くじらが語る、花譜に贈った卒業ソング「春陽」の二面性 相反する感情が同居する歌詞とサウンドの関係

主人公の周囲にある情景だけを音楽として描く

ーーなるほど。歌詞の切ない要素の話になるのですが、「アルカホリック・ランデヴー」や「寝れない夜に」など、くじらさんの楽曲は若い世代の孤独を綺麗な音楽と共に表現する印象もあります。

くじら:例えば、都内で友達と楽しく遊んだり飲んだりした後に、帰りの電車に揺られながら感じる寂しさってあると思うんです。もう少し一緒にいたかったけど、それを言うのも面倒臭くて、後ろ髪を引かれながらも一人で帰る夜に聴ける曲が個人的に欲しかった。そういう曲はもちろんいくつかあるんですけど、自分が都会で寂しさを感じる瞬間に対して、そういう曲の数が追いついていなくて。きっとそれは自分だけではないと思ったので、それなら作ろうと思って、くじらとして活動をスタートしたんです。なので、孤独や寂しさみたいなものは、僕の楽曲のベースにあるのかもしれませんね。それに、僕自身、孤独を感じる瞬間が他の方と比べて多いんだと思います。幼少期から精神的な波がすごくて。夜も眠れないといろんなことを考え出して、勝手に落ち込んでいくみたいなことが多々ありますし。

ーーくじらさんのYouTubeのコメント欄を見ると、曲を聴いた人から共感の声も多数寄せられていて。くじらさんと同様の感情を抱いている人は一定数いるのかなと思いました。

くじら:自分は今20代なのですが、ずっと自分の感覚って特殊なものだと思って暮らしていたんですけど、実際のところ、そんなことは全然なかったんです。めちゃくちゃ普通の感性を持った一般的な人間だと自覚したというか。だからこそ、僕が感じている寂しさをできるだけ客観的に、主観ではなく人の話を聞くようにして歌詞を書くことで、曲を聴いている人も共感してくれるのかなって。曲を通して、僕とリスナーがお話しているような感じの音楽にできればとは常に思っているんです。主人公の枠は空けておいて、それを囲んでいる寂しさの起因となる情景だけを音楽として描くことによって、聴いていただける人が主人公の枠に収まってくれたらいいなと。

ーーだからこそ、聴き手にフィットする曲、普遍的な音楽になるのかなと。「春陽」のサウンド面に関しては、どのようなイメージで考えていきましたか?

くじら:3月終わりから4月の頭くらいに聴くとちょうどいい曲にしたくて、春風を浴びながら、ぽんぽん跳ねるようなサウンドにできればと思いながら全体のイメージは考えていきました。後半にいくにつれて、生楽器のような音も続々と出てくるのですが、高校と高校以降では全くの別世界があると思うので、そういう流れも音で表現したいなと。何人かで固まって同じ場所に存在していた時間から、一気に自由になっていくような開放感。それと同時に感じる寂しさや重たさみたいなものを、歌詞と一緒に出せたと思います。

 割とサウンドは歌詞に対する映画の劇伴的なイメージで作っているんです。歌詞は一聴しただけでパッと情景が思い浮かぶ歌詞が素敵だなと思っていて。その歌詞と連動して、後ろで流れていて欲しい音像を作りたいというか。

ーー歌詞とサウンドの関係性が独特ですね。あと、くじらさんはもともとベーシストということもあるので、ダンスミュージック的なグルーヴ感を出すのが上手いですよね。ダンスミュージックやファンクといったグルーヴ感の強い音楽が根っこにあるのでしょうか?

くじら:ありがとうございます。当時ベースを練習する上で、本場のベーシストの方のプレイを研究していたので、シャッフルであったり、跳ねるようなリズムは自然と身に付いたものなんです。もともとグルーヴ感のある曲が好きというのもあるんですけど、自分が曲を作る上で意識的にこうしようと思っている感じはないんですよね。どっちかというと、自分の作りたいなと思ったメロディを形にしようと思う中でいろいろ試した結果、実はそれがシャッフルだったみたいなことはよくありますね。

ーー楽曲制作自体は、作詞から作られることが多いとか。

くじら:それは書くのが早いとかではなく、単純にどこでもできるのが作詞という理由ですね。曲を作るときは、メロディ、歌詞、コードを揃えてから、パソコンで作り始めるんです。コードは楽器がいるし、メロディも鼻歌であったとしても録音できるシーンが限られている。その点、作詞はどこでも、いつでもできるんですよね。僕は24時間、365日、歌詞を書こうと努めているんですけど、思ったことをメモ帳に記録する作業量が他と比べて圧倒的に多いんです。もともと詩を書くのが得意というのもあるんですけど、結果的にその歌詞候補の中から良いものを抽出して曲を作り始めることが多くなっているんだと思います。

ーー24時間、365日はすごいです。それだけ、普段の生活や行動の中に曲のヒントがあるということですよね。

くじら:そうですね。普段ぼんやり思っていることが言語化される瞬間が好きで。自分で言語化できることもあれば、漫画や小説で言語化されたものを見つけたときの快感というか、アハ体験に近い喜びを感じるんです。常にそういうものを追い求めている気がしますね。

ーー先ほど完成版について「想像以上のものに仕上げていただいた」とお話がありましたが、花譜さんにボーカルディレクションはしましたか?

