DECO*27×ピノキオピー、ボカロ全盛時代に問う“個性の在り方” 世間と接続するために必要なバランス感覚

 米津玄師、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、YOASOBI、Adoの躍進など、メインストリームのポップミュージックを、ボカロ文化圏から生まれた作品が制覇しつつある音楽シーン。そんな中、今最も注目すべきアーティストがいる。3月1日に放送されたNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』“究極の歌姫~バーチャルシンガー・初音ミク~”特集へ熱いコメントを寄せたシーンのキーマンがDECO*27だ。

 バーチャルシンガー初音ミクに命を吹き込むボカロPことボーカロイドプロデューサーとして、黎明期である2008年から活動をスタート。そんなDECO*27が昨年3月9日にリリースしたポップチューン「ヴァンパイア」はYouTubeやTikTokを中心に大ヒットを記録。さらに今年3月9日には、“アイドル全員初音ミク”をキャッチコピーとする初音ミク愛を具現化した意欲作『MANNEQUIN』をリリースした。同作はDECO*27史上、最もポップ&エッジィなアルバム作品に仕上がっている。

 そんな話題作『MANNEQUIN』の“【Amazon.co.jp限定】商品のみ特典”として、人気曲「アニマル」リミックスに参加したのがピノキオピー。DECO*27同様、黎明期からボカロPとして活躍し、昨年リリースした「神っぽいな」 はYouTubeで2,300万再生を突破。クリエイターやリスナーから全方位でリスペクトを集めるオリジナリティに富んだ表現者だ。

 そんなボカロ文化圏のパイオニアであるスタープレイヤーの二人が、ボーカロイドやボカロ曲、そして移り変わりつつある音楽シーン最前線について“サシ”で対談トークを行った。(ふくりゅう)

お互いに刺激を受け合う両者の関係性

DECO*27 - 8th Album「MANNEQUIN」Trailer

ーーピノキオピーさん13周年、おめでとうございます。しかも「神っぽいな」 2,000万再生突破というタイミングで。

ピノキオピー:ありがとうございます。恐縮です。

ーーそして、DECO*27さんはミクの日=3月9日に通算8枚目となる最新アルバム『MANNEQUIN』をリリースということで。

DECO*27:ありがとうございます。

ーー最初にお二人が出会った頃、お互いの印象はどんな感じでしたか?

DECO*27:ピノさん(ピノキオピー)と僕はもともと同じ事務所に所属していました。仕事上でも会うし、事務所でふらっと会うことが多かったんです。今はお互い独立しているのですが、同い年ということもあって当時からとても話しやすい印象でした。作品面でも大きく刺激をもらったり、ピノさんのいいところを吸収させていただきつつ。最近も、ピノさんと話した後に曲が浮かんで。

ピノキオピー:その場で言ってましたね。「今、浮かんだわ!」って。

DECO*27:そうそう。

ピノキオピー:「え、なにから!?」って(笑)。

ーー(笑)。

DECO*27:ピノさんは、普通に話していても面白いし、クリエイターとしてもすごい方で、僕としてはとてもありがたい存在なんです。

ピノキオピー:嬉しいです。僕自身も同じで、DECOさん(DECO*27)の存在は刺激になっています。僕にないものを持っているんですよ。たとえば、もともと僕は歌詞が書きたくて曲を作っていたタイプなんです。自分が面白いと思う歌詞を優先して、けっこう閉じた感じで曲を作ることが多くて。でも、もっと「広く伝える」ということをDECOさんは意識されていたんですね。僕も、メジャーなモノを好きな要素もあるので、DECOさんから“歌詞とメロディの親和性”の話をはじめて聞いたときに、刺激を受けました。それこそ2014年ぐらいだったかな。あれからだいぶ自分でも意識するようになって、楽曲の作り方が変わりましたね。

ーー影響をお互いに受けているのですね。

ピノキオピー:DECOさん個人の印象は、情熱的な部分と冷静な部分の二面性がめっちゃあると思っています。すごい野生の部分があるのに、それを乗りこなしているもう一人のDECO*27が常にいるイメージというか。

DECO*27:わあ、めっちゃ見てくれていますね。

ーーそれぞれ、ルーツはDECOさんはメロコアとギターロックで、ピノさんは電気グルーヴなどサブカル寄りなイメージがありました。

ピノキオピー:僕もメロコアを通っているんですよ。パンクなど好きな時期があって。世代ですね。メロディの好みはそこで似ているところはあるかな。DECOさんの最新アルバム『MANNEQUIN』を聴かせていただいたんですけど「U」という曲がヤバくって。まさにメロコア直撃の時代を感じますよね。当時、この曲があったらいまも名曲として語り継がれていたんじゃないですかね?

DECO*27:ありがとう(笑)。

ーーそこで通じるんですね。

DECO*27:中学生の頃によく聴いていたのがメロコアで。当時は英語を聴いて理解できたレベルではなかったんですけど、メロディに対してたくさん母音が使われていて、言葉の意味はわからないけど歌っていて気持ちいいな、みたいな。音楽に触れはじめたタイミングで得た体験が今の自分の作詞に活きていて。意味が伝わる、言いたいことを言うというのも最終的には大事なのですが、まずはメロディに対して音がハマっていて気持ちいいかどうか。それがリスナーのみんなが聴いたときに頭に引っかかって、何度も聴きたくなるようにさせるということを意識するようになりました。

「油をかぶって火の中に突っ込んでいったのがすごい」(ピノキオピー)

ピノキオピー - 神っぽいな feat. 初音ミク / God-ish

ーーちなみにピノキオピーさんのヒット曲「神っぽいな」を聴いて、DECO*27さんはどのように分析されましたか?

