ドクター・ドレーの名曲「Still D.R.E.」、今も幅広い世代に愛される理由 『スーパーボウル』後のチャート浮上を機におさらい

参照:https://charts.spotify.com/charts/view/regional-global-weekly/latest

 Spotifyの「トップ50(グローバル)」は、世界的に最もストリーミング再生された曲をランク付けしたチャート。本連載では、同チャートを1週間分集計した数値のデータを元に、グローバルな音楽シーンの潮流をお届けする。第22回となる今回は、2022年2月18日~2022年2月24日集計のチャートを見つつ、『第56回NFLスーパーボウルハーフタイムショー』の影響で29位にランクインしたドクター・ドレーの「Still D.R.E.」と、1999年にリリースされたアルバム『2001』を紹介したい。

アニメ『Arcane』の根強い人気で「Enemy」が3位に浮上

 先週に引き続き、Glass Animalsの「Heat Wave」が1位を獲得。ザ・キッド・ラロイの「STAY」も再び2位となり、Imagine DragonsとJ.I.Dによる「Enemy」が3位に浮上。アニメ『Arcane』が根強い人気を誇るなか、メインテーマ曲「Enemy」の動向に注目が集まる。ベッキー・Gとカロル・Gのコラボ「MAMIII」が5位にランクアップ。『スーパーボウルハーフタイムショー』の影響もあり、ドクター・ドレーの1999年の楽曲「Still D.R.E.」が29位、さらにエミネムの2002年の楽曲「Without Me」が31位に浮上した。

Imagine Dragons x J.I.D - Enemy (from the series Arcane League of Legends)
Dr. Dre - Still D.R.E. (Official Music Video) ft. Snoop Dogg
Eminem - Without Me (Official Music Video)

『スーパーボウル』を大いに盛り上げたドレーの代表曲、「Still D.R.E.」

 ドクター・ドレーが1999年にリリースした名盤『2001』。<Death Row Records>を脱退してから初のソロアルバムであり、世界で1000万枚以上のセールスを誇る大ヒット作品である(※1)。

 ドクター・ドレーは『2001』でギャングスタ・ラップのルーツに戻り、ヒップホップのサウンドスケープを変えたと言っても過言ではないだろう。この作品はまさに90年代から2000年代にリスナーを誘い、2000年代のサウンドを定義づけた作品とも言える。既存の楽曲を単にサンプリングするのではなく、使用するフレーズを新たに演奏し、サウンドに今までにない奥行きを作っている。

ドクター・ドレー『2001』

 ジェイ・Zの長年のエンジニアとしても知られているヤング・グルは、『2001』のサウンドについてこのように語っている。

 90年代のヒップホップは低音が多く出ていたけど、ドクター・ドレーはサウンドをクリアにしつつ、深みを出した。左右にパンを振って上手くミックスできる人は多いけど、サウンドに三次元の深みを出したのは、ドクター・ドレーの『2001』が初だった。(※2)

 ヒップホップのサウンドを変えた名作である『2001』を語る上で、1stシングル「Still D.R.E.」のインパクトは欠かせない。『スーパーボウル』のハーフタイムショーでもラストを飾り、世界中のヒップホップファンを大いに盛り上げた楽曲であるが、これには元The Rootsのキーボーディスト、スコット・ストーチが大きな役割を担っている。彼によるピアノリフは、ヒップホップ史上最もアイコニックなフレーズとも言えるだろう。当時、スコット・ストーチはドクター・ドレーの右腕となり、ピアノが印象的なビートを数多く世に出した。

 スコット・ストーチ以外にも、「Still D.R.E.」において大きな役割を担ったのがジェイ・Zである。彼はドクター・ドレーのラップパートだけでなく、ゲスト参加しているスヌープ・ドッグのリリックも書いている。同曲のラップに困っていたドクター・ドレーとスヌープ・ドッグは、当時最も熱かったラッパーであるジェイ・Zをスタジオに呼び、リリックを書いてもらったようだ。スヌープ・ドッグは「Still D.R.E.」のラップについて、このように語っている。

 ヒップホップで最も優れたソングライターである俺とThe D.O.C.は、このビートを前にして苦戦していたんだ。4日目になっても何も思い浮かばなかった。そこでドクター・ドレーは、ある男をニューヨークからLAに連れてきたんだ。皆がスタジオにいるなかで、この男は30分で曲を完成させた。彼はドレーのパートだけではなく、俺のパートも書いたんだ。完璧だった。俺とD.O.C.は、「ヤラれたな…」と思った。俺たちは大人しく主役の立場を譲ったよ。「Still D.R.E.」の歌詞は全てジェイ・Zが書いたんだ。(※3)

 昔から頻繁にドクター・ドレーのリリックを書いていたスヌープ・ドッグとThe D.O.C.。ジェイ・Z本人は「Still D.R.E.」についてこのように語っている。

 俺はスヌープ・ドッグとドクター・ドレーのパートをレファレンストラックとしてラップして、声も似せないといけなかった。それが世に出回ってなくてよかったよ(笑)。彼らに対して敬意を持つ必要があった。『The Chronic』(※4)など、彼らがやってきたことに対する敬意を持って、彼らのエッセンスを出す必要があった。2人とも<Death Row Records>を去った後だったし、カムバックする彼らの立場にならないといけなかった。(※5)

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