歌い手シーンに突如現れたシンガー Raon、世界中の音楽ファンを夢中にさせる歌声の魅力とは?

 「キツネノマド(Queen Fox)」という楽曲をご存じだろうか?

 2022年2月9日にリリースされると、イギリスとポルトガルのiTunesトップソングチャートJ-POP部門でデイリー1位に輝き、アメリカ、スペイン、スイス、ノルウェーではトップ10入り、ドイツとフランスでもトップ30内にチャートインしている。特に目立った事前情報もなく、いきなりこのような記録を打ち立てたのはかなりレアな現象だと言えよう。

Raon 라온 | ‘キツネノマド(Queen Fox)’ M/V (Prod. Giga & TeddyLoid)

 確かにサウンドには瞬時に心を掴まれるようなインパクトがある。押しの強いダンスビート、起伏の激しいアレンジ、音域が広いメロディライン。一聴しただけでは、どこの国の音楽か判別しづらい作風でもある。そして、多くのリスナーは、まず、彼女の持つずば抜けた歌唱力に圧倒されるはずだ。細かなギミックから、サビでここぞと張り上げるハイトーンまで、難易度の高い楽曲を完全に“乗りこなして”いるかのような歌声に耳を奪われる。そして冷静に聴いていくと、歌詞はほぼ日本語で、しかもところどころに古風な言い回しが使われているところが興味深い。一体この曲はどのように誕生したのだろうか。

“スーパーインフルエンサー”という肩書きを持つRaon

 まずは歌っている女性アーティスト・Raon(ラオン)を紹介したい。彼女は韓国出身である。そのため、K-POPシーンで活躍している歌手かと思いきや、メインの肩書は“スーパーインフルエンサー”。YouTubeの公式チャンネルの登録者数は425万人を突破(2022年1月時点)、動画再生回数は累計9.4億回を超え、Spotifyの月間リスナーが31万人(2022年1月時点)、フォロワー数は11万6千人以上。とてつもない数のファンを持つ存在なのだ。

 これだけの支持を集める最大の理由は、先ほど触れた“圧倒的な歌唱力”であることは間違いない。前述のYouTubeチャンネルでは彼女のさまざまな歌唱スタイルを楽しむことができるが、とにかく表現力の豊かさに驚かされる。安定した音程や、外国語をしっかりとした発音で歌うことができるといった点は言うに及ばず、さらに裏声を安易に使わずに声のトーンと強弱を巧みに使い分けて曲の世界観を表現しているところが素晴らしい。こうしたテクニックはともすれば「私は歌が上手い」と自慢げに聞こえてしまいがちだが、Raonは常に純粋かつ自然体で歌に挑んでいる。彼女のカバー歌唱の根底にはオリジナルコンテンツに対する敬意のようなものを感じる。それが多くの人たちの心をとらえて離さないのだろう。

 YouTubeでの人気を受けて、2018年に歌手デビューを果たしたRaon。韓国でインフルエンサーが歌い手としてデビューするケースは希少であり、彼女がシーンに与えたインパクトは大きい。また、ゲームミュージックやアニメーション映画の挿入歌など、今までに複数のシングルをリリースしているが、サウンドのスタイルはスローバラードやヘビィメタル、シンフォニックロックなど多種多彩だ。いずれも作品のストーリーを大切にした歌唱でプロ意識の高さを痛感するものばかりであるが、彼女のお気に入りは日本のアニメ関連曲やJ-POP。公式チャンネルでも『NARUTO-ナルト- 疾風伝』や『ジョジョの奇妙な冒険』といったアニメソングや米津玄師、King GnuなどJ-POPのヒットソングをカバーしている。このように日本の歌で表現力を磨いてきた影響もあり、日本にも熱狂的なファンが急増していると聞く。

ジョジョの奇妙な冒険 / STONE OCEAN┃Cover by Raon
POP SONG / 米津玄師┃Cover by Raon

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