DECO*27:僕「神っぽいな」がすごく好きなんですよ。これは「神っぽいな」から入った新参者の意見ではなく、ピノさんの曲をずっと聴いてきた上で今ピノさんが「神っぽいな」を出したこと、そのクオリティの高さにやられました。音のハマりがよく、コーラスパートが覚えやすい。それでいて歌詞のテーマがピノさんが得意とする“物事や現象”に対して、俯瞰的に表現されていて。ピノさんの作風プラス、今のトレンドを作風やビジュアル含め凄まじい熱量を感じた曲だったんです。自分もちょっと気合いを入れないといけないなって思い知らされましたね。あと、明確にピノさんにやられたのは「ラヴィット」も大きかったですね。

ピノキオピー:「ラヴィット」を出したとき、僕自身はピンときてなかったんです。もちろん自信を持って出したんですけど、世の中と接続できるかはわかっていませんでした。でも、DECOさんは「ラヴィット」は世間と接続できる曲だって言ってくれて。僕自身は「そうかなあ?」と思っていたら、TikTokをきっかけに一気に広がったという。DECOさんが予言してくれていたのが面白かったですね。

ーーそんなことがあったのですね。

ピノキオピー:はい、なかなか狙ってできることではないんですよ。もちろん、今の流れに通じる自分の好きなものと、今のトレンドとの折衷案を考えつつ作ってはいたんですけどね。ただ、想像以上の反響があったので驚きました。

ーーそんなピノさんはDECOさんの最新アルバム『MANNEQUIN』を聴いて、どう思われましたか?

ピノキオピー:まず、1年前にリリースした「ヴァンパイア」のヒットからはじまっていると思うのですが、(たとえ話として)DECOさんが油をかぶって火の中に突っ込んでいったのがすごいなと(笑)。下手すると変な燃え尽きかたをしてしまうと思うんです。なのに、プラスにしかなっていないところがさすがだと思いました。アルバムでは、ルーツミュージックだったり、自分は芯があるぞという曲がいっぱい散りばめられていて。先行配信された「パラサイト」もそうですよね。「ヴァンパイア」、「シンデレラ」、「アニマル」という流れの次にどうくるかと思ったら「パラサイト」がきて、“芯の部分がきた!”っていうかっこよさを感じたし、“オレはこっちもあるぜ!”的な(笑)。

DECO*27:ありがとうございます(苦笑)。

ーーDECO*27ならではの、アッパーなだけでない闇の部分を含めて人間を描ききった曲ですよね。

ピノキオピー:しかもちゃんとファンの人に伝わっているし。僕が思うことじゃないんですけど、安心しました。

DECO*27:アルバム『MANNEQUIN』に収録した楽曲をYouTubeで先行MVとして公開するタイミングを、「シンデレラ」を作っていたタイミングに考えたんです。攻める自分と守る自分の両方が頭の中にいて。攻める自分はアッパーな「ヴァンパイア」、「シンデレラ」、「アニマル」、そしてこれまでの自分らしさである「パラサイト」という順番だったんです。で、守る自分は「ヴァンパイア」、「シンデレラ」、「パラサイト」、そして「アニマル」という曲順で。

ーーなるほど。楽曲を出す順番も、実はとても重要な意味が生まれますよね。で、結局前者になったと。

DECO*27:「パラサイト」の曲順の置きどころに悩みがあって。僕、長く活動しているのでリスナーの方にとっての“DECO*27らしさ”ってすでにあると思うんです。それでいうと「ヴァンパイア」、「シンデレラ」、「アニマル」はちょっと音楽的には違うんじゃないかと思う方もいるのかなって。

ピノキオピー:新しいチャレンジだもんね。

DECO*27:そうそう、これを連続して出すべきかどうかで悩みましたね。でも、最終的には連続した上で、というかまさにピノさんが嬉しいことを言ってくださいましたが「パラサイト」で刺しにいくっていう順番にしました。

ピノキオピー:アッパー過ぎる「ヴァンパイア」、「シンデレラ」、「アニマル」でDECOさん大丈夫かなと思いつつ、でも、「全然大丈夫だよー」って感じで「パラサイト」を出して、そしてアルバムリリース当日に出るという「ジレンマ」を聴いて古参は安心できるという。あ、なるほどって思ったし、アルバムを締める花にもなっている。音楽的なチャレンジもされているし。

DECO*27:アルバムのテーマを“アイドル全員初音ミク”と謳っていて、まあ“イロモノ”にとらわれる可能性もあったので、これまでもそうなんですけど、それ以上に音楽としっかり向き合って個性あるチャレンジをしました。「ジレンマ」はまさにアルバムを締めくくる曲として書いたし、アレンジが打ち込みドラム、ハーフに落ちて最後で全部バンドにインしていくんですよ。ドラムやベースが生になって。実は「ヴァンパイア」から「ジレンマ」に至るまでを俯瞰した経緯を音楽性で表現したんですね。

ピノキオピー:はいはいはい。

DECO*27:バンドサウンドで決着するという。おさらいした上で次に向かっていくよっていう流れなんです。

ピノキオピー:アルバムの最後で先を見据えているワクワク感を感じました。

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