WOWOWオリジナルライブ×SHE'S キャリアの中での新たな挑戦と「360 Reality Audio」による視聴体験
WOWOWが最新の映像・音声技術やコミュニケーション技術を取り入れたコンテンツをいち早く体験してもらうためのスマートフォン向け実験用アプリケーション「WOWOW Labアプリ」を12月16日にリリース。第一弾として、ソニーが提供する立体的な音場を実現する「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」の視聴機能を搭載した。この機能を活用した音楽コンテンツから、今回はWOWOWオリジナルライブとして制作されたSHE’Sの『SHE’S “By the Lake” LIVE』をピックアップ(WOWOWオンデマンドで配信中)。
猪苗代湖という自然の中のロケーションでありながら、明快にボーカルや楽器の音が聴こえ、さらには鳥のさえずりや風の音も効果的に演奏に色を添えている。また、その場にいるような立体音響も新たな醍醐味と言えるだろう。野外フェスがことごとく延期・中止になった2021年。ライブハウスやホールからのライブ配信も行ってきたが、そうした環境とは異なるシチュエーションだからこそ体感できる楽曲との親和性の高さや、荒天の中で見せるメンバーのキャラクターも新鮮な映像作品だ。
本稿ではこのライブや「360 Reality Audio」についてのメンバーの感想、そして番組制作とアプリ開発について、片桐知香プロデューサー、アプリ開発者の蓮尾美沙希へのインタビューをお届けする。(石角友香)
ステージのない自然の中でのライブが新しい挑戦になった
――まず猪苗代湖というロケーションを提案されたときにどんなイメージを持ちましたか?
井上竜馬(以下、井上):楽しそうというか、合うだろうなとすぐ思いましたね。
――そう直感した理由は?
井上:音楽性がメインですかね。昔からリスナーとして広い景色で鳴る音が好きだったし、そういう音楽を作りたいなと思ってこのバンドを組んでたから。自分たちの曲は自然との融合に特化して作ってたわけではなかったし、結果としていろんな曲ができてはいたけど、それでも合う曲はいっぱいあるだろうなと思ったので、そういう意味で直感してましたね。
木村雅人(以下、木村):夕方から夜にかけての移り変わりも各曲に合ってたと思いますし、自然の音も聴こえてくるので、それともすごく合ってたなと思いますね。
広瀬臣吾(以下、広瀬):去年から今年にかけて、夏フェスがなかなかできなかったり、野外でライブができる機会が減っていたので久しぶりに楽しかったですね。
服部栞汰(以下、服部):まず楽しみが一番で。バンドのキャリアも10年重ねてくるとやったことがないこと、新しいことに挑戦することが減っていたので、ステージのない自然の中というのは新鮮な気持ちで挑めました。
――ロケーションや全体の尺が分かったところで、どういう風にセットリストを組んでいきましたか?
井上:移っていく時間帯は意識したし、せっかく野外でやるからアコースティックゾーンというか、「焚き火をやりたいな」っていうのは最初から思ってましたね。「ミッドナイトワゴン」や「Set a Fire」は野外をイメージしながら作った曲ではあったので。「Set a Fire」は音源でも焚き火の音から始まってるし、ああいうのって、やっぱ外じゃないとできないから、せっかくだからやりたいよなって。「ミッドナイトワゴン」に関しては歌っている内容はまた全然違う話ですけど、サウンド感に関してはキャンプファイヤーしながら歌いたいなと思って作っていたんで、やっと夢叶ったり、じゃないですけど、そういうロケーションでできるんじゃないかなと思ったからセットリストにも入れました。
――それ以外でも、今回はこの曲は入れようという意図はありましたか?
服部:やっぱり曲のイメージが外に合っているものですかね。例えば「In Your Room」もグラスミュージック的なイメージでやってるんで、合うだろうなというところで組んでいって。もちろん盛り上がりとかも意識しながら。
井上:明るい曲は明るい時間帯のうちにやろうって感じで、前半に持っていってたのはありますかね。逆に夜に似合う「Letter」や「追い風」は後半にやりました。
服部:「Dance With Me」も前半に。基本、ライブでは後半に持ってくることが多い曲なんですけど、せっかくなので明るいうちにということで。
ーー向き合う陣形が珍しかったです。あれは必然的に?
井上:まだライブハウスならお客さんがいなくても、横並びでもいけるけど、それは見慣れた光景だから。全部今までと違う状態で、森で横並びになるのはちょっと想像がつかなかったから自然と向き合う形で決まってた気がするな。
木村:あのロケーションで向き合って演奏するっていうのは僕としては新鮮で楽しかったですね。
――では皆さんの推しポイントを教えてください。
広瀬:最後のブロックの「The Everglow」は寒かったし雨も強いし、最後に振り絞った、バンド感が出た瞬間だったので、それを感じてもらえたら。
井上:気持ちがつながったよね。あれは不思議だったな。誰も何も言ってなかったけど、気持ちにグルーヴが入ってた。俺もその辺りは演奏も大変だったし、なかなか辛かったけど、でも「Letter」とか、「The Everglow」辺りの夜のロケーションに加えて、ちょっと雨が降っていたりして画としてはすごく世界観があった。エモさが出た瞬間だったのかなとは思いますね。あんなに「Letter」で天然のビブラートが出るとは思わなかった(笑)。
広瀬:震えてるやん(笑)。
服部:「Letter」は他で見ることのない「Letter」が見られる。竜馬が風でうわーってなりながら。
井上:あれは儚かった、映像としては。
服部:あんな感じで「Letter」を演奏することは今後ないかもしれないので。それこそ「追い風」も「めちゃめちゃ向かい風やけど、それを追い風に!」みたいなMCはあの環境ならではなので、見どころかなと思います。
――映像や音響面で改めて思ったことはありますか?
服部:MCや曲に入るまでに鳥のさえずりとかが入ってるのがすごく良かったですね。普段、鳥の鳴き声を聴きながらとかなかなかないんで。
――決まった尺ではないMCやメンバー同士の会話も良かったですね。井上さんの「Home」の前のMCとか。
井上:「Home」良かったな。
――メジャーデビュー後の多忙な1年を振り返っていましたが、話す内容は決めてたんですか?
井上:いや、基本決めないんで、その場で喋ってましたね。「Home」は結成10周年の2021年、結構いろんなところでやった曲なので。それにあの曲に対して個人的に思い入れが強いんですよね。しかもやる場所によって全然違う感じ方があるから、その時その時で出る言葉は喋りたいなと思っているので、本当にあの日も内容を決めては喋っていなかったですね。
――井上さんが話したことに対して、皆さん思い出すことがあるわけですよね。だから「Home」の演奏もギアが入った気がします。
井上:僕が言ったことで泣く人もいるからね。
木村:……たまに。
服部:キム(木村)が一人、お客さんぐらい響いてるときがあるから(笑)。
――あの曲の後半でエネルギーがグッと出たなと思って。
井上:あれもグラスミュージック寄りというか、開けた自然が似合う音楽に影響されて、ちょっとアイリッシュの要素が入ってたりもするし。イギリスに一人で行った時に作った曲だったから、ああいう自然を感じる場所でやりたいと思ってましたね。