ジョン・バティステが世界中で支持される理由とは? 『グラミー賞』目前、愛と音楽の先導者たる軌跡を辿る
今回「レコード・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされた「FREEDOM」は、ニューオーリンズでMVを撮影。観光地として有名なフレンチ・クォーターからミシシッピ川の下流側にあたるマリニー地区のカラフルな住宅風景を、ジョンとダンサーたちが陽気に踊り歩く姿が印象的な作品だ。背景に負けない色鮮やかな衣装は、昨年キャンペーンアイコンを務めたコーチが提供している。
ジョンの母校でもあるセイント・オーガスティン高校のマーチングバンドやジョイフル・クワイヤーをはじめ、キャストのほとんどはニューオーリンズの人たち。パレードの花形であるマルディグラ・インディアンや、アラン・トゥーサンの壁画、中盤のダンスシーンではニューオーリンズ発祥の定番ダンスムーブ、“Wobble”と“Twerk”を披露するなど、随所に地元愛が満ちあふれる。
「最優秀ミュージックビデオ賞」にもノミネートされた映像のプロデュースを務めたのは、過去にリゾ「Good As Hell」のMVも手がけたアレックス・P・ウィルソン。同曲もブラスバンドを大々的にフィーチャーした作品だったが、女性をエンパワーメントし解放を促す高揚感は「FREEDOM」にも通ずる部分がある。「体を揺らすと自分でもわからないけど自由を感じるんだ!」と踊り歩きながら叫ぶジョンたちの行進は、日々を窮屈に感じている人の顔を前に向かせてくれるパワフルなメッセージだ。
ニューオーリンズでは、ブラスバンドを伴った葬儀パレード、通称“セカンドライン”という伝統文化がある。バンドは葬儀場から墓まで棺を運ぶときには重々しい賛美歌を、埋葬を終えた帰路では死者の魂の解放を祝すため賑やかな曲を奏で、遺族や友人らで固められた先頭集団(ファーストライン)の後ろを、音楽に魅せられた通行人や地元民たち(セカンドライン)が踊ってパレードを盛り上げる。
幼少期の頃からセカンドラインに参加していたであろうジョンにとって、行進は嘆きや悲しみと同時に誇りと喜びを表現する手段でもある。“Love Riots(=愛の暴動)”と題されたデモ行進(過去にはマドンナも参加)を10年以上にわたり世界各地で実施してきた彼が、2020年にジョージ・フロイド殺害事件でブラック・ライヴズ・マター運動が再燃した際に、音楽を用いた平和的抗議を先導する存在となったのも自然とうなずける話だ。
憎しみを暴力的なものとしてぶつけずに愛の音楽でプロテストする意思は、最新作のタイトルトラック「WE ARE」に込められている。元々はデモとは別のタイミングで録音されていた楽曲だったが、2020年6月、ニューヨークのユニオンスクエアで行われた『We Are: A Peaceful Protest March With Music』で演奏されたことにより、一連の運動を象徴するようになった。
〈We are, we are, we are, we are the golden ones〉
〈We are, we are, we are, we are the chosen ones〉
クワイアたちにより力強く合唱される〈We〉が指すものに、どれだけの想像力を働かせられるだろう……混沌の世界情勢の中で、自分にもメッセージが問いかけられるようでハッとする。
近年の『グラミー賞』は、審査の基準に疑問があることもしばしばで、2021年に同イベントへの参加を永久にボイコットすることを宣言したザ・ウィークエンドをはじめ、アーティスト離れが進んでいる。
それを受けてか、今年は秘密委員会の制度が排除され、主要部門ノミネート枠も8組から10組へと広がるなど、グラミー側にとっても試行錯誤が見える勝負の年とも言える。最多ノミネートを果たしたジョンがどう評価されるのか。時代とグラミーはどう向き合うのか。来たるべき授賞式の行方を楽しみにしたい。
※1:https://atwoodmagazine.com/jbwa-jon-batiste-music-interview-we-are-2021/
■リリース情報
ジョン・バティステ
『ウィー・アー デラックス・エディション』
発売中
品番:UCCV-1190
価格:¥3,080(税込)SHM-CD
https://JonBatiste.lnk.to/WEARE_DXE
<収録曲>
1. アイ・ニード・ユー
2. フリーダム
3. クライ
4. ボーイ・フッド
5. シングfeat. トリー・ケリー
6. ウィー・アー
7. アダルトフッドfeat. BJ・ザ・シカゴ・キッド
8. ワッチュトーキンバウト
9. メイヴィス
フリーダム – バウンス・リミックスfeat. ビッグ・フリーディア
11. テル・ザ・トゥルース
12. アンティル
13. テル・ザ・トゥルース ‐アップタウン・リミックス feat. ビッグ・シェフ・ロメオ・オブ・ザ・ナインス・ウォード・ハンターズ、マイケル・バティステ、マルディグラ・インディアン・ショウ
14. ムーヴメント11’
15. ワーク・イット・アウト
16. アダルトフッド
17. ショウ・ミー・ザ・ウェイ
18. シング
19. ウィー・アー -モンマルトル・リミックスfeat. アビ・ベルナドス
■関連リンク
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『ウィー・アー』特設サイト:https://www.universal-music.co.jp/jon-batiste/we-are/
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