあるから、もったいないと思って。よって、そのビバラのスタジアムアリーナ内を使用して中夜祭を入場無料で行います。中身は「公開リハーサル」「久しぶりのDJパーティ」、そして「さいたまスーパーアリーナのスタッフによる普段は入れないところを巡るスタジアムツアー」をやります。どう、完璧な文化祭でしょ? 公開リハーサルは最高のアリーナの最高のフェスステージを使って、最高に楽しいバンドによってしっかり学びのあるものになるんだから。
ーー馬鹿なのか真面目なのかわからないよね(笑)。
鹿野:いや、もっと単純な話だよ。真面目に馬鹿なんだよ。