くじら:花譜さんをはじめ、他の方々でも歌のディレクションをすることは全くないです。

ーーそれは何故でしょうか?

くじら:僕としては、シンガーさんが好きなように歌って、力を発揮していただけたら素晴らしいものができあがるように逆算して設計しているつもりなんです。そのメロディラインが、歌い手さんへのメッセージでもあるというか。それに僕よりも、歌っている人の方が、ご自身の歌声の特性を理解していると思うので、お任せした方が良いものができるような気がするんです。ただ、対象の歌声に最適な曲にするために、提供する方の歌はめちゃくちゃ聴くようにはしています。

ーーもしもう一度、花譜さんに楽曲を作るとしたらどんな曲を書きたいですか?

くじら:次はアコギがメインの曲を作ってみたいです。声自体がウェットではなく、カラッとして刺さる声をしているので、その周りを倍音がきちんと鳴る曲で固めていったら、彼女の歌声が綺麗に目立って良いんじゃないかと思って。

 “歌ってみた”をされている方は、ご自身でも曲を選んでいると思うので、そこから自分が作る楽曲のヒントを得られる瞬間があるんです。こういうメロディが好きなんだ、こういう曲なら合うかなみたいな。その点、花譜さんは本当に多種多様な曲をカバーしたり、オリジナルを歌っているので、「春陽」を作る上でもどこから手をつけようかと悩みました。いろいろな素敵な要素があるからこそ、どこを抽出すれば、自分の音楽と一番マッチするのかを考える時間は長かったように思います。

ーーなるほど。くじらさんご自身の活動としては、今後はご自身がボーカルをとる曲もどんどん出されていくんですよね。ご自身の歌声に対する印象はどうですか?

くじら:自分の歌声は、そんなに……。これまでyamaさんやAdoさん、めいちゃんさんとか、名だたるシンガーさんの曲を作らせていただいた中で、僕自身が歌うのってすごくハードルが高くて(笑)。自分の歌声の特徴はとか考える以前に必死ですね。自分で曲を作っているので歌えないとかはないですが、完璧に歌えているかは別の話なので。歌の練習で実力をつけつつ、僕だけの癖や特性みたいなものが見つかったら良いなと必死にやっています。

ーー自己評価はまだ少し低めなんですね。

くじら:ギリギリ商品になるかなぐらいだと思ってます(笑)。まだまだやれることもあるのと、ライブで生歌が良いと言っていただけるように、必死に練習していきたい所存です。

ーーでは、最後に花譜さんに何か一言あれば。

くじら:まずはご卒業おめでとうございます! あとは、かなり忙しく活動されていると思うのですが、お体はご自愛ください。無理のない範囲で……いや、ギリギリ無理はしなきゃいけないのかもしれないのですが、何より楽しんで音楽を今後もやっていただけたらなと思います。

特集企画:花譜、ジャンルレスなコラボが生む“バーチャル×リアル“を越境した音楽

■リリース情報
コラボ企画『組曲』
第六弾
花譜×くじら「春陽」

第一弾
花譜×GLIM SPANKY「鏡よ鏡」
https://lnk.to/kaf_mirrormirroronthewall

第二弾
花譜×大森靖子「イマジナリーフレンド」
https://lnk.to/kaf_imaginaryfriend

第三弾
花譜×佐倉綾音「あさひ」
https://lnk.to/kaf_ayanesakura

第四弾
花譜×たなか「飛翔するmeme」
https://lnk.to/kaf_tanaka_flymeme

第五弾
花譜×羽生まゐご「わたしの線香」
https://lnk.to/kaf_maigohanyuu_myincense

■ライブ情報
花譜高校卒業記念スペシャル配信ライブ 「僕らため息ひとつで大人になれるんだ。」
2022年3月26日(土)20:00開演
チケット発売中
https://www.zan-live.com/live/detail/10164

■花譜 3周年記念特設サイト
https://kaf3rdanniversary.kamitsubaki.jp/

■花譜関連 URL
-HP https://kamitsubaki.jp/artist/kaf/
-BOOTH https://kamitsubaki.booth.pm/item_lists/L8aYTE28
-YouTube チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCQ1U65-CQdIoZ2_NA4Z4F7A
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