King Gnuはなぜ全方位型のロックバンドになり得たのか 豊かで幅広い個性を高め合える4人のケミストリー

 屋台骨でもあるリズム隊も個々での活躍が顕著だ。ベーシストの新井和輝は、常田によるSixTONESへの提供曲「マスカラ」をはじめ、絢香、佐藤千亜妃、甲田まひるなどの作品にも演奏で参加。また、君島大空や高井息吹のライブメンバーでもあり、的確に楽曲に芯を通している。ジャズベーシストとして即興演奏で腕を鳴らした経歴もあり、石若駿率いるAnswer to Rememberや、荒田洸(WONK)と宮川純で構成される新年会トリオ、トランぺッター 佐瀬悠輔率いるSASE BANDなど、セッション性の高いバンドにも参加。ストイックな技術力と遊び心溢れる対応力に秀でたプレイは、バンドのアンサンブルの軸を担っている。常田は「楽器のスペシャリスト」(※3)、「プレイヤー的なマインドだけじゃなく、クリエイションにもすごく理解がある」(※4)と評し、楽曲のアレンジ面にも大きく貢献していることが分かる。

Answer to Remember 『GNR feat. 黒田卓也』LIVE
"Jun Miyakawa, Kazuki Arai(King Gnu) & Hikaru Arata(WONK) with HIMI,MALIYA,TENDRE,JQ from Nulbarich"

 奇抜なファッションスタイルでも注目を浴びるドラマーの勢喜遊。彼もまた、新井とともに甲田まひるのレコーディングや高井息吹のバンドメンバーとして腕をふるっている。個人としてもNao Kawamuraの楽曲や、ermhoiと江崎文武(WONK)が手掛けた映画『ホムンクルス』の劇伴に参加し、ライブの現場ではODD Foot Worksのサポートメンバーとしても活動している。さらに、新井とともに常田率いるmillenium paradeの構成員の1人でもあり、厚い信頼を受けてビートメイクの一端を担っている。常田は「叩き姿から生まれるグルーヴの魅力が素晴らしい」(※5)と勢喜のプレイに惚れこんでいるし、そもそもKing Gnuの楽曲のバリエーションを支えているのは、彼の正確かつ多彩なドラムプレイだ。ジャンルの境界を融和しながら、無比のリズムパターンを創出し続けている。

ODD Foot Works in USEN STUDIO COAST(Live Digest)@2021 9/9
Nao Kawamura - Shelter feat. Black Boboi

 この4人がバランス調整などすることなく、好き勝手にやりながら、互いの個性を高め合える母体としてKing Gnuが存在していることは奇跡的な事実だ。「BOY」の無邪気な全能感、「一途」の攻撃力、「逆夢」の重厚さ、「カメレオン」の鮮やかに移ろう音像など、異なるタイプの近作が様々なジャンルのタイアップ曲であるということも、全方位型のロックバンドというKing Gnuの称号を確固たるものにしている。メンバーそれぞれがKing Gnuで培った力を背負って越境し、そこで得た成果を還元し、King Gnuをより強大なモンスターとして育ていく。この相補関係があるからこそ、4人の音楽家としての創造性は枯渇を知らない。King Gnuは拡張と伝播を止めることなく、この先も音楽のみならず、日本のポップカルチャー/アートシーンを牽引し続けることだろう。

King Gnu - カメレオン

※1:https://natalie.mu/music/pp/kinggnu
※2、4、5:https://www.cinra.net/article/interview-201807-kinggnu
※3:https://fendernews.jp/special-interview-king-gnu-b/

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