THE SPELLBOUNDを間近で捉えたドキュメンタリー 岩井正人監督に聞く、自身の目線を通して伝えたかった苦悩と歓喜

岩井正人が捉えたTHE SPELLBOUNDの物語

 エンタテインメント業界に生きる人々の“原点”に、新たな価値や可能性を宿らせる集団(コンテンツメーカー)Tongpooの第4弾映像作品として、中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)と小林祐介(THE NOVEMBERS)によるバンド、THE SPELLBOUNDの舞台裏に密着したドキュメンタリー『THE SPELLBOUND|Tongpoo videos vol.4』の有料配信が1月23日よりスタートした。

 全編ワンカメ撮影、編集なしの映像による臨場感と緊張感が伝わるドキュメンタリー性の高さが話題を呼んだ初ワンマンライブの映像に引き続き、ワンカメ撮影を軸に昨年夏から年末にかけてのバンドの軌跡を追った本作には、中野と小林が撮影期間中に体験した苦悩や葛藤、歓喜の瞬間まで、余すことなく収録されており、追体験的に彼らの体験を味わうことができる珠玉のドキュメンタリー作品になっている。

 そんな本作では、これまでに長年BOOM BOOM SATELLITESのドキュメンタリーやライブ映像、THE SPELLBOUNDが昨年7月に恵比寿LIQUIDROOMにて行った初ワンマンライブ、思い入れのある新木場 USEN STUDIO COASTで12月に行われた最初で最後のライブ映像も手がけた、ディレクターの岩井正人が監督を務めている。

 コロナ禍の規制に準じて行われた初ライブに臨むバンドの緊張感溢れるリハーサルシーンや、批判も渦巻く中での開催となった『FUJI ROCK FESTIVAL '21』出演をめぐる葛藤、リリースを控える1stアルバム制作における産みの苦しみ、中野、小林ともに思い入れのある新木場 USEN STUDIO COASTの閉館を想い行った2度目のワンマンライブの成功に至るまで。その間にTHE SPELLBOUNDは、どんな言葉を発し、表情を見せ、自らの想いを我々と共有しようとしたのか。

 その姿を約半年に渡り、カメラ越しに追いかけた岩井監督に本作の制作意図や撮影期間中にバンドに起きた印象的な出来事など、映像を通して彼が伝えようとしたメッセージについて、話を聞いた。(Jun Fukunaga)

中野雅之の意志で実現したワンカメでのライブ撮影

ーーどういった経緯で本作の監督をされることになったのでしょうか。

岩井正人(以下、岩井):もともと昨年12月18日にUSEN STUDIO COASTでTHE SPELLBOUNDのライブが決定したことで、Tongpooさんの方でドキュメンタリーを制作するという話が持ち上がったと聞いています。そこで、BOOM BOOM SATELLITESのドキュメンタリーやライブ映像作品に10年以上関わってきた僕に、Tongpooさんから声がかかったことで監督を務めることになりました。

ーー本作は昨年のTHE SPELLBOUND初ワンマンライブから年末のワンマンライブまでが描かれますが、実際にはどれくらいの期間に渡り撮影されていたのでしょうか。

岩井:撮影自体は初ワンマンの2カ月くらい前からスタートして、撮影が終了する年末のワンマンまでの約半年の間に20回ほど取材に行かせてもらいました。

ーーその半年の間に初ワンマン、フジロック、年末のワンマンというTHE SPELLBOUNDにとって、3つの象徴的なライブが行われましたが、その期間を取材したのはどのような理由からでしょうか。

岩井:もともとはフジロックまで密着して、USEN STUDIO COASTでのワンマンの前にドキュメンタリーとして配信しようというスケジュールでした。ただ、諸事情によりフジロックの映像が使えないということが途中で発覚したんです。最初の構成は、フジロックありきで考えていたこともあって、そこがないとなると作品的にもツボがなくなるし、終わり方も難しいと思いました。そこでバンドと再度協議をした結果、USEN STUDIO COASTまでを作品に入れ込んだ方がアルバムのプロモーションにも繋がるし、ストーリーとしても描きやすいんじゃないかということで、そういった構成になりました。

ーー本作ではワンカメ撮影を軸に、ライブやレコーディングの舞台裏まで撮影されていますが、岩井さんは、バンドの初ワンマンでもワンカメ撮影で臨場感のある映像を撮影しています。なぜ、その手法で撮影されたのでしょうか。

