角野隼斗のピアノ演奏にある自由さの根源 影響受けた様々な“表現”を明かす

音楽にとどまらない、角野隼斗が影響を受けた“表現”

ーーこうやってお話を聞いていると角野さんは、音楽に限らず様々な文化、人、ものから影響を受けて自身の演奏に反映させている印象です。中でも特に影響を受けたものを三つ挙げるとしたら?

角野:えー、難しいな……(笑)。さっき歌舞伎の話が出ましたが、以前僕の表現は能楽に近いと言われたことがあります。「能における個人の解釈や作為を排する表現性」みたいなところが共通していると。ただ、僕自身は学生の時に能楽の観賞会がありましたけど、完全に居眠りしていたのでよくわからないです。

ーーあははは。

角野:その指摘は以前、朝日新聞のインタビューで坂口安吾の『日本文化私観』について話したことにもつながります。「美は、特に美を意識して成された所からは生れてこない」という、この本の一節が今の自分に刺さったんですよね。ショパンの美しさってなんなんだろう? と考えた時に、美しさは意識して生み出すものじゃなくて滲み出るようなものなのかなと。何も手が加えられていないものに対して感じる美しさ。僕が目指したいのも、そういう美しさです。ただ、それが特に影響を受けた三つの内の一つかと言われると……。

ーー三つにこだわらなくて大丈夫です。

角野:ほかには、小津安二郎さんの『東京物語』。以前ショパンの「バラード第2番」をどうやって演奏するか悩んでいたことがあって。前半部分がものすごく穏やかな曲調で、「ここはピアニシモで弾いて、ここは内声をもっと出してみて……」みたいに細かく構成を練っていたのですが、その時に古い映画が大好きな恩師のルイサダさん(ジャン=マルク・ルイサダ)が、小津安二郎の『東京物語』を引き合いにアドバイスをくれて。小津作品って必ず固定されたローアングルで撮影しているじゃないですか。「無駄な動きをしないからこそ、小津の映画は人々の心の機微を見事に捉えている。動かないからこそ際立つ美しさもある」と。その言葉にもすごく感銘を受けましたね。

シューベルト : 作品集 / ジャン=マルク・ルイサダ

「『小曽根さんだったら、こんな時どう考えるだろう』と思う時すらあります」

(左から)小曽根真、角野隼斗/2021年6月 ブルーノート東京公演

ーーそういえば以前、サントリーホールでの小曽根真さんのライブにも感銘を受けたとツイートされていましたね。「これが音楽の理想の姿だなあと改めて思いました」と。

角野:サントリーホールでの公演は、最後ものすごくハッピーに幕を閉じたんですけど、それに近い雰囲気が今回の自分のツアーでも作れたんじゃないかと思っています。小曽根さんには、ここ1、2年でものすごく影響を受けていますね。「小曽根さんだったら、こんな時どう考えるだろう」と思う時すらあります。

 それからフリードリヒ・グルダ(ウィーン出身のクラシック/ジャズピアニスト)の影響も大きいです。彼はクラシックの閉鎖的なところに嫌気がさしてジャズに傾倒していくんです。とにかく新しいことがしたかった人で、彼の伝記などを読むと口が悪いんですよ(笑)。やっぱり一流の人って批判もされますから、それに立ち向かうためにも口が悪くなるのかなと。一時期その影響を受けて僕も口が悪くなりました。

フリードリヒ・グルダPiano Works』

ーー(笑)。影響されやすいんですね。

角野:そうなんですよ。特に伝記やインタビューを読むとすぐ感化される(笑)。そういう意味では坂本龍一さんの『音楽は自由にする』(2009年/新潮社)にも影響を受けました。この本は2回読んだのですが、坂本さんはもともとクラシック出身の人で、クラシックの専門的な教育など特に受けていない細野晴臣さんが、坂本さんと同じくらい音楽的な知識やセンスを持っていることに、ものすごくインスパイアされるんですよね。そういう経験は僕も最近よくしています。ポップスの方々と関わる中で、例えば映秀。みたいに、ものすごく高度な和声を生み出す人もいて。そういう人たちとの関わり合いの中で、自分の進むべき道が見えてきたところもあるので、そういう意味でも坂本さんには一方的なシンパシーを覚えています。

 坂本さんのように、幅広く音楽に興味を持って自分の作品に取り入れていく姿勢は生涯を通して目指したいですね。僕もいつかインドネシアへ行って生のガムランを体験してみたいです。そういえば南インドに「コナッコル」という言葉でリズムを表現するボイスパーカッションがあって、すごく数学的で面白い。彼らとコラボしてみたいですね。あ、あともう一人、ブラッド・メルドーの活動の仕方にもものすごくシンパシーを感じているので、今後彼からも影響を受けたいです。

Brad Mehldau - maybe as his skies are wide (Official Video)

ーー影響を「受けたい」と素直に言えるのは素敵だなと思います。以前のインタビューで「自分は音楽でどんな貢献ができるかを考えるようになった」とおっしゃっていましたよね。

角野:それも小曽根さんの影響なんですよ。さっきの「美しさ」の話につながると思うのですが、僕はピアノが「上手くなりたい」とは思いますが、「上手く見せたい」と考えるのは違うなと最近は思っていて。「美しく見せたい」「上手く見せたい」とかではなくて、自分の根底に「音楽が好き」というものがあり、今はただ「楽しんでいる」ということを包み隠さず全部出す。結果的にそれがお客さんへと伝播し、同じように楽しい気持ちになってくれたらそれが一番嬉しいですし、一番大事なことだとも思っています。そのためにはテクニックだって当然必要なんですけどね。

(※1)https://ontomo-mag.com/article/interview/hayato-sumino-chopin-competition2021/

■コンサート情報
2022年2月20日(日)
開演:18:00~ (開場 17:00~)
東京国際フォーラム ホールA (東京都)

<出演者>
ピアノ:角野隼斗
指揮者:藤岡幸夫
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

<演奏予定曲目>
Some Chopin Pieces
Some Hayato Sumino Original Pieces
Gershwin:Piano Concerto in F  etc…
※曲目・曲順は変更になる可能性がありますのでご了承ください。

<Streaming+ 配信>
配信日時:2022年2月20日(日)18:00~
視聴チケット:¥3,000(税込)
一般発売:2021年12月31日(日)昼12:00~2022年3月5日(土)21:00
*アーカイブ期間:2022年3月5日(土)23:59まで

・視聴チケットのご購入はこちら
https://eplus.jp/suminohayato-2022tour/st/
・海外にお住まいの方はこちら
https://ib.eplus.jp/hayatosumino
※料金は地域により異なります。

<角野隼斗 全国ツアー2022“Chopin, Gershwin and…“ 公演詳細>
https://eplus.jp/suminohayato-2022tour/

■関連リンク
https://www.youtube.com/user/chopin8810
https://twitter.com/880hz
https://instagram.com/cateen8810
https://hayatosum.com

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