3rdアルバム『コトダマ』リリースインタビュー

海蔵亮太、「サイコパスのうた」で覚醒したシンガーソングライターとしての表現 岩﨑充穂との対談で紐解く意外な素顔

海蔵くんから出てくるちょっとネガティブな言葉はすごく刺さる

ーーご自身から生まれる歌詞やメロディに対して、何か傾向みたいなものを感じたりはしますか?

海蔵:僕はけっこうあっけらかんとした性格なんですよ。普段からポジティブに物事を考えるタイプというか。でも、いざ歌詞として言葉を書き起こしてみると、案外ネガティブな部分が見えているというか。わりと内向きな言葉を使うことが多いなって感じました。自分の心をパカッと開いてみたら、僕ってけっこう孤独で暗い人間なんだなって(笑)。それを楽曲としてみなさんに聴いてもらうことに、少しだけ恥ずかしさはありますね。

岩﨑:(笑)。でも、僕が感じた海蔵くんの曲のおもしろさはまさにそういう部分にもあったんですよ。30代になった海蔵くんから出てくるちょっとネガティブな言葉は僕自身にもすごく刺さるものだったし、それが今の海蔵くんのリアルであれば、それはやっぱり今歌うべきものだとも思えたので。

海蔵:人間としてネガとポジの両方を持っているのは当たり前だとは思うんですけど、ここまでネガティブな要素を持ってるとは(笑)。でも、岩﨑さんが感じてくれたように、それが今の僕にとっての新しい一面であるならば、それをみなさんにもわかって欲しいなっていう気持ちはありました。作詞・作曲をすることで、いい意味で自分自身の心を整理できる部分もありますしね。

ーー各楽曲のサウンドにも今までになかったニュアンスが色濃く感じられますよね。

海蔵:そうですね。今までの僕は、ちょっと壮大なサウンド感の中で歌う曲が多かったと思うんですよ。その雰囲気ももちろん好きなんですけど、今回はちょっと間引くというか、必要最低限の音だけで作る音楽を歌いたい気持ちがあったんです。なおかつ、今までやったことのないジャンルにも挑戦してみたかったですし。そのへんは岩﨑さんと相談しながら、僕の知らない新しい音楽をいろいろ試していくことができたと思います。

海蔵亮太「会いたい会えない」MUSIC VIDEO

ーー間引くという意味では、ピアノと歌のみで構成された1曲目の「会いたい会えない」が象徴的ですよね。シンプルな音像の中で、海蔵さんから溢れた言葉とメロディ、そしてボーカルの魅力が存分に味わえる仕上がりになっています。

海蔵:これまでの僕からすると、アルバムの1曲目っぽくないタイプかもしれないですけど、今回のアルバムの世界に没入してもらうには最適な曲だと思います。言葉を詰め込むのではなく、逆に言葉を間引き、空白の部分に聴いた人の思いや気持ちが入り込むような曲を作りたいと思ったんですよね。歌詞に関しては、学生時代に亡くなってしまった僕の友人を思い浮かべながら書きました。こうやって曲にできたことで、自分の中での心の整理ができたような気がします。この曲に僕自身も救われたというか。

岩﨑:海蔵くんが言ってた「間引く」という意味ではまさに究極とも言える1曲だと思います。音や言葉を間引くことで行間にある思いを感じてもらえる楽曲を、ピアノと海蔵くんの歌でどう届けていくかをかなり考えましたね。そこにある温度感、空気感をきっちりパッケージングするために、この曲では海蔵くんとピアニストの2人で同時にレコーディングしたんですよ。そういった録り方をしたので、キレイに歌えていない部分があったりはするんだけど、でも歌に込められた感情的な部分がものすごく伝わる歌が録れたと思っていて。1曲の中にあるドラマも表現できている、すごく印象的な曲になりましたね。

海蔵:まさかピアニストの方と「せーの」で録るとは思っていなかったので、スタジオに入ったときには若干震え上がりましたけどね(笑)。でも、曲の内容としてもちょっとセンシティブな思いを歌ったものなので、そういった録り方をしたことで今までとは違った自分をしっかり残すことができました。もっとキレイに歌える部分はあるけど、でもそれをあえてしない選択をしたことに大きな意味があったかな。

ーーアルバムを聴かせていただくと、今回はテクニックよりも感情を優先した歌が詰まっている印象があって。それはある意味、海蔵さんの人間性をより感じさせる歌でもある。そういった意味では、今回の作品で海蔵さんとの距離がグッと縮まった気がしたんですよね。

海蔵:あ、その感想はうれしいです。僕がデビューのきっかけを掴んだのはカラオケの世界大会(「Karaoke World Championship」。海蔵は2016、2017年の2年連続で世界チャンピオンに輝いた)なわけですけど、日本人が思うカラオケが上手い人の基準って、ピッチもリズムも正確で、原曲通りにバッチリ歌えることなんです。だから僕も当然そういうイメージをずっと持たれているし、そこに応えなきゃいけない部分があった。ただ、今回に関しては、レコーディングのときにそこをまったく意識しなかったんですよね。ピッチがどうのこうのではなく、そこじゃない部分を今まで以上に引き出してもらえたような気がしていて。もちろん今までの自分を否定するわけではないですけど、今回はそういう部分でも新しい海蔵亮太を感じてもらえるんじゃないかな。

岩﨑:今回のレコーディングでは、エモーショナルな部分しか狙わなかったですからね。言い方は悪いですけど、ピッチなんかはもうどうでもいいよ、みたいな(笑)。

海蔵:そうなんですよ。ピッチのことなんてまったく言われなかった(笑)。

ーー今回はご自身で書かれた曲が多い分、感情をより込めやすい部分もあったはずだし。

海蔵:そうそう。僕自身と曲との距離感がものすごく近いものばかりなので感情はめちゃくちゃ乗せやすかったです。ただ、逆に言えば感情を乗せすぎちゃう恐れもあったんですよ。自分で書いているからこそ、いくらでも感情を乗せられてしまうというか。そうすると自己満な歌になってしまうような気がしたので、そのバランスはわりと意識的に気をつけたところはありました。あまり感情が過剰だと、聴いてくださる人がちょっと引いてしまうこともあるんじゃないかなと思ったので。

岩﨑:まあでも、そこは問題なくいい温度感で歌ってくれたと思いますよ。例えば「ここには」の頭には〈井の頭公園のベンチに1人きりで腰掛けていた〉という歌詞がありますけど、そこは実際に井の頭公園のベンチに座って書いたそうなんで(笑)。そこにあるべき感情はこちらから何も言うことなく自然とマッチしたものになるんですよね。

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