岩井:ドキュメンタリーに関しては、僕がもともとそういうスタイルでこれまでも撮ってきたということが理由なのですが、ワンカメ撮影で初ワンマンを撮ったのは中野さんからの提案でした。実はBOOM BOOM SATELLITESの頃から同じようにワンカメ撮影でライブ映像を撮っていましたが、中野さんがそのスタイルで撮る僕の映像を気に入ってくれたこともあって、その頃から「どんどんステージ上に入ってきて撮っていいよ」とは言ってもらっていたんです。でも、そうは言ってもなかなか気持ち的に遠慮するところもあって難しかったので、実際は舞台の袖からちょっと出てきて撮るみたいな感じでしかやっていませんでした。

 ただ、中野さんから「今回のTHE SPELLBOUNDの初ワンマンは配信もするからワンカメで思いっきりやってほしい」と改めて言っていただけたこともあって、そういうことだったら僕としてもぜひやらせてほしいということになり、全編ワンカメでのライブ映像の撮影になりました。

ーーワンカメ撮影がご自身のスタイルということでしたが、その魅力はどのようなところにあるのでしょうか。

岩井:ドキュメンタリーは、自分の奥の目線みたいなところも作品になるというか、僕の目線を通して映像を観ている人にその物語を伝えることができます。ワンカメ撮影は、僕がストーリーを考えながら撮影できるので、自分の目線を通して、伝えたいものが伝えやすい。そこがワンカメ撮影の魅力だと思っています。

「死ぬ気で音楽をやっている姿に触れてほしい」

ーー本作の撮影期間中に中野さんと小林さんの関係性はどのように変化してきたと思いますか。

岩井:中野さんに関しては、やりたいことや目指していることはBOOM BOOM SATELLITESの頃からずっと変わっていないように思います。でも、それに対して小林さんの覚悟がまだ決まっていない状態でバンドが動き出したこともあって、最初は戸惑う部分もあったかと思います。ただ、小林さん自身もそれからリハーサルやライブ、音源制作を重ねていくうちに段々と今自分がやっていることの意味を理解し始めたというか。小林さんがミュージシャンとして成長していくことで、中野さんと同じ目線で音楽に向き合っていくようになったことが2人の関係性において、一番大きな変化だったと思っています。

中野雅之

ーー中野さんのプロデューサーとしてのこだわりが感じられるシーンも多く見応えがあり、そのリクエストをめぐって小林さんと試行錯誤しながら音楽に取り組むシーンも印象的でした。ライブ制作の裏側なども描かれましたが、裏側を見せることで何を伝えようとしたのでしょうか。

岩井:中野さんは、普通だったらこれくらいでいいかと思って妥協してしまうようなことでも、本当に一切妥協しないし、側から見ていても死ぬ気で音楽をやっている覚悟を感じるんです。でも、それは僕が中野さんと密接に関わったからこそ、知り得たことなので、ただ彼らの音楽を聴いているだけだとなかなか伝わりづらい部分かと思います。今回はライブの準備にしろ、音源制作にしろ、そのような彼の人間性が垣間見れるようなシーンもドキュメンタリーで使う許可をいただけたこともあって、そこは意識的に本編に入れ込んでいます。なので視聴者には、僕の目線を通して、そういった部分にも触れてもらえると嬉しいですね。

小林祐介

ーー本作ではライブ時のファンへのインタビューやインスタライブでのファンのコメントが映し出されるシーンなどもありましたが、そういったところにバンドとファンの関係性が描かれているように思いました。そのようなシーンを盛り込むことにしたのはどういった理由からでしょうか。

岩井:撮影を始めた当初は、中野さんと小林さんがバンドを組むことに対して、それまでそれぞれのバンドを追いかけてきたファンの中には複雑な気持ちを抱えていた人もいるとお聞きしています。そういう人に対して、誤解を解くというか、ファンの気持ちをひとつにしたいということもこのドキュメンタリーを制作する目的のひとつだったので、バンドとファンの距離がより縮まるようなシーンも今回は意識的に撮影していきました。

 その意味でインスタライブのシーンは、ドキュメンタリーを観ているファンにとっては、すごく距離感が近く、生な印象を受けるシーンだと思いますね。2人の本音が出てくるような現場の裏側をファンが見られる機会はなかなかないと思うので、今回はそういったところも撮影させていただきました。

ーー撮影期間中にバンドとファンの距離は縮まったと思いますか。

岩井:そうですね。やっぱりバンドがスタートしてからのこの1年でお互いの距離はすごく近くなったというか、これまでちゃんと受け入れることができなかった人たちにとっても、バンドの存在がより受け入れられるようになったと思います。僕が撮影を担当した初ワンマンのライブ配信はその大きなきっかけになったと思いますが、何より2人の姿勢がちゃんとファンに届いているような印象を受けました。

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