THE SPELLBOUNDを間近で捉えたドキュメンタリー 岩井正人監督に聞く、自身の目線を通して伝えたかった苦悩と歓喜

岩井正人が捉えたTHE SPELLBOUNDの物語

岩井正人が感じた、THE SPELLBOUNDが変化する大きなきっかけ

ーー本作では中野さんがコロナ禍におけるライブの規制に対して、自分の意見を述べるシーンなど、“アーティストとコロナ禍との戦い”も描かれました。そういったシーンを通して、視聴者に伝えたかったのはどういったメッセージでしょうか。

岩井:やっぱり世間からの音楽やライブに対する風当たりは強かったですし、あまりにもコロナ禍の音楽に対する影響が大きすぎたため、以前のように音楽を純粋に楽しむことを忘れてしまったというか、音楽の力を信じられなくなってしまった人も決して少なくなかったような気がするんです。だからこそ、コロナ禍と向き合うアーティストの姿は、本当に今しか撮れない映像だし、この時代の音楽のドキュメンタリーを作る上では必要不可欠でした。本作を通じて、ありのままの現実を見ることで何かを感じてもらえると嬉しいです。

ーー特に開催をめぐって論争が起きたフジロックのシーンでは、そこで音楽を楽しむファンの姿が印象的でした。

岩井:そうですね。フジロックについては本当にいろいろな意見があったと思いますが、実際に現地に行ってみると、そこで皆さん音楽を楽しんでいたし、やっぱりこういう場所がなくなってしまうのは個人的にも良くないことだなと思いました。

ーー岩井さんにとって、本作で最も印象的だったのはどのシーンでの出来事でしょうか。

岩井:最初の方で小林さんが喉が調子が悪くて上手く歌えない時に、中野さんが小林さんに対して詰め寄るようなシーンがあるのですが、その時がこのドキュメンタリーのスタートラインの瞬間だったというか、そこで小林さんに火がついたことで、ドキュメンタリー自体も小林さんの成長の物語のようになっていったと思いますね。

 一方で中野さん自身は本質的には何も変わらないと思うんですけど、小林さんが中野さんの期待に応えていく中で、中野さんの彼に対する信頼度もどんどん上がっていったし、最初は小林さんができないことに対してしていたアドバイスも、小林さんが成長していくにつれて、今よりもっと良くなるためにどうすればいいかみたいなことを伝えるようになっていった気がするんです。そこがバンドにとって大きな変化だったように思います。

ーー先ほど少しお話しいただきましたが、改めて本作を通じて視聴者にはどのようなことを感じてほしいですか。

岩井:このドキュメンタリーを制作する上で、何か壮大なテーマみたいなものがあったわけではありませんが、編集する上で気をつけていったのは、“これで完成ではない”ということです。THE SPELLBOUNDは、まだ始まったばかりのバンドですし、ちょうどこの1年をきっかけにこれから動き出すという感じだと思うので、今回はあえてしっかりとしたまとめ方にせず作品を終わらせることを意識しました。なので、これがきっかけになっていろいろなモヤモヤした感情が皆さんの中で解消されたらいいなと思っています。そういった感じで気持ちを一旦フラットにしてから、THE SPELLBOUNDを新たに応援していこうという気持ちになってもらえたら嬉しいですね。

ーー本作ではどのようなところに制作の難しさがありましたか。

岩井:この長い撮影期間の中でどこを切り取ってまとめるかに関しては、当然頭を悩ませたのですが、やっぱり一番難しかったのは、予定していたフジロックの映像が使えなくなったことで、そこからどうやってストーリーを繋いでいくのかということでしたね。あとバンドのストーリーとコロナ禍における社会情勢をどうやって同時に見せていくのかにも難しさを感じました。

 それと、今回は作品を単調にしないようにあえて時間軸をぐちゃぐちゃにして編集しているのですが、それをどうやって違和感なく見せられるかについても悩みました。これは最後まで集中して作品を観てもらうためにやったというのが1番の理由なのですが、それ以外に物語をあまりドラマチックにしすぎないという意図も込めています。

ーー今回の配信をきっかけにTHE SPELLBOUNDを新たに知ることになった人に対しては、この作品をどのように説明しますか。

岩井:“ミュージシャンや音楽を愛する全ての人にとって、生きにくい時代を記録したドキュメンタリー”ですね。このドキュメンタリーでは、コロナ禍でのミュージシャンに対する風当たりの強さやそれに対する葛藤もあれば、ライブに向けて膨らむ緊張感や初ワンマンが成功した後のバンドメンバーの歓喜の様子など、テレビのドキュメンタリーやアーティスト主導のドキュメンタリーでは描けない要素も数多く含まれています。それをTongpooさんに「僕らはそれも出せるのでどんどん出していこう」と言っていただけたことは、この作品を作る上で非常に大きかったと思っています。

ーー今年2月には1stアルバムとそのリリースイベントを控えているTHE SPELLBOUNDですが今後、彼らに対してどのような活躍を期待しますか。

岩井:THE SPELLBOUNDが、BOOM BOOM SATELLITESやTHE NOVEMBERSと違うところは、より歌として多くの人に届くところだと思うんです。なので今後はマニアックな音楽をやるバンドという枠に留まらず、広く人に知られるようなバンドになってもらいたいなと思っています。

■ディレクター 岩井正人
1977年生まれ。日本大学芸術学部活放送学科卒。
テレビ番組の演出や、アーティストライブ、ドキュメントの演出を数多く手掛ける。2008年よりBOOM BOOM SATELLITESのライブやドキュメント映像を担当。

■作品概要
『THE SPELLBOUND|Tongpoo videos vol.4』
配信日:2022年1月23日(日)
※アーカイブ視聴は1月30日(日)23:59まで
出演:THE SPELLBOUND
料金:2,500円
オフィシャルサイト:https://tongpoo-tokyo.com/videos/vol4/

■ライブ情報
『THE SPELLBOUND the first album launching special live』
2022年2月26日(土)at Spotify O-EAST

■新譜リリース情報
1st Album『THE SPELLBOUND』
2022年2月23日(水)発売
予約受付中:https://the-spellbound.com/al/

THE SPELLBOUND アーティストHP:https://the-spellbound.com/

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